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「全員社員の劇団」南極にインタビュー 10人が挑む「演劇で食っていく」覚悟

2026.5.20

南極『宇宙戦争』

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2020年にメンバー10名によって結成された劇団、南極。「演劇をポップカルチャーに」という触れ込みに違わず、作品の内外を貫く世界観の確立やデザイン力の高さに、カルチャーを横断した注目が集まっている。

恐竜の絶滅と青春の終焉の哀切を瑞々しく立ち上げた『バード・バーダー・バーデスト』をはじめ、メンバーが本人役で出演したSFメタ演劇『wowの熱』、子どもも楽しめるビジュアル演劇『ゆうがい地球ワンダーツアー』、ニッポン放送とのタッグ作『SYZYGY』と続々と新作を発表し、2026年5月に『ホネホネ山の大動物』の再演を満員御礼で終演、さらに来たる8月22日(土)には第10回公演となる新作『宇宙戦争』を東京建物 ぴあ シアターにて1日限りで上演。過去作で培ってきた経験を全ベットし、2020年代を代表するSF演劇のエポックメイキングを目指す。

注目されているのは、作品のみではない。学生時代に関西で出会ったメンバーは、一度就職によって東西に分かれたものの、それぞれが進路の決意を固め、拠点となる東京に再集結。2025年には株式会社南極を設立し、全員が社員となり、Aマッソ・加納愛子単独ライブ『H15』に携わるほかドラマ『未来のムスコ』で劇団監修を手がけたり、サニーデイ・サービスのMVをディレクションするなど、演劇外での活躍も目覚ましい。洗練されたキャッチーなビジュアルやデザインと、10人が共に在ることで起こせるマジカルを信じて突き進む泥臭さ。ハード、ソフトともにオルタナティブに磨きをかける南極という独自の共同体について、メンバー全員の声も集めながら、作 / 演出を手がけるこんにち博士に話を聞いた。

コロナ禍で南極を立ち上げ。「会えること」の価値をエネルギーに換えて

―南極はコロナ禍で劇団を立ちあげ、演劇活動をスタートされました。まずは、その経緯から改めてお聞かせください。

こんにち博士:僕の演劇の原体験は2つで、幼少期から見ていた吉本新喜劇と、高校の文化祭の時にクラスのみんなで上演した『キングコング』でした。メンバーのポクシン・トガワはその時のクラスメイトでもあり、最も付き合いの長い友人なんです。大学では演劇部に入り、そのコミュニティ周辺で出会ったメンバーたちと南極を旗揚げしました。

南極(なんきょく)
2020年春に結成。奇想天外なスペクタクルを土台にしつつ泥臭い人間模様を瑞々しく描く作風や、近年の演劇シーンでは失われつつあった劇団らしいグルーブ感が話題となり、演劇界はもちろん業界内外から注目を集める若手劇団。10人全員がプレーヤーとして舞台に立ちつつ、脚本演出 / 音楽 / 美術 / デザイン / グッズ制作 / プロモーション / 映像制作などのクリエーションも劇団員自らで手掛けている。

こんにち博士:立ち上げがコロナとぶつかり、これまでの演劇の作り方や通例がリセットされたタイミングだったこともあり、先行きも見えなければ、相手の顔も直接は見えない中で、リモートで映像創作などを行っていました。当時の僕たちにはそれしか方法がなかったし、ネガティブな気持ちにはあまりならなかったんですよね。コロナ禍前から活動している団体とはそのあたりの感覚が少し違うのかもしれません。

一方で、コロナが明けてみんなと直接会えた時の感動はとても大きなもので、「一緒にいた方がいいものが作れる!」と感じたあの時の感覚が、今の劇団のスタイルにも確かに繋がっている気がします。これも先輩方にとっては当然のことだったと思うのですが、僕たちは「会えないこと」が当たり前の世界線で演劇活動をスタートさせたからか、「集まれるならとにかく集まろう」という気持ちがとても強いんです。3回目の公演で初めて全員で劇場公演を打てたのですが、そこから注目や評価をいただくことが増えたことも、南極の指針を築く上で重要な実感でした。

