Awesome City Clubのことは、2015年のデビュー前から追いかけてきた。バンドマンも、編集・ライター業をやっている人間も、歳を重ねると辞めていく人も多い中で、10年にわたってこうして彼らと交わり続けられる喜びをこの取材現場でも共有させてもらった。
Awesome City Clubは今年、デビュー10周年のアニバーサリーイヤーを迎え、4月から「10作連続リリース」を実施中。さらに8年ぶりの台湾公演を含む全国ツアーの開催、佐野晶哉(Aぇ! group)、上白石萌歌らが声優を務める映画『トリツカレ男』の劇中歌と一部劇伴をatagi(Vo, Gt)が担当するなど、大きなトピックも待ち構えている。
そもそもAwesome City Clubは、今年復活したSuchmos、Yogee New Wavesなどと同時期に登場し、当時「シティポップ」と呼ばれたシーンを形成した重要なバンドのひとつである。その中でも、2021年には“勿忘”で『紅白歌合戦』への出場を果たすなど、オーバーグラウンドまで駆け上がった貴重な存在だ。モリシー(Gt)はimaseのサポートを務めてもいるが、ファンクなどブラックミュージックの要素をベースにしながら洗練されたJ-POPを作ることにおいて、Awesome City Clubが次世代に残した音楽的影響は非常に大きい。そして、今年リリースされた楽曲(9月時点ですでに6曲を発表)を聴いていると、緻密なクリエイティブによって上質なクオリティを保ったJ-POPを生み出すことにおいて、この先駆者たちはまだまだ先頭を走り続けてくれていることを実感する。
INDEX
初期のように、自分たちから溢れ出た音楽

2013年東京・渋谷にて結成。メンバーの幅広いルーツをMIXした音楽性、男女ツインボーカルが生み出すハーモニーが特徴の3人組バンド。2021年には映画『花束みたいな恋をした』に出演し、インスパイアソング“勿忘”をリリースすると再生回数は11億回を突破。2025年4月にはデビュー10周年の節目を迎え、10作品連続リリースを発表。9月からは台湾を含む10箇所を回る全国ツアー「Awesome Talks Live House Tour 2025-26」の開催が決定。時代と共に進化を続け、活動の場を広げている。
―4月から10作連続リリースを行っていて、これまで6作の新曲が発表されています。それらを聴いていると「振り切って自由にやりたいことやろう」みたいなポジティブなモードを感じるし、音楽的には、今が一番脂乗っているんじゃないですか?
atagi(Vo, Gt):脂ぎってました?(笑)
PORIN(Vo):Awesome City Club(以下、ACC)らしい曲ももちろんあるけど、新鮮な曲がいっぱい生まれていて、お客さんもびっくりしているんじゃないかなって思います。10年目にしてまだアタさん(atagi)の新しい側面をこれだけ出せていることがすごく嬉しいです。
atagi:いやでも自分の力だけじゃなくて、PORINの歌詞の世界も、モリシーのギターも、アレンジャーさんに入ってもらった楽曲はアレンジャーさんのお力もあってこそだと思う。10作連続リリースの中では、そのときのフィーリングを瞬間冷凍みたいにパッケージングできているのがすごくいいなと思っていて。インディペンデントの頃みたいに、曲ができたら自分たちの熱量があるうちに出せるのが面白いなと改めて思っていますね。
PORIN:今回は自分たちから滲み出てくるものを形にした曲が多いので、なおさら初期のような、自分たちのやりたい音楽をスピーディに出していく懐かしさを感じました。そこでまた音楽の楽しさも感じられたし。今の私たちのモードを直接反映できている感じがしています。

―10年のあいだは「ヒットする曲とは何か」「ACCらしさとは何か」「これまでの曲とかぶらないことは何か」とか、何かしら考えることが常にあったと思うんですけど、今は余計なことを考えずに曲を作れているのかなと感じたりもしました。
atagi:そうですね。特に商業音楽って、やっぱり目的があって作品作りをすると思うんです。どのアーティストも最終的には「ヒットを出す」とか「大衆に聴かれるものを作る」っていう、大義名分は一緒だと思うんですよ。自分たちが今やっていることは、そういう観点もあるけど、第一に、10周年というお祝い事にかこつけて「今まで応援してくれた方に喜んでもらいたい」「今まで歩んでくれた人たちと一緒にこのお祭りを楽しみたい」という目的なので、それがいいのかもしれないなと思います。

