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「覚悟ができるまで逃げていい」──YUSIIが改名して手にした本当の自分と音楽

2026.5.25

YUSII 『Quiet Fire』

#PR #MUSIC

私が「ざきのすけ。」と最後に会ったのは、2年前。そこから彼は「YUSII」とアーティスト名を変えて、再スタートを切った。

当時の彼は、今聴いても文句なしの、ポップスの中に実験精神があるクオリティの高い楽曲を作っていた。それらはドラマ主題歌、アニメEDテーマなどに抜擢された。でも今思えば、当時の彼はもがいているように見える瞬間もあった。どういったことは飲み込んで上手くやったほうがいいのか、逆にどういうことはお利口になりすぎずに自分のエゴを貫いたほうがいいのか──彼と同世代の人たちが大学を卒業し、社会という名の環境に入っていくくらいのタイミングで、彼は似たもがきを味わっていたのだと思う。

2025年5月、「YUSII」への改名を決意。そこから1年を経て、Awich、ちゃんみな、HANAなどの楽曲を手掛ける世界的プロデューサー・Ryosuke “Dr.R” Sakaiとタッグを組んで制作した1st EP『Quiet Fire』を、2026年4月29日にリリースした。そこに収録されている7曲を聴くと、YUSIIは今、自分の人生を誰かに託すのではなく、他者と深く繋がるために自分で先導を切って進んでいこうとしているのだと思った。その自由に漂う幸福な音は、聴いた人にも幸福と、不安や恐れなどを振り切って前へ進むための力を分け与えてくれる。

「ざきのすけ。」からの改名。中途半端にならないための決断

ー改名を発表されたときは、すごくびっくりしました。「ざきのすけ。」という名前で数々のドラマやアニメ主題歌を手掛けるなど、実績を重ねていた中で、名前を変えるというのは、それらを一旦白紙にする行為でもあって。何が「改名」までの決断をさせたんですか?

YUSII:一番大きなきっかけは、自分が大好きなジャンルの音楽をもっと突き詰めたいと思ったことでした。「YUSII」は本名なんですけど、より身近な範囲の中で表現することにチャレンジしてみたいなと思って。「メジャー感」みたいなところから、自分なりの音楽に集中したいと考えるようになったことがきっかけですね。

YUSII(ユーシ)
2025年より、ざきのすけ。から改名して活動をスタートさせたYUSII。ルーツであるオルタナティブR&B/HIPHOPを軸に、静けさの中にリアルな感情を描くYUSIIの1st EP『Quiet Fire』(クワイエット ファイア)が4月29日にリリースされた。EPタイトル『Quiet Fire』には、「静かな」胸の奥に秘めた、消えることのない情熱という意味が込められている。自身の髪にバリカンを当てたミュージックビデオでも話題を呼び、YUSIIとして初のリリース作品となった“OMOKAGE”のほか、ドラマ『夫の家庭を壊すまで』の主題歌として注目を集め、ざきのすけ。とYUSIIを繋ぐ楽曲“DOWN UNDER”の新たなバージョンなど、全7曲を収録。プロデュースを手がけるのは、グローバルに活躍する音楽プロデューサー、Ryosuke “Dr.R” Sakai。

ー今はソロアーティストが作品ごとに異なるジャンルの曲を発表するのは当たり前の時代で、音楽性を変えるにしても、同じ名前でやっても許されるじゃないですか。それなのに、なぜ「改名」に踏み切ったんですか?

YUSII:自分と向き合いたかったっていうのはあると思います。「ざきのすけ。」という名義のまま、元に戻ろうと思えば戻れるし、前に行こうと思えば行ける、みたいな状態に自分を置いておくのは中途半端というか、突き詰めるという方向にはならないのかなと思っちゃって。自分の性格上、そうしないと思い切って覚悟を決めて進めなくなってしまいそうだなっていう気持ちがありました。

ー事務所やレーベルのスタッフはじめ、周りの人から反対されませんでした?

