『最後から二番目の恋』(2011年)、『最後から二番目の恋2012秋』、『続・最後から二番目の恋』(2014年)に続いて11年ぶりに始まったドラマ『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)が、いよいよ最終回を迎える。
最終シリーズと銘打ってはいないが、これまでのシリーズを振り返らずにはいられない、まさに「神回」の連続で、『続・続』で一つの区切りを迎えそうな本作。
吉野千明(小泉今日子)と長倉和平(中井貴一)をはじめ、真平(坂口憲二)・万理子(内田有紀)・典子(飯島直子)らレギュラーメンバーは変わらず、新たに成瀬千次(三浦友和)や早田律子(石田ひかり)など主人公2人の恋を阻むような新メンバーも登場し、更には、最終回直前の第10話では、典子(飯島直子)の夫・広行(浅野和之)まで本格的に再登場するなど、懐かしさと新しさが共存する唯一無二のドラマとなっている。
2012年1月の放送開始から13年半の歴史を持つ本作について、第5話までを振り返った記事に続いて、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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令和7年のセカンドライフを考えるドラマ

『最後から二番目の恋』、『最後から二番目の恋2012秋』、『続・最後から二番目の恋』を経ての『続・続・最後から二番目の恋』は、還暦目前の59歳になった吉野千明(小泉今日子)と還暦を越えた63歳の長倉和平(中井貴一)を中心に、それぞれのセカンドライフを考える作品になった。そういえば『続・続』第1話は、社内のセカンドライフセミナーに参加する千明のシーンから始まっていたではないか。今後の人生プランについて熱心に筆を走らせる人たちを横目に、千明はこんなことをボヤいていた。
「セカンドライフねぇ……。えっ? もう一回生きんの?」
いまや「老後2000万円問題」なんて言葉も出てくる時代。人生のほとんどを「失われた30年」で過ごした平成生まれの私としては、この国で景気の良さを実感したことはあまりない。バブル景気も知らず、これからの日本はますます先細りしていくのではないかと、不安が募るばかりの毎日で、老後を考える余裕がどこにあるのか。セカンドライフという言葉の通り、人生をもう一回やる体力が将来の私に残っているのだろうか。——いまを生きるのも精一杯なのに!
そんな現実も頭を過る『続・続・最後から二番目の恋』は、令和7年という時代の空気を見事に捉えながらも、11年経っても相変わらず格好良く、ファンキーに生きる大人たちの姿を描いている。ドラマ制作部のゼネラルプロデューサーになった千明は、定年まであと1年となった59歳の年に、社内で募集された月9ドラマの企画に「チーム千明」一丸となって挑戦することになった。長年、管理職を務めていた千明のクリエイター魂を再燃させたのは、万理子(内田有紀)が自身の想いをもとに書き上げた“究極の片思いドラマ”だった。
一方、還暦を超えた和平は、定年を迎えた後も観光推進課の「指導監」として復職。相変わらず部下の尻拭いばかりさせられていたが、ある日、現鎌倉市長の伊佐山(柴田理恵)から「次の鎌倉市長にならないか」と白羽の矢が立つ。人生のビッグチャンスに心揺らいだものの、現状こそが自分の描いた“夢”そのものだと気づいた和平は、新たな挑戦を「しない」という道を選んだ。
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“吉野千明にならなかった女性”としての専業主婦・典子

ファンにとっては『最後から二番目の恋』シリーズの続きを待ちに待った11年間だったが、令和7年のいまだからこそ、本作の一つのテーマとして、より鮮明になったものもあった。それは、“吉野千明にならなかった女性の物語”だ。一昔前のドラマは、千明のように恋に仕事に奔走し自ら物語を引っ張る、王道ヒロインものが多かった。一方、『最後から二番目の恋』は13年前のシリーズ当初から、和平の妹で専業主婦の典子(飯島直子)を通して、“千明にならなかった女性の物語”も同時に描いてきた。そして、今回の『続・続』ではさらに、典子が内面に抱える複雑な気持ちが顕著になっていった。
そもそも『続・続』から本作を観た人の中には、典子のことを、育児を終えて自由気ままに過ごす専業主婦……だと思う人もいるだろう(あながち間違ってはいないのだが)。朝から颯爽と長倉家に突撃しては、下世話な話をして周囲の度肝を抜く典子だが、恋愛遍歴は意外にも少ない。それは、学生時代の教師だった広行(浅野和之)と結婚し、愛する夫と息子のため、一途に主婦業をやってきたからだ。けれど、大恋愛の熱も束の間。成人になった息子は独り立ちし、ロマンを追い求めた夫は家を出て、どこを彷徨っているかもわからない状態になってしまった。
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2011年から専業主婦の孤独を描いていた先見の明

