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Awesome City Club、今が一番自由。10作連続リリース、映画『トリツカレ男』を語る

2025.9.11

Awesome City Club

#PR #MUSIC

Awesome City Clubのことは、2015年のデビュー前から追いかけてきた。バンドマンも、編集・ライター業をやっている人間も、歳を重ねると辞めていく人も多い中で、10年にわたってこうして彼らと交わり続けられる喜びをこの取材現場でも共有させてもらった。

Awesome City Clubは今年、デビュー10周年のアニバーサリーイヤーを迎え、4月から「10作連続リリース」を実施中。さらに8年ぶりの台湾公演を含む全国ツアーの開催、佐野晶哉(Aぇ! group)、上白石萌歌らが声優を務める映画『トリツカレ男』の劇中歌と一部劇伴をatagi(Vo, Gt)が担当するなど、大きなトピックも待ち構えている。

そもそもAwesome City Clubは、今年復活したSuchmos、Yogee New Wavesなどと同時期に登場し、当時「シティポップ」と呼ばれたシーンを形成した重要なバンドのひとつである。その中でも、2021年には“勿忘”で『紅白歌合戦』への出場を果たすなど、オーバーグラウンドまで駆け上がった貴重な存在だ。モリシー(Gt)はimaseのサポートを務めてもいるが、ファンクなどブラックミュージックの要素をベースにしながら洗練されたJ-POPを作ることにおいて、Awesome City Clubが次世代に残した音楽的影響は非常に大きい。そして、今年リリースされた楽曲(9月時点ですでに6曲を発表)を聴いていると、緻密なクリエイティブによって上質なクオリティを保ったJ-POPを生み出すことにおいて、この先駆者たちはまだまだ先頭を走り続けてくれていることを実感する。

初期のように、自分たちから溢れ出た音楽

Awesome City Club(オーサムシティクラブ)
2013年東京・渋谷にて結成。メンバーの幅広いルーツをMIXした音楽性、男女ツインボーカルが生み出すハーモニーが特徴の3人組バンド。2021年には映画『花束みたいな恋をした』に出演し、インスパイアソング“勿忘”をリリースすると再生回数は11億回を突破。2025年4月にはデビュー10周年の節目を迎え、10作品連続リリースを発表。9月からは台湾を含む10箇所を回る全国ツアー「Awesome Talks Live House Tour 2025-26」の開催が決定。時代と共に進化を続け、活動の場を広げている。

―4月から10作連続リリースを行っていて、これまで6作の新曲が発表されています。それらを聴いていると「振り切って自由にやりたいことやろう」みたいなポジティブなモードを感じるし、音楽的には、今が一番脂乗っているんじゃないですか?

atagi(Vo, Gt):脂ぎってました?(笑)

PORIN(Vo):Awesome City Club(以下、ACC)らしい曲ももちろんあるけど、新鮮な曲がいっぱい生まれていて、お客さんもびっくりしているんじゃないかなって思います。10年目にしてまだアタさん(atagi)の新しい側面をこれだけ出せていることがすごく嬉しいです。

atagi:いやでも自分の力だけじゃなくて、PORINの歌詞の世界も、モリシーのギターも、アレンジャーさんに入ってもらった楽曲はアレンジャーさんのお力もあってこそだと思う。10作連続リリースの中では、そのときのフィーリングを瞬間冷凍みたいにパッケージングできているのがすごくいいなと思っていて。インディペンデントの頃みたいに、曲ができたら自分たちの熱量があるうちに出せるのが面白いなと改めて思っていますね。

PORIN:今回は自分たちから滲み出てくるものを形にした曲が多いので、なおさら初期のような、自分たちのやりたい音楽をスピーディに出していく懐かしさを感じました。そこでまた音楽の楽しさも感じられたし。今の私たちのモードを直接反映できている感じがしています。