INDEX
曲の最後には希望を残したい
―最初にリリースされた“STEP !”から、さすがだなとも思わせられたんですよね。いわゆる「シティポップ」と呼ばれたりする音楽が、今も若い世代からたくさん出てきているけど、やはりACCは群を抜いたオーセンティックなものを届けてくれるなと思いました。
atagi:嬉しいですね。たしかに、どっしり感は違うなって思います。自分たちのデビュー当時を振り返っても、含蓄が出てきているというか。まがりなりにも10年やってきた間柄から生まれる説得力みたいなものが、デビュー当時に比べると少しは増えたのかもしれないなと思いますね。
モリシー(Gt):あるんでしょうな。いろんな曲を書いて、いろんなステージに立ってきて、それが音にも出るだろうし、ましてや声なんてそういうものでしかないと思うから。

―10作連続リリースの一発目に出した“STEP !”は踊れるグルーヴの中で男女の感情を描いた上質なポップスで、いわゆるACCの真骨頂的な方向性のひとつだと思うんですけど、アニバーサリーイヤーの最初にはどういう曲を持っていきたいと考えていたんですか?
atagi:すごく平たく言えば、景気のいい曲をやりたいと思っていました。10作連続リリースを総括するテーマは「祝祭感」だと思っていたんですよ。もちろん10作の中でいろんな振り幅を見せていきたいけど、最初に“STEP !”みたいな楽曲を出して、自分たちをお祝いしたいと思っていました。あと、色々やってきた上で、人間的な関わり合いの距離感とか、温度感とか、力が抜けた感じみたいなことも含めて、自分たちの今のスタンスを同時に表現できる曲かなって思ったので1発目に出したいなと。僕は経験してないですけど、夫婦とかでも10年経つと、こうなってくるんじゃないですか?
モリシー:なりますね。
atagi:いろんな方法での信頼とか、対人への見方が生まれてきて、本人たちにしかわからないバランスで成り立っている、みたいな。閉じられたコミュニティの話ではあって、他の人が見てもわからないけど、それも「ひとつの愛の形」みたいな。それを是としてあげる、というのが伝えたいメッセージでしたね。
―そういった関係性が、まさに今の3人のモードである?
atagi:だと思います。
PORIN:ね!
モリシー:うん!

―そして5月に発表した“深海”は打ち込みのサウンドプロダクションで、逆に今までやってなかったような一面を見せていますよね。
atagi:そうですね。ACCでまだやれてない表現をやりたいなっていう。好きなコード進行や言葉選びを使った、自分のフェチを純度100%で出した曲ですね。すごく好きです。文脈として正しいかどうかわからないですけど、もしかしたらRADIOHEADとかに焦がれた人はちょっとピンとくる感じがあるかもしれないです。
―それを今までACCで出してこなかったのは、atagiさんの中でどういう考えがあったからなんですか?
atagi:なんとなく、そういうテイストの楽曲は僕の思っているACC像からは外れていたのかもしれないですし……なんででしょうね? なんとなく求められてないなって感じがしていたのかもしれないです。でも今だったらできるかもという感覚がありました。
PORIN:でも私はこの曲を聴いたとき、「アタさんらしいな」って思いました。滲み出るatagi汁を感じました。
モリシー:MTRで曲を作っていた頃のatagiを思い出したね。メロディとかも、スタジオファミリア(かつてメンバーがバイトしていたスタジオ。そこでACCは結成された)でデモを聴いていた曲に一番近いなって感じたかな。
PORIN:そうそう、当時を思い出しました。だから不思議な感覚だった。「懐かしい」って、キュンとしましたね。
―「これはACCっぽくないんじゃないか」ってatagiさんが自分で思い込んでいた部分を、今回自分で解放させてあげられた、という言い方もできるんですかね。音楽に限らず、自分が思っている自分らしさって、周りから見えるものと違っていたりしますし。
atagi:ああ、たしかに。自分らしさってどこにあるのかわからなかったりしますよね。自分に打っていた鎖を外した、みたいな感じかもしれないです。

―“深海”の歌詞について触れると、海の深い底へと沈んでいくようなディープな世界観でありつつも、<さよならいつか運命の輪を辿って/会いに行くよ>など、暗いところで終わらないところがACCらしいなと思いました。
atagi:これは死生観の話で、ざっくり言えば、自分が死んでも思い続けるよというお話なんですけど。曲を聴き終わるときに希望を持たせたいとは常に思っていて、そういったテーマの中でも、何か願いや希望を抱いた状態で終われたらなとは思っていたので、そう言っていただけたのはよかったです。はっきりと死生観を書いたのは、これが初めてかもしれないですね。そういうことを歌詞にできるような精神年齢になったのかなっていう感じがします。