航空自衛隊航空救難団に所属する救難員を育てる救難教育隊を舞台に、教官たちと訓練生たちの熱い人間模様を描き続けてきたドラマ『PJ ~航空救難団~』(テレビ朝日系)が最終回を迎える。
同期訓練生の藤木(石井杏奈)と長谷部(渡辺碧斗)との別れや、教官・仁科の壮絶な最期を乗り越え、厳しい訓練や熱血教官・宇佐美(内野聖陽)をはじめとした教官たちに対してだけでなく、自分自身とも向き合い続ける訓練生たちの成長を描いてきた本作。
最終回を前にした第8話では、ついに沢井(神尾楓珠)と宇佐美が、2人の運命を変えた12年前の雪山での遭難事故に向き合うことに。
事故現場や訓練シーンも壮大なスケールで描かれてきた本作について、第5話までを振り返った記事に続いて、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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最終回、いよいよ救難員課程も最終段階へ

人命救助のスペシャリストたちで構成される航空救難団の救難員、通称「PJ(パラレスキュージャンパー)」を目指す学生たちと、彼らを指導する熱血教官・宇佐美(内野聖陽)を中心とした教官たちとの訓練生活を描いたドラマ『PJ ~航空救難団~』。1年間に及ぶ過酷な旅路も、いよいよゴールが迫っている。
事故・災害時など特に過酷な状況下で救難活動を行うために「人命救助最後の砦」とも呼ばれるPJ。航空自衛隊の中でも、超難関の選抜試験を突破した精鋭だけに、その門を叩く権利が与えられる。常に命の危険と隣り合わせの現場を想定した訓練は、どれも並大抵の覚悟では乗り越えられない。早朝の鍛錬に始まり、水泳経験者ですら苦戦するプール訓練、30キロの荷物を背負い、わずか2リットルの水だけでやり過ごさねばならない2日間の山岳実習など過酷な訓練を続けてきた学生たち。そして、ついに最終回では、救難員課程の最終段階にあたる、落下傘降下訓練の本番が描かれる。
「やる気ないのか? お前もう帰れよ」「ビビってんじゃねえよ!」「いつまでたっても現場出せねえぞ!」――令和7年に放送されるドラマとは思えぬ、激しい怒号と罵声が飛び交う宇佐美たち教官による超スパルタ訓練に、眉をひそめたのは私だけではないだろう。序盤はわかりやす過ぎるくらいの“厳しさ”に、ただ圧倒された。だが、生半可な覚悟では到底立ち向かえない彼らの日常を見守るうちに、いつしか私も、襟を正すような面持ちでテレビに向かうようになっていたのである。思えばそれは、卒業論文のために航空救難団に密着していた宇佐美の娘・勇菜(吉川愛)が、長らく疎んでいた父・宇佐美に「お父さんの仕事を誇りに思うよ」と言えるようになった変化とも重なる。
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宇佐美が過去と向き合い、航空救難団の存在意義が描かれた後半戦

一人前のPJを育てる救難教育隊の過酷さに焦点をあてた前半戦。7人でスタートした訓練生もいまや5人に。選抜試験初の女性合格者として期待されていた藤木(石井杏奈)は、山岳訓練で重傷を負い、第5話で無念の辞退。自衛隊幹部の父に反発し、キャリアではなく現場の道を選んだ長谷部(渡辺碧斗)は、宇佐美の背中を見つめるうちに、指導者への夢を抱き、第7話で新たな道に旅立った。現在残っているのは、沢井(神尾楓珠)、白河(前田拳太郎)、西谷(草間リチャード敬太)、東海林(犬飼貴丈)、近藤(前田旺志郎)だ。
後半戦は、圧倒的な体力と精神力で学生たちを導いてきた熱血教官・宇佐美の拭いきれない過去への後悔と同時に、航空救難団という組織そのものの存在意義が描かれた。
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学生たちに仁科の死と向き合わせたことの意味

視聴者にも大きなショックを与えたのが、第7話における救難員・仁科(濱田岳)の死だ。宇佐美にとっても、初めて卒業させることができた訓練生の一人だった。「俺が宇佐美さんに憧れてPJを目指したように、学生たちの心に火ぃつけてやりたいんスよ」と熱く語っていた仁科は、まさに宇佐美マインドを受け継ぐ熱い指導教官ながらも、比較的、年齢が近い学生たちの“兄貴”的存在でもあった。
精鋭が揃う救難教育隊の指導教官たちも、緊急時には出動を命じられる。仁科たちが向かったのは、長野県で発生した線状降水帯による大規模災害。崖上にある校舎前で倒れていた松井(笠原秀幸)を救出したものの、構内から松井の娘・恵理(瑠璃)の泣く声を聞いた仁科は、迷わず室内に足を踏み入れる。中林(高岸宏行)や森野(野村麻純)の反対を押し切り、「未来救わない大人がどこにいる」という仁科の声には、宇佐美と同様に大人としての覚悟を感じた。
しかし、自然の脅威は容赦なく仁科たちを襲う。恵理は松井と共に無事に助け出されたものの、ヘリコプターでの収容中に校舎前で待機していた仁科が一人、斜面崩落に巻き込まれてしまったのだ。

絶望的な状況の中で恵理に対して必死に希望を唱え続けた仁科。そして、夫を失い、胸を裂かれるような悲しみの中で「私だけは褒めてあげたいんです」と仁科の選択を肯定した妻の芽衣(黒川智花)。本作の中でも重要なエピソードを託された濱田と黒川の芝居は圧巻だった。

他の教官から学生たちの心のケアが最優先だといった声が上がる中、宇佐美はあえて、仁科の救難活動について学生たちと検証したいと同僚教官たちに提案する。この恐怖や痛みを忘れる前に、学生たちに口に出して考えさせたい。それは、亡くなった仁科の判断が「正しかったか」「間違っていたか」を問うためではない。日頃の救助訓練において、改善できる点はないか。訓練中の判断ミスが、実際の現場でどんな結果を生みうるのか。仁科の死と向き合うことは、航空救難団の未来に繋げるための行為だ。それは、12年前に沢井の父・幸三(和田正人)を救えなかった後悔を抱える宇佐美が、ずっと続けてきたことでもあった。
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宇佐美と仁科の「俺たちは天使だ」に込められたもの

仁科に関するエピソードの中で、もう一つ印象的な場面があった。恵理を救助ヘリに送り出す直前、「おじちゃんはひとりで大丈夫?」という小さな問いかけに、仁科は「当たり前だ! 俺たちは天使だぜ!」と力強く答えるのだ。この「天使」という言葉は、宇佐美もたびたび口にしている。そもそも、初登場時の宇佐美は「俺たちは天使だー!」と叫びながら、ヘリコプターで颯爽と空から舞い降りていた。
この「俺たちは天使だ」という言葉は、自分たち救難員が「神」ではないことを意図しているのではないだろうか。全知全能の神ではない以上、すべての命を救えるとは限らない。助けられるのが「人」ならば、助けるのも「人」。救難員たちにとっても、死は常に隣り合わせだ。だからこそ、宇佐美も仁科も自らのことを「天使」と呼ぶ。それは、どんなに絶望的な状況でも、人命救助最後の砦として、人と神の間の存在として、一筋の光でありたいという宇佐美と仁科の強い願いが込められていた気がしてならない。