YUSII:「名前を変えちゃうんだ」「キャッチーな名前なのに」「実績もあったのに」みたいな声もあって、確かになとは思いつつ、自分の中で変えることを明確に決めたタイミングで周りの人に話をしたので、影響はされなかったかなと思います。

自分の生まれ持った性質として、完璧主義なところがあって。基本的に自分の中で完全に固まってからじゃないと物事を言えないタイプなんですよ。中途半端なものを出したくないからこそ、「ざきのすけ。」で続けるのは嫌だと思ったのもあるかもしれないです。

「“俺はここで生きていく”という覚悟ができるまで、逃げ続けていい」

ー今これを読んでいる人の中にも、今の仕事を続けるか辞めるかで迷っている社会人や、進路で悩んでいる学生など、いろんな人がいると思います。就活を頑張って入社したもののしんどくなってしまって、でもここまでの頑張りを白紙にはしたくないし、誰にも相談できない、といった状況の人もいるだろうなと想像します。そういう人たちにYUSIIさんの経験から何か伝えるとしたら、どんなことを言いたいですか?

YUSII:「逃げることは悪くない」。これは僕自身、生きていく上でずっと思っていることです。一つのコミュニティにいると、そこしか眼中になくなるから、他の世界へ飛び出すのが怖くなっちゃうと思うんですけど、そこから勇気を持って逃げるという選択をすると新しい世界が開けて、自分自身の立ち位置も確認できると思う。

ただ逃げるというよりは、「生き延びるための模索」というか。僕、学生時代は鬱だったんですよ。そのときは学校というコミュニティから抜けて、ヒップホップというコミュニティに逃げたんです。

YUSII:そうしたら音楽はめっちゃ楽しいし、いろんな世代の人と交流できて意見ももらえるし、「自分ってこういういいところがいっぱいあったんだ」とか、逆に「ここをもっとこうしなきゃ」ということに気づけました。その経験がデカくて。

逃げることで新たな生きる場所ができると思うので、そういうところが見つかるまで逃げまくっていいと思う。見つかったときに、ちゃんと本腰を入れればいい。「俺はここで生きていく」という覚悟ができるまで、逃げ続けていいと思います。

ーとても素敵な言葉をありがとうございます。YUSIIさんにとっては今、「YUSII」という名前で活動することが、「俺はここで生きていく」という覚悟だと思うんです。先ほど「より身近な範囲で表現したい」とおっしゃったけど、YUSIIとして発表している楽曲は、今まで以上に自分のことや実体験を書いているなと思っていて。EP『Quiet Fire』に収録されている“The Way You Light”の歌詞にちなんで聞くと、YUSIIさんにとって、<you light my life>=自分の人生や行き先を照らすライトになってくれたものは何でしたか?

YUSII:ぶっちゃけて言うと、この曲自体は、当時の恋人が逃げるための後押しをしてくれたことを書いています。僕自身は完璧主義だから神経質に考えちゃって、「路上ライブとかもやってみたいけど、怖いしな」という感じだったんですけど、「今日の放課後やろう」「歌が上手いんだから歌ってみたらいいじゃん」みたいな軽いノリで言ってくれる方で。それがきっかけでSNSに弾き語り動画を上げたり、ヒップホップの会場に行ったりできるようになりました。

その人のこともそうだし、そういう存在が人生の中で何人かいて。一歩違ったら絶対に交わらなかっただろうなという人の一言で人生が変わることが往々にしてあると思っていて、それをテーマに書いた曲ですね。

Ryosuke “Dr.R” Sakaiから学んだ音楽家としての信念

ーサウンドに関して、音楽性をシフトしたいと考え始めたのは、ざきのすけ。時代の2024年7月にリリースした“down under”(松本まりか主演ドラマ『夫の家庭を壊すまで』主題歌)を初めてSakaiさん(Ryosuke “Dr.R” Sakai)と作ったことがきっかけとしては大きかったですか?

YUSII:めちゃめちゃ大きかったですね。それまでタイアップの曲は「ポップス寄りにしつつ自分の色も出す」みたいな割合だったんですけど、“down under”は「僕の色の中にドラマの要素を入れる」というイメージで。

Sakaiさんとの曲作りは基本セッションで、その場で組んでくれたビートに対して僕も即興でメロディを乗せていくので、ビートを聴いたときに感じた自分の寂しさとか情熱も全部メロディに乗って、生っぽいものになっている気がします。

初めて“down under”をSakaiさんと作ったときに、自分がやりたい音楽を追求した先で、それをほしいと言ってくれる人がいることで、音楽が芸術たり得るよなと思って。ニーズに投下していくというより、自分の爆発みたいなものを共有して、それに「うわ、これいいじゃん」ってなってくれる人がいるというのが、本来の芸術のあり方なんじゃないかと思っちゃって。

https://youtu.be/sLlgOn36qQY?si=zYieYDyaPZodpdlO

ーそれまでのタイアップ曲は、作詞は自分で担うものの、作曲は他の方にお願いする形で制作されていましたよね。でも、“down under”はYUSIIさんが作曲にも関わりながらSakaiさんと一緒に作って、自分の爆発を出してみたら、反響も大きかった。それが自分のスタンスを見つめ直すきっかけになったんですね。

