『星野源論』(新潮新書)の刊行を記念したトークイベントが、6月29日(月)、下北沢の本屋B&Bで「開講」された。
会場参加のチケットは発売即完売となり、オンライン配信でも700人が見守ったイベントの模様を、抜粋してお届けする。
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戸部田誠×つやちゃん×小田部仁による「3時限授業」
『星野源論』は、二人の著者による二部構成を取っている。前半は、『タモリ学』などの著書で知られるテレビウォッチャー / ライターの戸部田誠(てれびのスキマ)による、芸能史から考える星野源論。後半は、『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』などの著作がある文筆家・つやちゃんが、音楽批評の観点から星野源について論じている。
同書の発売直後から、「『星野源論』という講義があれば受けてみたい」という声が多数寄せられたといい、この日のイベントはそのリクエストに沿うようにして「3時限授業」の形で進行した。1時限目は戸部田、2時限目はつやちゃんがそれぞれ「講義」を行い、最後の3時限目は「私の星野源論」と題して、参加者からの質問やコメントに登壇者が応える時間だ。進行は本書の編集を手がけた小田部仁が務めた。

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戸部田の人生の選択に、星野源が与えた影響
戸部田による1時限目のテーマは「極私的 思い出深い星野源」。自身も星野源のファンでありながら、本書の性質上、本に入れ込むことはできなかった個人的なエピソードや思いが語られた。
戸部田が星野源にハマったきっかけは、2006年のドラマ『アキハバラ@DEEP』(演出:大根仁)だったという。戸部田は星野の3学年上で、星野の登場に「年上ではない、同世代のサブカルスターがはじめて現れた! と思いました」。
戸部田:サブカルチャーとオタクのカルチャーを幸福に混ぜたドラマで、そこに星野さんがいるのは象徴的。特におすすめは4話『タイコの恋!? 洗脳されるアキバチルドレンを救出せよ!』ですね。星野さんの主役回で、しかも相手役が木南晴夏という、めちゃくちゃいいところを突いてくる。最近見返しましたけど、いまの倫理的にどうかな? と思う部分は若干あるものの、20年経っても面白いです。
星野の出演した番組や、インタビュー記事など、戸部田にとって思い出深い星野のモーメントのスライドがめくられるたびに、会場から「おおー」「ああー」といった歓声が上がる。あまりに「全部知られている」ことに、戸部田も驚きの様子だった。

『TV Bros.』2015年7月1日号でのインタビューは戸部田にとっても思い出深いものだという。「テレビ」をテーマにした星野への取材で、当時インタビュアーとしての仕事は断っていた戸部田にオファーがあった。
戸部田:ピンポイントで指定された取材日が、移動日で飛行機に乗っている予定だったんです。でも星野さんは大好きなので、「迷っています」という返事をしたら、星野さんも今年ラジオでおっしゃっていましたが、星野さん側から僕の名前をあげてくれたと聞いて、それはぜったいに断れないと思って。
それが、戸部田にとって初めてのインタビューとなった。
戸部田:このときに、僕の拙い質問に星野さんが意を汲んで答えてくれたおかげで、他で聞かないような話が聞けて、「インタビュー、できるじゃん」と勘違いしちゃったんですよね(笑)。それが上京してライターとして仕事をする直接のきっかけにもなったんです。
ちなみにこのインタビューで星野は、「『シャボン玉ホリデー』みたいな番組をいつかやりたい」という夢を語っている。後の『おげんさんといっしょ』を予見するような重要な証言だ。
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日本のポップミュージックに新たな文法を普及させた星野源
2時限目はつやちゃんによる「講義」だ。つやちゃんは『星野源論』の中で、「型」と「意味」という概念を用いて、星野源の音楽作品の変遷を紐解いている。ところが、執筆当初は別の切り口を予定していたのだという。そんな最初の目次案がこちら。

つやちゃん:どんどん変わっていく=変身を繰り返すアーティスト、という切り口を考えていました。でも、書き始めると“なんか違うぞ、筆が進まないな”と思って、もう一回音楽を聴き直したり、星野さんが書かれたエッセイを読み直しました。変身を繰り返すアーティストは他にもいるし、そのキーワードだけでは「星野源らしさ」を捉えられていないと思い直したんです。変身を生み出しているメカニズムを紐解いていかなければいけない、と。
演劇では、与えられた役があり、その中でパフォーマンスが発揮される。星野は、音楽においてもそのように、演奏フォーマットや音楽様式などの「型」を獲得することで表現を行ってきたのではないか。「型」を通すことで内面の発露も可能にしてきたのではないか。そして、さまざまな「型」を血肉化し、使いこなすようになっていったのではないか——つやちゃんの精緻な論を雑に整理してみるならば、このようなことになるだろうか。
SNS等で読者から「難しかった」という反応が少なくなかったという第2章を、つやちゃんはここで「文法」というキーワードに置き換えて噛み砕く。
つやちゃん:英語がしゃべれるようになりたい、というときに、文法から勉強する人と、とにかく単語を覚える人がいますよね。知っている単語だけをつないでしゃべる人もいれば、一方で、SVOとかSVCとかみなさんも習ったと思うんですけど、そういう文法をちゃんとインストールして、そこに自分の言葉を乗っけていく人もいる。星野さんは文法型だと思うんです。
つやちゃん:単語を発明する人と、新たな文法を普及させる人がいて。単語は引用されやすいけど、文法は文化になるというか、自然にあるものじゃないですか。どちらが凄いというわけではないですが、あえてわかりやすい例で言うとしたら、椎名林檎さんは前者で、星野さんは後者。椎名さんの歌詞の言葉づかいとか、意匠化された世界観というのは、色んな方が引用しますよね。一方、星野さんが確立した黒人音楽と国内ポップの融合というのは、多くの後続ミュージシャンが影響を受けているけど、それが文化になりすぎて、顕在化しにくかったり、公言されにくいんです。