PORIN

―10年のあいだは「ヒットする曲とは何か」「ACCらしさとは何か」「これまでの曲とかぶらないことは何か」とか、何かしら考えることが常にあったと思うんですけど、今は余計なことを考えずに曲を作れているのかなと感じたりもしました。

atagi:そうですね。特に商業音楽って、やっぱり目的があって作品作りをすると思うんです。どのアーティストも最終的には「ヒットを出す」とか「大衆に聴かれるものを作る」っていう、大義名分は一緒だと思うんですよ。自分たちが今やっていることは、そういう観点もあるけど、第一に、10周年というお祝い事にかこつけて「今まで応援してくれた方に喜んでもらいたい」「今まで歩んでくれた人たちと一緒にこのお祭りを楽しみたい」という目的なので、それがいいのかもしれないなと思います。

atagi

曲の最後には希望を残したい

―最初にリリースされた“STEP !”から、さすがだなとも思わせられたんですよね。いわゆる「シティポップ」と呼ばれたりする音楽が、今も若い世代からたくさん出てきているけど、やはりACCは群を抜いたオーセンティックなものを届けてくれるなと思いました。

atagi:嬉しいですね。たしかに、どっしり感は違うなって思います。自分たちのデビュー当時を振り返っても、含蓄が出てきているというか。まがりなりにも10年やってきた間柄から生まれる説得力みたいなものが、デビュー当時に比べると少しは増えたのかもしれないなと思いますね。

モリシー(Gt):あるんでしょうな。いろんな曲を書いて、いろんなステージに立ってきて、それが音にも出るだろうし、ましてや声なんてそういうものでしかないと思うから。

モリシー

―10作連続リリースの一発目に出した“STEP !”は踊れるグルーヴの中で男女の感情を描いた上質なポップスで、いわゆるACCの真骨頂的な方向性のひとつだと思うんですけど、アニバーサリーイヤーの最初にはどういう曲を持っていきたいと考えていたんですか?

atagi:すごく平たく言えば、景気のいい曲をやりたいと思っていました。10作連続リリースを総括するテーマは「祝祭感」だと思っていたんですよ。もちろん10作の中でいろんな振り幅を見せていきたいけど、最初に“STEP !”みたいな楽曲を出して、自分たちをお祝いしたいと思っていました。あと、色々やってきた上で、人間的な関わり合いの距離感とか、温度感とか、力が抜けた感じみたいなことも含めて、自分たちの今のスタンスを同時に表現できる曲かなって思ったので1発目に出したいなと。僕は経験してないですけど、夫婦とかでも10年経つと、こうなってくるんじゃないですか?

モリシー:なりますね。

atagi:いろんな方法での信頼とか、対人への見方が生まれてきて、本人たちにしかわからないバランスで成り立っている、みたいな。閉じられたコミュニティの話ではあって、他の人が見てもわからないけど、それも「ひとつの愛の形」みたいな。それを是としてあげる、というのが伝えたいメッセージでしたね。

―そういった関係性が、まさに今の3人のモードである?

atagi:だと思います。

PORIN:ね!

モリシー:うん!

―そして5月に発表した“深海”は打ち込みのサウンドプロダクションで、逆に今までやってなかったような一面を見せていますよね。

atagi:そうですね。ACCでまだやれてない表現をやりたいなっていう。好きなコード進行や言葉選びを使った、自分のフェチを純度100%で出した曲ですね。すごく好きです。文脈として正しいかどうかわからないですけど、もしかしたらRADIOHEADとかに焦がれた人はちょっとピンとくる感じがあるかもしれないです。

―それを今までACCで出してこなかったのは、atagiさんの中でどういう考えがあったからなんですか?

atagi:なんとなく、そういうテイストの楽曲は僕の思っているACC像からは外れていたのかもしれないですし……なんででしょうね? なんとなく求められてないなって感じがしていたのかもしれないです。でも今だったらできるかもという感覚がありました。

PORIN:でも私はこの曲を聴いたとき、「アタさんらしいな」って思いました。滲み出るatagi汁を感じました。

モリシー:MTRで曲を作っていた頃のatagiを思い出したね。メロディとかも、スタジオファミリア(かつてメンバーがバイトしていたスタジオ。そこでACCは結成された)でデモを聴いていた曲に一番近いなって感じたかな。

