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『銀河の一票』が描く「きれいごと」の希望。出色の政治ドラマ、最終回直前レビュー

2026.6.29

#MOVIE

©カンテレ
©カンテレ

現実も巻き込み、話題を生み続けてきた選挙エンターテインメントドラマ『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)が最終回を迎える。

与党・民政党の幹事長をつとめる父・鷹臣(坂東彌十郎)の秘書をクビになった星野茉莉(黒木華)が、スナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)と共に戦って来た都知事選もいよいよ終盤。

第1話から謎を呼び続けてきた「告発の手紙」の真実は明かされるのか。そして、茉莉の幼馴染・日山流星(松下洸平)、AI企業社長・風間藍生(梶裕貴)らと争う都知事選の行方は——。

黒木華×野呂佳代という異色のタッグも板についてきた本作について、ブロガー・ヒコがレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

視聴者の心を鷲掴みにする青春×ヒーローの政治ドラマ

スナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)の都知事選を支えるチームあかり©カンテレ
スナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)の都知事選を支えるチームあかり©カンテレ

『銀河の一票』がいよいよ最終回を迎える。政治ドラマという難しいジャンルでありながら、互いに力を合わせ大きな目標に突き進んでいく青春ドラマのような爽やかさ、いや、劇中の言葉を借りるなら「アベンジャーズ」、ヒーロー映画のような明快さと高揚感でもって、視聴者の心を鷲掴みにしている本作。敵はこの世に蔓延る理不尽だ。ヒーローたちは、そんな敵を「ぶっとばし」ながら、「誰も置いていかない社会を作っていくんだ」と叫ぶ。

それらが決して陳腐に響かないのは、『あの子の子ども』(カンテレ系)、『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)などの蛭田直美による脚本の力だけでなく、『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス-希望、あるいは災い-』(共にカンテレ系)などを手掛けてきたプロデューサー・佐野亜裕美による圧巻のクオリティコントロールによるところが大きいだろう。キャスト、演出、音楽、照明、衣装――本作を彩る細部の充実が、物語が志向する魂を研ぎ澄ませている。

「林檎ジャム」と「電球」を巡る言葉と映像の芸術

物語は「発光」した星野茉莉(黒木華)をあかりが見つけることからはじまった©カンテレ
物語は「発光」した星野茉莉(黒木華)をあかりが見つけることからはじまった©カンテレ

このドラマにはとにかく充実した時間が流れている。すべてのシーンに意味がある、とでも言おうか。それは、あらゆる台詞や仕草がストーリーの伏線になっているというような、窮屈で余白のないドラマということではない。1つの出来事が複層的に絡み合いながら物語を推進させていく、そんな感触のことだ。たとえば第1話では、何気なく描かれたかのように思えた「予約2年待ちの林檎ジャム」が、終始ストーリーを振動させていく。

主人公・星野茉莉(黒木華)が義母である桃花(小雪)から受け渡されたそのジャムは、茉莉の同僚・住田(佐藤真弓)に、父である与党民政党の幹事長・星野鷹臣(坂東彌十郎)の政策秘書・雫石(山口馬木也)に、そして、茉莉の幼馴染で民政党の国会議員・日山流星(松下洸平)に、と何度もその所有権を移しそうになりながらも回避され、最終的にスナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)の手に渡り、スナックで提供されるサンドイッチとして茉莉の元に戻ってくる。そこで視聴者は、林檎ジャムの美しい黄色い輝きが、「光」であることに気づかされる。それを茉莉が泣きながら食べる。すると、茉莉は「発光」する。

茉莉:あの、どうして分かったんですか? 私がここにいるって。

あかり:あぁ……光ってたから。

茉莉:光ってた?