YUSII:そうなんですよね。こっちの方向でも求めてくれる人はいるんだっていう自信になりました。やっぱりSakaiさんとの出会いがデカいですね。自分の思いとは異なる意見が出てきたとき、僕だったら「ちょっと頑張ってやってみます」みたいになることがあるんですけど、Sakaiさんは「いや、これがかっこいいから曲げられないよ」みたいなことを普通に言うんですよ。それを聞いたときに、「本来、音楽家はこうだよな」「やっぱり信念を曲げないかっこよさってあるんだな」と思いました。

ー“オレンジ”を発表した2023年頃、「チームの幸せのためにみんなでゴールに向かって頑張るのが楽しくなってきた」とおっしゃっていたことをよく覚えているんですよね。とはいえ、音楽業界に入ってまもなくて、いろんな正解がある中でどれが自分にとっての正解かを迷っていた時期だったんだろうなと思って。

YUSII:まさにそうですね。でも当時しゃべっていたこと自体は本心だったと思います。自分が揉まれている状況の中で、一番居心地のいい方法とか、楽しいと思える方法を探そうと思って、その結論に帰着していたんだと思うんです。当時は自分自身の価値や、自分が自由にやっていい範囲を小さく見積もって、「これを越えたら自分の周りにいる人を失望させるだろう」みたいな考えだったんですけど、今ではそれを大きく跨いでいっても大丈夫だと思えて、もっと広い空間で泳げるようになってきたんだと思います。

ー自分の価値や範囲を自分で狭めなくていいというのもまた、必要としている読者にそれぞれの生活へ持って帰ってほしい言葉ですね。“オレンジ”や“未完成”も、今聴いても素晴らしいクオリティの楽曲だと思うんですけど、改名してまでやろうと思った自分の音楽性について言葉にしてもらうと、どういうものだと言えますか?

YUSII:自分のルーツにあるブラックミュージックの側面をメインに据えた音楽をやりたいという気持ちがかなり強いです。今回のEPは、特に最近のヒップホップに寄った曲が多いかなと思います。今まではメロディ重視でやっていたんですけど、YUSIIになってからはリズムのキャッチーさに重点を置いて、揺れたり踊れたりする曲というのが大前提としてあると思っていて。僕自身、歌をやる以前、小さい頃からダンスをやっていたというのもあって、「音楽=踊ったり揺れたりするもの」という認識なんですけど、今までの曲はそこに重きを置けてなかったなと思って。

ーしかも最初に手に取った楽器って、ドラムでしたよね?

YUSII:そうなんですよね。もともとリズムが大好きなので、リズムをメインに据えたいなっていう感じですね。

ーそこから鎮座DOPENESSやチャンス・ザ・ラッパーを好きになったと、以前話してくれましたけど、やっぱりそのあたりのルーツを大事にした音楽をやりたいんですね。

YUSII:そうですね、その気持ちがかなりありますね。最近だと、タイラー・ザ・クリエイターとかもめちゃめちゃかっこいいなと思って。音楽をやっている人から見ても「かっけえことやってんな」ってなる曲を作れるようになりたい。自分のソウルから生まれるコードやリズムを築き上げていきたいと思っています。

「ネガティブなことも、自分で見つめて昇華させられたら、誰にも負けないパワーになり得る」

ー今回のEP『Quiet Fire』に収録されている“TARAREBA”は、ビートだけでなく歌のリズムでもしっかり踊らせてくれる曲で、YUSIIさんの中では新鮮だなと思いました。こういう言葉遊びのあるヒップホップは、一見ドープに思えても、最近はすごく流行ったりもする時代ですよね。

YUSII:ここまで露骨に音の響きで遊ぶことは今までやってこなかったので、新しい試みで面白かったですね。今回のEPの中だと若干コア寄りの音楽性だけど、最近のヒップホップの流れを見たときに絶対になきゃいけない曲だなっていう。ちょっと前のファレル・ウィリアムスとか、そっちの色がある曲だなと思います。

https://open.spotify.com/intl-ja/track/0cxMo42R0l7YAF4tj95hPs?si=b88139a837d5475a

ー一般的に「たられば」を考えるのはネガティブなことだと捉えられていますけど、この曲は「たられば」を一概に否定しているだけではないと思いました。YUSIIさんの中で、「たられば」に対してどんな考えを持っているんですか?

