『日本映画業界の制作現場におけるジェンダー調査2023冬』の結果が公開された。
同調査は、2021年以降、一般社団法人Japanese Film Project(JFP)によって行われてきた。今回の調査では前回の調査対象だった「実写映画」に加えて「アニメ映画」も対象とし、業界におけるジェンダー格差と労働環境についてを可視化するものとなっている。
映画を対象とした調査では「興行収入10億円以上の実写邦画作品におけるスタッフのジェンダー格差」「2022年の劇場公開作品におけるジェンダー格差」「興行収入10億円以上のアニメ邦画作品におけるスタッフのジェンダー格差」の3つを実施。
興行収入10億円以上の作品を対象とした2調査では、「監督 / 撮影 / 録音 / 照明 / 編集 / 作画監督 / 美術監督」などの役職を「意思決定役職」、「助監督 / 制作進行 / 編集助手 / 美術助手」などの役職を「アシスタントスタッフ」に分類。作品のエンドロールを基に、各ジェンダー比率を算出した。
双方の調査において、「意思決定役職」と「アシスタントスタッフ」のジェンダー比率には有意差が見られた。この有意差は実写作品の方が顕著にみられ、実写映画の監督 / 録音 / 照明の「意思決定役職」は女性が0人だった。編集においては「意思決定役職」が女性1人に対し「アシスタントスタッフ」が女性6人となっており、約6倍差となる。一方で、「美術」では「意思決定役職」の女性が14人中4人(29%)、「アシスタントスタッフ」の女性が26人中21人(81%)と高い比率となった。また、アニメ映画では「意思決定役職」に相当する作画監督 / 作画総監督は女性が160人中65人(41%)、「アシスタントスタッフ」に相当するアニメーターは女性が1952人中1137人(58%)となるなど、実写映画に比べて女性比率が高くなっている。
また、「2022年の劇場公開作品におけるジェンダー格差」の調査では、映画年鑑に掲載されている劇場公開作品を対象とし、「意思決定役職(プロデューサー職)」と「アシスタントスタッフ(制作)」のジェンダー比率、「監督 / 撮影 / 照明 / 録音 / 編集 / 脚本 / 美術」のジェンダー比率を算出。また、劇映画(フィクション)とドキュメンタリー、大手5社(東宝 / 東映 / 松竹 / 角川 / 日活)とそれ以外という分類でも各比率が算出されている。
調査において、意思決定役職であるプロデューサー職は女性比率12%に対し、アシスタントスタッフに相当する制作職は女性比率37%で、約3倍の差が生まれている。どの職種においても女性比率は低い結果となっており、最も低い照明職では4%だった。また、前回調査と比較可能な「監督 / 撮影 / 照明 / 録音 / 編集 / 脚本 / 美術」のジェンダー比率に関しては、照明職で女性比率が1%アップした以外は、すべて微減または増減なしの結果となった。
調査結果から、いくつかの事項が推察できる。「2022年の劇場公開作品におけるジェンダー格差」の調査では、2022年に公開された映画が613本と前回調査から約1.3倍になったにも関わらず、女性比率が微減および増減なしにとどまっている。本数が増えるにつれて「意思決定役職」を経験できる人数は単純に増加するはずだが、前述の結果となったことは憂慮すべき事項である。
映画制作は一般的に多くの時間を費やすものであり、業界の内情をリアルタイムに数値で反映させることは難しい。例えば現在制作が行われている映画が公開され、調査対象となり、結果が反映されるまでには数年の月日を要するだろう。今回の調査で新たに可視化されたジェンダー格差も踏まえつつ、今後の数値の改善に期待していきたい。
なお、今回の調査を受けて、相模女子大学大学院特任教授 / ジャーナリストの白河桃子からの取材レポート、横浜国立大学教授の須川亜紀子からの寄稿文が公開されており、JFP公式サイト内の調査資料の中で確認できる。また、同サイトでは演劇業界を対象とした『日本演劇領域におけるジェンダー調査2023冬』も同時に発表されている。
調査結果から見えてきたこと(JFP資料より引用)
①興収10億円以上の実写邦画に関して、意思決定層(監督・撮影・録音・照明・編集・美術)では女性比率が低く、それに対し、それらのアシスタント(助監督・監督助手・撮影助手・録音助手・照明助手・編集助手・美術助手)においては女性比率が高い結果となった。両者の間に、ジェンダー格差が見られた。
②興収10億円以上のアニメ邦画に関して、意思決定層(監督・演出・作画監督・美術監督・脚本・音楽監督・キャラクターデザイン・撮影監督)と、それらのアシスタント(アニメーター・制作進行・美術・背景美術など)において、ジェンダー格差が存在した。
③映画年鑑に掲載されている劇場公開作品において、「プロデューサー職」と「制作職」を比較すると、「プロデューサー職」の女性比率が低い結果となった。
④「監督・撮影・照明・録音・編集・脚本・美術」のジェンダー比率は、調査を始めた2019年から4年間で大きな変化はない。むしろ、女性比率の減少が見られた。
参考:2022年度(令和4年)興行収入10億円以上作品 (令和5年1月発表)