あかり:うん……それ。

茉莉:光らないんです。これ、壊れてて……。

あかり:でも、光ってたよ。

茉莉が母・瑠璃(本上まなみ)からもらって、お守りとして携帯し続けていた壊れていたはずの電球のおもちゃが光り輝いたのである。電球を光らせながら茉莉がビルの階段を駆け上げることで、雑居ビルが、さながら「灯台」に変容し、誰かのSOSを受信する場所のように演出される。これぞ、言葉と映像の芸術だ。

反逆の物語で繰り返される「母と娘」というモチーフ

物語全体に大きな影を落とす茉莉の母・瑠璃(本上まなみ)の喪失©カンテレ
物語全体に大きな影を落とす茉莉の母・瑠璃(本上まなみ)の喪失©カンテレ

第1話において、父・鷹臣から娘・茉莉への「わきまえなさい」という呪詛のような言葉が劇中で何度か繰り返されることで、このドラマが「わきまえてたまるか!」という反逆の物語であることがわかる。しかし、これは「父殺し」の物語ではない。重要なのは「母と娘」というモチーフだ。

「元政治家秘書とスナックのママが都知事選に挑む!?」という本作の宣伝文句は、「スナックという市井の人々が集う場所から政治を作っていくのだ」というような含意はもちろんのこと、それ以上に、スナックの「ママ」の部分に重きが置かれているように感じる。茉莉の母親の喪失は物語全体に大きな影を落としていて、それを補完するかのように、作中ではいくつもの疑似母娘関係が結ばれていく。

茉莉ちゃんはいいの? やられっぱなしで。

リングから降りて、届かないヤジ飛ばして死んでく?

……そんなタマじゃないよね? あんた。

と茉莉を鼓舞するのは、義理の母である桃花であった。あるいは、「まつりさんあっての雨宮なんで!」とまで言わしめる茉莉と新聞記者・雨宮楓(三浦透子)との関係性にも、母と娘のような信頼と親密さを覚える。「スナックとし子」の先代ママ・とし子(木野花)とその従業員だったあかりの間にも、母娘的な関係が構築されている。また、物語序盤でのあかりの言動に、茉莉は亡き母の面影を重ね合わせ、「私を一人にしないでください」と涙を流す。

「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という宮沢賢治の言葉が作中で何度も引用され、それは「あなたは世界の一部で、私の一部である」とかみ砕いて語られる。その「私の一部」という感覚を最も身近に感じられるのが「母と娘」というモチーフなのかもしれない。

「デュオ」の尊さと、一人ひとりへの眼差し

いつも2人でいる政治家・日山流星(松下洸平)とその秘書・藤堂昴(倉悠貴)©カンテレ
いつも2人でいる政治家・日山流星(松下洸平)とその秘書・藤堂昴(倉悠貴)©カンテレ

そして、話数を重ねながら何度もリフレインされる「いいね、2人って」という台詞によって、この『銀河の一票』は、母と娘に限らず「デュオ」の尊さを謳うドラマであることに気づかされる。茉莉と幼馴染の流星、あかりと教え子である鈴原ほのか(根本真陽)、流星と秘書の藤堂昴(倉悠貴)、五十嵐隼人(岩谷健司)とかつての同僚である雫石誠、雲井蛍(シシド・カフカ)と息子の陽太(山本弓月)、YouTubeチャンネル「ブライトブラインド」の配信者コンビである白樺透(渡邊圭祐)と明(望月歩)、あかり陣営にて突然コンビを組まされる相良大樹(伊能昌幸)と野原北斗(阿久津仁愛)……というように、本作中では魅力的なデュオが量産されていく。

突然コンビを組まされた日雇い労働者・野原北斗(阿久津仁愛)と介護士・相良大樹(伊能昌幸)©カンテレ
突然コンビを組まされた日雇い労働者・野原北斗(阿久津仁愛)と介護士・相良大樹(伊能昌幸)©カンテレ

誰もが自らの不完全さを、他者と手を取り合うことで補っている。そう、あかりと茉莉による深夜のデザートの分け合いっこのように、「デュオ」というのは共有や分配が可能であるということなのだ。喜びや悲しみを分かち合いながら、互いを補っていく。理想的な社会というのは、そういった様々なデュオが無数に重なることで、作り上げられていくのかもしれない。まるで銀河のように。

そして、多くのデュオを描きながらも、このドラマは銀河の「一票」であるから、最終的には私たち一人ひとりに眼差しが向けられる。例えば、第3話でのあかりの「そっか、うれしいもんね。名前覚えてもらえて、呼んでもらえるって」という言葉。われわれの個の煌めきは銀河全体に影響を与える。あるいは、第10話での「ここで問題です。銀河はどうしてこんなにきれいなんでしょうか?」「はい! 一つ一つの星がきれいだから」という若き日の鷹臣と瑠璃の対話。銀河に、市井に散りばめられた私たちは「名も無き人々」などではないというメッセージは、本作で繰り返し強調される

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