グータッチでつなぐ友達の輪! ラジオ番組『GRAND MARQUEE』のコーナー「FIST BUMP」は、東京で生きる、東京を楽しむ人たちがリレー形式で登場します。
5月21日は、WEBディレクターの石黒宇宙さんからの紹介で、俳優の渋谷采郁さんが登場。役作りの方法についてのほか、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』に出演した際に受けた影響や、『ナミビアの砂漠』での山中瑶子監督による演出方法などについて伺いました。
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演じる役について、台本に書かれていない部分まで考えて作り込む
Celeina(MC):渋谷さんは映画『ハッピーアワー』への出演をきっかけに、俳優として活動を開始。主な出演作に、チェルフィッチュの舞台『『三月の5日間』リクリエーション』、映画『悪は存在しない』『ナミビアの砂漠』などがあります。またポッドキャストを配信したり、マームとジプシーによるプロジェクト「ひび」のメンバーとして作品展示を行うなど、創作活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいます。
タカノ(MC):やっぱり気になるのは『ナミビアの砂漠』ですね。去年、年間ベストに挙げる方も多い作品だったんじゃないかと思います。渋谷さんはカウンセラー役で出演されていますが、僕は映画を観た時に俳優じゃなくて、本物のカウンセラーの方かなと思ったんですよ。
Celeina:すごかったですよね。優しさの中にどこかドライな感じも垣間見えて、リアルで引き込まれました。役作りにはどのように取り組まれたんですか?
渋谷:『ナミビアの砂漠』では、カウンセラーの葉山という役を演じたのですが、私自身はカウンセリングを受けたことがなかったので、まずカウンセラーはどんな仕事なのか、というところから勉強しました。
タカノ:そこからだったんですね。
渋谷:職業的な面だと、実際のカウンセリングの動画をYouTubeで探して、カウンセラーの方のうなずき方とか、相槌のタイミングを研究しました。あとはカウンセラーになりたい人が読む教材を読んで、何を意識して話を聞くかも研究しましたね。さらに、葉山依という役の、台本に書いていない部分についても考えていました。普段どういう生活している人なのか、どういう友達がいるか、朝のルーティンは、とか。実際にそれを作品の中で表現するわけではないんですけど、役の普段の生活について考えると、その人物が本当に実在しているように思えるんですよね。今回の作品に限らず、そういうことは色々な作品でやります。
タカノ:俳優さんって皆さんそこまでやられるんですか?
渋谷:人によって違うと思うんですけど、私は今まで芝居のやり方を探ってきた中で、こういった役作りをするようになりました。子供の時のごっこ遊びの延長線上じゃないですが、正解はないけど、空想を膨らませていくというか。そういうことをやっていると、台本だと文字でしか見えないものが、背景を考えていくうちに本当に人として感じられる気がするんです。楽しい作業です。
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濱口竜介監督の『ハッピーアワー』への参加で、演技の基礎を学んだ
Celeina:渋谷さんは俳優歴的に言うと何年ぐらいになるんですか?
渋谷:今ちょうど10年くらいになります。
Celeina:自分の役作りのスタイルを少しずつ構築されたというお話でしたけれども、いつ頃から見えてきましたか?
渋谷:最初は本当に右も左もわからない感じでした。最初に出会った映画監督が『悪は存在しない』の濱口竜介監督だったんですが、監督から得た影響は大きかったと思います。大学時代に、濱口監督の『ハッピーアワー』という作品の撮影やワークショップに参加して、演技の基礎というか、演じることへの心構えをたくさん教えていただきました。そこから作品を経て色々な方に出会っていく中で、さまざまなやり方を少しずつ取り入れて、これは違うなと思ったらやめたりして、試行錯誤しながらやっています。
タカノ:監督によっても接し方は色々違いますよね。
渋谷:具体的に「こういうふうにやって欲しい」と自分のビジョンが明確にある方もいらっしゃいますし、「実際にやってみてください」と言われて私がやった演技に対して、「次はもうちょっとこういう感じでできますか」とか、「ここはこういう場面だからこう話してみるのはどうですか」みたいな感じで一緒に作っていくタイプの方もいます。
タカノ:『ナミビアの砂漠』の山中瑶子監督とは、現場でどういうやり取りがありましたか?
渋谷:山中さんはどちらかというと、実際にやったことに対して言葉をくださる方でした。河合優実さん演じるカナと、私が演じる葉山の場面だと、会話のタイミングを2人の間合いでやってみてくださいと言われましたね。あと「もう少し柔らかく」ということを言ってくれました。なので、あのシーンを見た人に「渋谷さんって普段からあんなに喋るのが遅いんですか」と言われたりしました(笑)。
Celeina:あくまで役ですからね。
渋谷:山中さんの演出とか、河合さんの芝居を受けて、ここではああいう感じで話すのがいいなというふうに出来上がっていった芝居です。
Celeina:私、演技は1度もしたことないんですが、共演される方や監督とのセッションみたいな感じなんでしょうか?
渋谷:そうですね。自分で準備もしていきますけど、実際にカメラの前で演技が始まったらそこで初めて生まれてくるものがたくさんあるので、聞いてそれに応えていくという点では、本当にセッションに近いと思います。
タカノ:河合優実さんとのグルーブといいますか、こう来たらこうみたいな、目に見えないやり取りがあったんだろうなと思います。