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星野源『Gen』レビュー 6年半の試行錯誤の果てに出した、ひとつの解答

2025.5.16

#MUSIC

およそ6年半の時を経て、『POP VIRUS』につづく星野源のニューアルバムがリリースされた。その名も『Gen』。なんともそっけなく多義的なアルファベット三文字だが、否応なく連想するのは星野源そのひとだ。ひさびさのアルバムが事実上のセルフタイトル作となれば、自ずとその内容には緊張感まじりの期待が高まる。たとえばそれは「原点回帰」かもしれないし、「集大成」かもしれない。けれど、実際に耳を傾けてみると、『Gen』は変化し続けるアーティストの貪欲さが詰まった、成熟を経つつもエネルギッシュなアルバムだった。

変化し続ける星野源、前作から6年のその歩み

『Gen』の話に入る前に、前作から現在に至るまでの星野源の活動をまとめておこう。音楽作品としては、SuperorganismやPUNPEEとのコラボ、あるいはトム・ミッシュの参加などが話題を呼んだEP『Same Thing』を2019年にリリース。2020年の新型コロナ禍には“うちで踊ろう”がバイラルヒットを巻き起こしたのも印象深い。その後もタイアップを中心に“創造”“不思議”“喜劇”などのシングルを発表し、コンスタントに存在感を放ってきた。特に“不思議”や“喜劇”、あるいは最新シングルの“Eureka”といったバラード曲は、これまでとは異なるサウンドの領域に踏み込んだ、次のステップを感じさせるものだった。

また、デュア・リパの楽曲“Good In Bed”へのリミックス提供、Zion.Tとのコラボ曲“Nomad”、“喜劇”のDJジャジー・ジェフとカイディ・テイタムによるリミックス、そしてSuperorganism“Into The Sun (feat. Gen Hoshino, Stephen Malkmus & Pi Ja Ma)”への参加、Netflix配信のトーク番組『LIGHTHOUSE』のメインテーマ“Mad Hope”へのルイス・コールやサム・ゲンデル、サム・ウィルクスらの参加等々、さまざまなかたちでのコラボレーションもこの時期の星野源を特徴づける活動だ。『SUMMER SONIC 2023』及び『〜2024』内で星野源キュレーションによって開催された「so sad so happy」シリーズのように、そうしたコラボレーションは作品以外の場へも展開していた。

『SUMMER SONIC 2024』ではロバート・グラスパーと共演も。

海外アーティストの起用と多言語的なアプローチ

トラックリストや参加アーティストを見れば、『Gen』がこうした6年半の活動、とくにコラボレーションを通じて蒔いてきた種がきちんと芽吹き、実を実らせた作品であることはすぐに感じられるだろう。

たとえば、本作でフルバージョンが初お披露目となった“Mad Hope”では、ルイス・コールがドラムに加えてボーカルも披露し、さらに“Glitch”でもコールがドラムをプレイ。彼らしいややジャンクな鳴りの手数の多いドラムが、まったくそのまま日本のポップミュージックのなかで響いていることには少し驚く。特に“Glitch”での、人力で高速ブレイクビーツを刻むようなプレイと、BPMをハーフでとったようなバラード然としたトラックのコントラストには、めまいを覚えるほどだ。

2023年の「so sad so happy」で披露された、UMIとCamiloをフィーチャーした“Memories”は、その意欲的な構成に驚かされる。DX7のエレクトリックピアノのイントロをぶった切るように登場するベースとドラム(そしてパッド)だけのミニマムなアレンジは、親密さのなかに緊張感をもたらしているし、サビの深い低音の響きは身体をつつみこむかのようでもある。そしてなにより、UMIと星野源とCamiloがそれぞれ英語・日本語・スペイン語で、同時に、ほぼ同じメロディラインを歌うパートの大胆さ。トリッキーなギミックになってもおかしくないアイディアだが、真っ向から取り組むことでストレートに響いている。

イ・ヨンジが韓国語と日本語と英語でラップする“2”も、マルチリンガルなポップミュージックとして意欲的な楽曲だ。英語ではじまったかと思うと唐突に日本語が登場。ちょっとした緊張感と共に意表をつかれているあいだに、歯切れのよい韓国語のラップが響いてくる。そんなイ・ヨンジのパートに対して、星野源本人はほぼフックの歌唱に専念して、楽曲のメロディアスな部分を担う。“Mad Hope”でのルイス・コールの歌唱パートや、“Eden”でのCordaeのラップも含めれば、星野源のアルバムがこんなかたちで多言語的アプローチを多用することは、予想はできたかもしれないけれど、とても新鮮で、感慨深くもある。

言葉という点では、近年の星野源は自分の姿を投影するような歌詞を書くようになったことがインタビューなどでもしばしば語られている一方、本作では逆に意味を吹っ切る言葉遊びのような歌詞も鮮やかな印象を残している。その最たる例が“Mad Hope”で、ダダ詩のような単語の羅列がスピリチュアルなイメージを連鎖的に編んでいく。個人的に本作のベストトラックのひとつ、“Melody”も韻とメロディに導かれて言葉が溢れ、イメージをかきたてる楽曲だ。ブラジル音楽的なエッセンスを折り込みつつ、コードによるバッキングというよりアルペジオで構成したアレンジも素晴らしい。サビで聴かれる映像的な印象を強める2音節のシンプルな言葉の羅列は、名詞の羅列が詩的な情景を紡ぎ出すアントニオ・カルロス・ジョビンの“三月の水”の歌詞を思わせる。

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