PORIN:そうそう、当時を思い出しました。だから不思議な感覚だった。「懐かしい」って、キュンとしましたね。

―「これはACCっぽくないんじゃないか」ってatagiさんが自分で思い込んでいた部分を、今回自分で解放させてあげられた、という言い方もできるんですかね。音楽に限らず、自分が思っている自分らしさって、周りから見えるものと違っていたりしますし。

atagi:ああ、たしかに。自分らしさってどこにあるのかわからなかったりしますよね。自分に打っていた鎖を外した、みたいな感じかもしれないです。

―“深海”の歌詞について触れると、海の深い底へと沈んでいくようなディープな世界観でありつつも、<さよならいつか運命の輪を辿って/会いに行くよ>など、暗いところで終わらないところがACCらしいなと思いました。

atagi:これは死生観の話で、ざっくり言えば、自分が死んでも思い続けるよというお話なんですけど。曲を聴き終わるときに希望を持たせたいとは常に思っていて、そういったテーマの中でも、何か願いや希望を抱いた状態で終われたらなとは思っていたので、そう言っていただけたのはよかったです。はっきりと死生観を書いたのは、これが初めてかもしれないですね。そういうことを歌詞にできるような精神年齢になったのかなっていう感じがします。

豪華プレイヤーやアレンジャーが共鳴

―6月にリリースした“cosmos”の歌詞はPORINさんによるものですが、これも精神年齢が上がったからこそ書ける内容だなと思いました。10代のラブソングではなく、大人の恋愛や別れ……もっと言ってしまえば、夫婦の結婚や離婚などまでを想起させるもので。

https://www.youtube.com/watch?v=LgIoqxvwnVA

PORIN:デモ聴いたときから好きすぎて。歌詞がつく前から映像がイメージできたんですよね。

atagi:それだったら、もしよかったら歌詞で参加してもらえないかなって相談して。

PORIN:ちょうどその頃に知人の話を聞いて自分の中で心が動いたことがあって、そこから広げていきました。今やれるラブソングを最大限表現したという感じですね。ちょっと悲しすぎるけど、こうやっていっぱい傷ついてきた人もいらっしゃるだろうから、そういう人に響くといいなと思います。

―これは林あぐりさん(Ba)、GOTOさん(Dr / 礼賛、DALLJUB STEP CLUB)、宮川純さん(Key / LAGHEADS)という豪華プレイヤーたちと、一発録りで仕上げたそうですね。

PORIN:そうです、ツアーメンバーで録りました。去年のライブハウスツアーがめちゃくちゃよくて、「やっぱりバンドサウンドっていいなあ」という感情になったので、それを音として一生残しておきたいな、この曲なら合いそうだなという想いからお願いしました。それぞれがいっぱいアイデアを出してくださって、みんなで作り上げたサウンドになっていますね。

atagi:1発目に録ったのがむっちゃよくて、「念のためもう1回録ろう」ってやったけど、やっぱり1発目のほうがよくて。「理由はわからないけど、なぜか1発目がいい」みたいなことはよく聞く話だと思うんですけど。大袈裟に言えば「バンドマジック」だと思うんですけど、それをちゃんと録れたのがよかったなって思いました。アレンジ自体はそんなに凝ったことをやってないんだけど、それでもずっしりと重く残る説得力があるのは、やっぱりプレイヤーの妙だなって感じがします。

―そして7月発表の“Run and Run”は、テーマ性でいうと、2022年に出した“On Your Mark”に近いものがあるけど、あれはNHKのパラスポーツアニメ「アルペンスキー編」に書き下ろしたもので。さっき「自分たちから滲み出てくるものを形にした曲が多い」と話してくれましたけど、これはまさに、今の自分たちを歌った曲という印象を受けました。

https://www.youtube.com/watch?v=IfrsM183j2U

atagi:そうですね、自分に向けて鞭打つ曲みたいな感じもありましたね。その頃は切羽詰まっていたりもして、「走れ!」って自分でケツを叩くみたいな(笑)。その思いっきりのよさが出た曲という感じもします。がむしゃらさみたいなものを意外と忘れちゃいけないなって感じもしますし、いくら10周年で落ち着いてきた部分があるとはいえ「必死ですよ」みたいなスタンスは大事だなって思います。