YUSII:僕自身、「ここでこうしていたら」とか、結構「たられば」を言う性格ではあるんですけど、それは後悔や反省の意味だけじゃなくて、次に活かすための「たられば」だと思っているんです。「たられば」を言うことでしか見えない景色やルートがある気がしていて。「ここでもっと何々をしていたら」と考えた瞬間、それまで考えもつかなかったやり方とかが見えることがあるから、「たられば」にはいい側面もあるんじゃないか、ということを書いた曲ですね。

ー「逃げる」「たられば」、さらに言えば「改名」とか、一般的にネガティブなイメージがあるかもしれないものにも冷静に向き合って、それを自分なりの答えというポジティブなものに変えることを大事にされているんだなと思いました。“PADDLE”には<誰かが歌う理想論ばかりのfight song / 苛立ってしまった自分が嫌だった>という歌詞がありますけど、ただ理想論やポジティブなことを言うだけじゃないのがYUSIIさんだなとも思います。

YUSII:学生時代のつらかったとき、明るい曲を聴いても「あなたはそう考えられていいですね」みたいになっていて(笑)。当時、特に救われたのがamazarashiさんなんですけど、同じ目線に立ってくれて「この人は痛みをわかってくれるんだ」「下手したら一緒に死んでくれるんじゃないか」っていうくらいのものが伝わってきたので、自分自身もそういう歌詞を書きたい気持ちがありますね。

ー“PADDLE”は、改名を決断するときの不安や葛藤と、<怖くても行くんだ>という決意を書いた一曲だと感じました。サビでは<自分を許してやれよもう>と強い言葉を歌っていますけど、この歌詞を書いたとき、どういう自分を許せなかったですか?

YUSII:これは聴いてくれている人に対しても、自分自身に対しても言っている言葉ですね。さっき言った「覚悟を持って逃げる」ということと同じことを言っている気がします。自分のことを許せない=現状に捉われちゃっている感じがあると思っていて、痛みとか苦しみ自体を受け入れて、自分を許してやることでしか進めない領域があると思うんです。

僕自身、音楽に対するモチベーションや熱量が、この道を決心した高校時代より低下していたり、新しい道がいばらだと理解しているがゆえに嫌だなって思ったり、弱い自分から目を逸らしていたときがあって。それは、そういう自分を受け入れるのが怖かったからで、それをちゃんと見つめて受け入れるのが「許す」ということだと思う。“PADDLE”を書いていたときは、そういう自分自身の弱さみたいな部分とすごく向き合っていた気がします。

https://youtu.be/krprP_9xkxw?si=Mky2bldZjwEMlRDZ

ー「ざきのすけ。」の名前を捨てることも、J-POP路線から切り替えることも、やっぱり相当な覚悟が要ったんですね。もしかしたら失うものが多いかもしれない、という怖さもあっただろうし。

YUSII:それはかなりありましたね。改名するのは綱渡りというか、「一歩ミスったら真っ逆さま」くらいの気持ちでした。でもやっぱり、もし終わるにしても、「あ、あのドラマの曲の人ね」みたいな感じで中途半端に終わっていくよりは、自分の中で爆発を起こして終わったほうがいいなと思って。その爆発がどこかに届いてくれたら一番嬉しいし。そういうふうに自分の中で届けたいものが明確に変わったので、覚悟を決めたという感じでした。

ータイトルを『Quiet Fire』にした理由は、今日ここまで話してくれたことが全部繋がっていそうですね。

YUSII:繋がっている気がしますね。内に秘めた情熱とか、人には話さないネガティブなこととかも、ちゃんと自分で見つめて昇華させられたら誰にも負けないくらいのパワーになり得ると思っていて。すべての曲のタイトルに共通してそういう要素があるんですけど、それらを一番簡潔で、シンプルで、情景としても浮かびやすい言葉にしようと思ったときに『Quiet Fire』という言葉がしっくりきました。内に秘めている温度感も、この火に薪をくべ続けていけば絶対にどこかに届く感情や熱量があるということも、一言で表せるのが『Quiet Fire』だと思っています。

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