航空自衛隊航空救難団に所属する救難員、通称「PJ(パラレスキュージャンパー)」を育てる「救難教育隊」の選ばれし訓練生たちと教官たちの物語を描いたドラマ『PJ ~航空救難団~』(テレビ朝日系)。
内野聖陽が『臨場』シリーズ以来、15年ぶりにテレビ朝日の連続ドラマに主演することでも話題となった本作は、航空自衛隊の全面協力によるリアルな訓練シーンや救難活動、“時代錯誤”とも思われるような教育・指導のあり方が、令和の視聴者に新鮮な感動を巻き起こしている。
豪華スタッフと注目の若手キャストによる人間ドラマも魅力の本作について、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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“命と心”を救う航空救難員を目指す若者と大人のドラマ

熱血、根性、情熱――救難教育隊を舞台にしたドラマ『PJ ~航空救難団~』は、まさにそんな言葉がぴったりの作品だ。第1話では、テレビで流れた自衛隊が遭難者を救助したというニュースに対して、「これ自己責任っしょ」「マジで税金のムダ」とつぶやく描写もあったが、自己責任論や冷笑主義が加速している現代。救難教育隊を全力で駆け抜ける彼らを「時代錯誤」と嗤う人もいるかもしれない。それでも、“命と心”を救う航空救難員になるため、過酷な訓練に立ち向かう訓練生たちのひたむきな姿は、毎週、私たちの胸を熱くさせる。
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背景もキャラクターも異なる7人の学生たちと始まった厳しい訓練生活

航空自衛隊の航空士職域のひとつ「航空救難員」を目指す救難教育隊の訓練生たちと、彼らを導く主任教官・宇佐美誠司(内野聖陽)を中心とした教官たちの1年間を描く『PJ ~航空救難団~』。「パラレスキュージャンパー」を意味する本作は、監督は『JIN -仁-』『義母と娘のブルース』(TBS系)などで知られる平川雄一朗、脚本は映画『東京リベンジャーズ』シリーズの髙橋泉がオリジナルストーリーを手がけ、航空自衛隊が全面協力していることもリアリティーに寄与している。航空救難団とは、他の救難組織が救助困難と判断した現場に赴く、「人命救助最後の砦」とも言える存在だ。航空自衛隊の中でも、選び抜かれたエキスパートたちだけがその任務にあたる。年に1回の選抜試験の倍率はおよそ5倍。わずか4~5人だけが卒業できる極めて狭き門だ。
桜が咲き誇る春、厳しい訓練生活は7人の学生たちとともに始まった。幼い頃に航空救難団に助けられた沢井仁(神尾楓珠)。選抜試験で女性初の合格者となった藤木さやか(石井杏奈)。自分が育った養護施設の子どもたちのヒーローになるため、航空救難員を目指す白河智樹(前田拳太郎)。自衛隊幹部の父を持つ長谷部達也(渡辺碧斗)。「日本人として生きたい」という思いからその門を叩いた西谷ランディー(草間リチャード敬太)。ラストイヤーでチャンスを掴むも家庭との狭間で揺れる学生長・東海林勇気(犬飼貴丈)。みんなのムードメーカー・近藤守(前田旺志郎)。ドラマでは一部の脚色はあるものの(さすがに消防ホースでの水かけはやらないらしい)、プールでの立ち泳ぎや呼吸停止の訓練、教官たちの厳しい叱咤のもと行われる筋トレなどは、実際の航空救難団の訓練プログラムを忠実に再現している。
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スペシャリストを育成する教官と学生たちの物語

先日放送された第5話では、それまで人一倍の志を抱いていた藤木が救難員課程を自ら辞退した。卒業後に彼らが立ち向かうのは、決して手加減してくれない自然の脅威。海であれ山であれ、救難員の現場は場所を問わず、状況も選べない。人命を救うという使命の前では、過酷な試練を乗り越える精神力と相応のフィジカルが求められるのだ。
さて、「スペシャリストを育成する教官と学生たちの物語」と聞いて、フジテレビ系列のドラマ『教場』シリーズを思い浮かべた人も多いはずだ。『教場』では冷酷無比な教官・風間公親(木村拓哉)が、警察官としての適性がないと見なした学生に、容赦無く退学届を突きつける。スペシャルドラマ版の『教場』と『教場Ⅱ』は、いずれも警察学校を舞台に、風間の厳しい観察眼のもと、学生たちが無事に卒業できるかが一つの焦点になっていた。
『教場』と『PJ』で明らかに異なるのは、指導教官である風間と宇佐美の描かれ方だ。風間は、「越えるべき壁」として厳然と立ちはだかり、風間の存在自体が学生たちに覚悟を問う。一方の宇佐美は厳しいだけの存在ではない。熱血教官でありながら、学生たちにとっては、頼れる大人の代表として描かれているのだ。
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宇佐美に見る“ありし日の大人”の姿

一見するとパワハラとも受け取られかねない厳しい訓練は、訓練生たちの実力を試すだけではない。「自分で追い込むには限界があるから、俺たちが追い込むんだ」と語る宇佐美には、指導者としての意志が垣間見える。その後の「俺たちは究極のドSとドMの関係なんだよ」と冗談めいたセリフを聞いたときは、宇佐美の娘・勇菜(吉川愛)のようにギョッとさせられたたが、その言葉の裏には救難員本人の安全を守るため、そして救助対象者の命を救うために、常に肉体的にも精神的にも限界を超えつづけなければならない航空救難団の厳しさが滲む。
学生たちと全力で向き合う宇佐美には、どこか「父」を思わせる瞬間がある。たとえば第1話。幼い頃に雪山で父を亡くした沢井は、自分だけが生き残ったことに深い後悔を抱えている。自分のせいで父が死んだのではないかという罪悪感から、命を犠牲にしてでも誰かを助けるべきだと涙する沢井に、宇佐美は「自分が救われたいだけじゃないのか?」と問う。そして「俺が必ずお前を一人前の救難員にしてやる」「だから、お前はお前を許してやってくれ」と迷いのない言葉で背中を押した。沢井を責めも突き放しもせず、「許してやってほしい」という宇佐美の言葉には、彼自身が背負う責任が見えた。
さらに、養護施設育ちの白河にスポットが当たった第3話では、相撲を通して、全力で彼の孤独を受け止めた。「俺たち教官だってな、お前たちのためだけにいるんだ。もっと甘えていいんだぜ。家族みたいに……よ」とはにかむ宇佐美に、少し気恥ずかしさを感じた人もいるかもしれない。「時代と逆行している」と言う人もいるだろう。だが、こんな時代だからこそ、宇佐美のように真正面から若者と向き合い、責任を引き受けようとする「大人」の存在はひときわ貴重に感じられる。もしかしたら、私たちは、“ありし日の大人”の姿を宇佐美に重ねているのかもしれない。叱ってくれて、支えてくれて、ときに寄り添ってくれた、子どもの頃に出会った誰かを。
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現代における“最後の砦”となるドラマに

日々、全力で物事に打ち込む宇佐美たちの姿は、なにかが欠けた現代人の心に、ふたたび火を灯してくれるようでもある。冒頭でも触れたように、今は、自己責任論や冷笑主義が加速している時代だ。けれどそれは、人々の心が冷たくなってしまったからばかりではなく、不安と隣り合わせの厳しい社会へと変わりつつあるからだと思う。そうした時代に、「教える人と教わる人が真剣に生きる」姿を描くドラマ『PJ』は、現代における“最後の砦”になり得るのではないだろうか。
『PJ ~航空救難団~』

テレビ朝日系にて毎週木曜よる9時から放送中
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/pj/