きっと多くの視聴者が、典子に対して「おっ?」と思ったのは、彼女が、働く女vs専業主婦の対立を語った『続・続』の第3話だろう。
「なんかほら、『女性も色々黙ってないぞ! ふざけんな』みたいな空気?あるじゃんその空気の中だとさ、なんだろう。分が悪いっていうのかな、専業主婦の方が」
「いや別に、私たちがダメって言ってるわけじゃなくてね。“闘ってない”っていうのかな……そう思っちゃう時があるんだ」
その後の千明との素晴らしいやり取りはぜひ本編を観てほしいのだが、2011年の『最後から二番目の恋』でも、千明のように働く女は、自分みたいな専業主婦を軽蔑してるんじゃないかと、典子が不安をこぼす場面があった。時代が進んでも、専業主婦に向けられる社会からの目線は一向に変わっていない。だが、当時より典子のセリフに共感の声が集まったのは、朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)の花江(森田望智)や、『続・続』と同クールに放送されていた『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系)の詩穂(多部未華子)のように、専業主婦の孤独や疎外感を描いた物語が、少しずつ増えてきた“いま”だからこそだろう。
「母」として「妻」として生きてきた典子が、突然その役目から解放されたことで、虚しさを表明する場面が増えたのは切なかったが、一念発起してエッセイを執筆し始めたことで、自分の人生の“主語”を取り戻したかのように、生き生きとしていったのは微笑ましかった。かつて「自分には何もない」と嘆いていた彼女が、日々の生活からヒントを得て文章を紡ぎ、それが彼女を社会に接続させるきっかけになるという素晴らしいエピソードだ。
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第二の人生へと進もうとする啓子を祝福する“ダンスに間に合う”

“千明にならなかった女性”として、私がもう一人、気になった存在が、千明の友人・啓子(森口博子)だ。出版業界に勤める啓子は、テレビ業界の千明や音楽業界の祥子(渡辺真起子)とともに、オシャレなお店で女子会を楽しむ独身仲間である。華やかな業界だが、不景気で出版社も厳しい状況。啓子曰く、売り上げが好調なコミックの部署の前を通る際は、つい拝んでしまうらしい。
『続・続』の第8話で彼女の話を聴く前までは、千明と同じ独身で仕事人間――そんなふうに思っていた。しかし、第8話で、啓子は定年で会社を辞めようとしていると、千明たちに打ち明ける。啓子は『続』で名古屋への転勤したのだが、あの名古屋こそ、自分のキャリアの最終地点だったと涙ながらに語るのだ。
現実には、啓子のような人のほうがずっと多いのではないだろうか。千明や祥子のようにバリバリ働き、然るべき地位まで辿り着けるのは、ごく一部の人間だけだ。女性ならば、なおさら。先の見えない時代、キャリアに限界を感じながら働く人は多い。だが、ドラマなどでは、なかなか取り上げられなかった人たちだ。だからこそ、啓子のようなキャラクターが令和7年のドラマで描かれた意味は大きい。
今の仕事を辞めた後のことは、啓子自身にもわからない。ただ、生活のために働かなくてはいけないことだけは確かだ。不安は尽きない。けれど、「友達でいてね」と涙ぐむ啓子を抱きしめる千明と祥子、そこに生バンドで流れる思い出野郎Aチーム“ダンスに間に合う”は、第二の人生へと進もうとする啓子を祝福するかのように響き渡っていた。
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セカンドライフを迎えるあらゆる人たちへのエール

第6話の千明が「色々いた方が絶対面白いですよね』と語っていたが、『続・続・最後から二番目の恋』は千明や和平や典子たち、啓子と祥子、そして、新たに登場した成瀬(三浦友和)や律子(石田ひかり)に至るまで、あらゆる人たちのセカンドライフないし人生の第二章を描くドラマだった。その選択が今後どうなるかは人それぞれだが、どの選択にも脚本を手がけた岡田惠和氏からのエールが込められているように思う。
「よく頑張って生きてきた。そう言ってやろう。そして、これからを夢みよう。世界を嘆くのではなく、世界を信じるんだ。私だって、その世界の一員なのだから」
これは前シーズン『続』の最終回における千明の言葉だ。私が千明くらいの年齢になったとき、世の中はどうなっているんだろう。まだ不安はつきないけれど、世界を信じてさえいれば、セカンドライフだって、ファンキーに過ごせるはずだ。
『続・続・最後から二番目の恋』

フジテレビ系にて毎週月曜よる9時から放送中
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/nibanmeno_koi/