第170回芥川賞・直木賞が発表され、芥川賞は九段理江の『東京都同情塔』、直木賞は河崎秋子の『ともぐい』と万城目学の『八月の御所グラウンド』が受賞した。
『東京都同情塔』は、犯罪者が快適に生活できる高層タワーのような刑務所「シンパシータワートーキョー」が建設され、寛容な社会になった架空の東京が舞台。生成AIが浸透した社会で、犯罪者に寛容になれない建築家の牧名沙羅が仕事と信条のギャップに苦悩しながらも収容施設の設計に挑み、たくましく生きていく姿を描いた作品。著者の九段理江は、1990年埼玉県生まれ。2021年『悪い音楽』で第126回文学界新人賞を受賞しデビュー後、2023年発表の『しをかくうま』で野間文芸新人賞を受賞。デビュー3年目にして2023年12月号『新潮』に掲載された同作で、芥川賞を受賞した。


『ともぐい』は日露戦争前夜の北海道を舞台に、 人里離れた山の中で暮らす猟師を描いた物語。激しく時代が移ろいゆく中で、野性の凶暴な熊にひとり対峙する猟師の様子を描いている。著者の河崎秋子は、同作の舞台でもある北海道生まれ。デビュー作である『颶風の王』は三浦綾子文学賞を受賞しており、他書でも直木賞候補作となった『絞め殺しの樹』など、複数の作品で文学賞を受賞している。


同じく直木賞受賞の『八月の御所グラウンド』は、京都を舞台とした2編を収めた青春小説。表題作では、8月の京都で開催された草野球大会に参加することになった男子大学生と、とある人物の出会いを描いた物語で、「十二月の都大路上下ル」は、冬の都大路がコースの全国高校駅伝に先輩の代わりに突然出場することになった方向音痴の女子高校生が、駅伝の最中に経験した不思議なできごとを描いている。著者の万城目学は 1976年大阪府生まれ。京都大学法学部を卒業後、2006年『鴨川ホルモー』でデビュー。映像化された『鹿男あをによし』や『プリンセス・トヨトミ』の他、小説やエッセイ作品など数々の作品を残している。