―<選ばれた場所で咲く建気な花にはなれないや>とか、ミュージシャンという立場に限らずどんな仕事をしていても、大人になってからもこういったスタンスを忘れないでいるのは大事だなと私も思います。

atagi:僕、好きな言葉があって。「終わりのないトラックレース」という。どういう人も、生きている中で、終わりが見えないことのしんどさを考えるじゃないですか。「いつまでこの会社で働くのかな」とか。社会的な活動する人みんなが、心のどこかで覚えている不安ってあると思うんですよ。「それでも走るんだよ」みたいなことを曲にしましたね。

―そこから最後の<笑顔で満ち足りた世界に 今決別の合図を>には、どういう思いを込めたと言えますか。

atagi:人生において判断を迫られるときって、都度あるじゃないですか。大きな判断でも小さな判断でも、その判断がよかったねって言えるのは、その後の自分の行動でしか示せないと思っていて。すべての判断がよかったと思えるように走ろう、という曲ですよね。

PORIN:この曲は、今回リリースしている中で一番新鮮に感じました。初めて聴いたとき、ACCとしては新しいけど、ちょっと平成初期の懐かしさを感じて。私の青春のJ-POP、楽しい時代のJ-POPという感じがしたんですよ。

atagi:それ言うけど、俺は全然わからない(笑)。どこがなんだろう?

―ビートのアプローチとか、m-floのトラックと接続するところはあるかもしれないですね。

atagi:ああ、なるほど! 最初に作っていたものは、いい意味でも悪い意味でも、ACCっぽい曲になっちゃうなと思って。どの楽曲もそうなんですけど、どこかで1個は外したいんですよね。色々試した結果、この曲ではリズムパターンをこういうアプローチにしてみました。PORINと言っていることとは違うんですけど、たとえばGorillaz、Black Eyed Peasとかが台頭してきた1990年代後半から2000年代の洋楽のイメージがあったかもしれないです。ジャンルが細分化し始めた頃、新しい解釈がそれぞれのジャンルに入り込んでごちゃ混ぜな感じになっている雰囲気みたいなものが、頭の片隅にありました。

―そして8月にリリースした“スロウ・サマー”には、『東京パラリンピック2020 開会式』や『大阪・関西万博開会式』などの音楽監督を務め、Omoinotake“幾億光年”やTOMOOさんの楽曲などを手掛ける小西遼さんがサウンドプロデュース&アレンジャーとして入っています。これは、どういうことを求めて小西さんにお願いしたんですか?

https://www.youtube.com/watch?v=vqVrtiT1MiI

atagi:ここ近年、デジデジしたもの(デジタルっぽいもの)よりも、有機的な豊かさとか生っぽさが似合うなという所感があって。この曲も生っぽいよさを感じられる曲にしたいなと思って、小西さんにお願いしました。実際に一緒にやらせていただいて、表現としてデジタルっぽいものをちゃんと嫌味なく使えるし、生っぽいものも古臭いものとしてではなくモダンなものとして再解釈できるバランス感覚とアンテナを持っている人だという感じがしましたね。この曲は、何者になれなくても、こんな夜があってもいいじゃんって言ってあげられるようなものができたらなと思って作りました。若い頃の「何者かになりたくて、だけど頑張り方わからなくて」みたいな不安が爆発するのは、大体夏なんですよね。

モリシー:これはみんなと飲んでいた若い頃を思い出す音というか。それこそアレンジしてくれたこにたん(小西)とは、だいぶ前にうちの近所で飲んだことが何回かあって、その頃のことを思い出しました。

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