『ゆうがい地球ワンダーツアー』舞台写真

―今日は社屋にお邪魔をしていますが、デスクやPCがあるオフィスのエリアと小道具や美術がひしめき合う劇団のエリアがあり、その様相からもカンパニーの新しさが伝わってきます。

こんにち博士:そうなんです。僕たちは、劇団南極の団員であると同時に株式会社南極の社員でもある。だから、社員として出社する日と俳優として稽古する日が交互にあるんですよ。それはつまり毎日一緒にいる、ということなんですけど……(笑)。団員と社員とで作業自体に大差はなく、基本的にはいつもみんなで創作のことを考え、手や体を動かしています。今日は、次回公演『宇宙戦争』の広告のコピーを話し合うために集合しました。こうして集まりたくて南極をやっているし、楽しいから一緒にやっている。10人で活動する理由としては、正直なところそこが一番大きいんですよね。

こんにち博士(こんにちはかせ)
南極の脚本 / 演出。大阪南部の小さな町で大学まで育ち、広告会社への就職を機に上京。大学在学中に演劇部に入り、出演や脚本演出などを経験。2020年の劇団化以降、ほぼすべての作品の脚本と演出、クリエイティブディレクションなどを担当。俳優としての出演や、フライヤー / マガジンのデザイン、衣装なども時折担当している。

2025年に劇団を会社化。ジャンルを越境した魅力と反響

―20代の若手劇団が一つの会社を、しかもメンバー全員が社員となり立ち上げるというのは、おそらくこれまでの演劇シーンにはあまりなかった動きであるとも思います。会社化の決意の背景にはみなさんのどんな思いがあったのでしょうか?

九條:私は最近、正社員として働いていた会社を辞めたんです。これまでは副業のような形で南極の活動を行っていたのですが、端的に言うと、一本化して自分のできる全力を注ぐ価値が、南極という団体とその作品にはあると思ったんです。自分が会社員として培った知識や経験を活かし、南極をよりよいカンパニーにしたいと思っています。

九條えり花(くじょう えりか)
南極の俳優、制作広報。滋賀県出身。高校、大学と演劇部に所属し、卒業後は総合広告代理店で勤務しながら南極での活動を並行した後、退職。最近では舞台以外にも、テレビドラマ、CMなど映像作品への出演にも幅を広げている。映像 / 舞台の演技の切り替えを得意とする。

和久井:僕も先月、新卒から勤めていた会社を退職しました。これまでは両立の面白さも感じていたのですが、活動を続ける中で、いちメンバーとしても、会社の代表としても「演劇で生活を成形させる」というモデルを作っていきたいと思ったんです。自分たちの世代ではまだそういう前例がないから。「クリエイティブ&プレイヤー会社」と銘打っているように、劇団活動だけでなく、演劇が持ち得る様々な特長や機能を他のカルチャーにも転用していくことで、より強度の高いカンパニーにしたいという思いもあります。

和久井千尋(わくい ちひろ)
南極の俳優/経理担当。埼玉県熊谷市生まれ、和歌山県育ち。学生時代は卓球部に所属。神戸大学進学後に演劇部へ入り、初めて舞台に触れる。卒業後、就職に伴う上京と同時に劇団の立ち上げにも加わる。現在は株式会社南極の代表取締役を務めるほか、コーヒーソムリエの資格を取得し、南極珈琲のプロデュースもスタートしている。

和久井:先日会社としてお引き受けしたMVの現場にも、舞台美術家や舞台監督など多くの演劇人の方に入っていただきました。そんな風に自分たちがハブとなり、カルチャーを越境した新たなクリエーションを生み出せるように、目的ではなく、手段として会社化しました。

こんにち博士:そうなんです。今のこの時代、この演劇シーンにおいて、僕たちのような若手団体が会社化することが演劇界においてプラスに働くのではないか、と思ったから会社にしたんですよね。なんというか、そういう希望を持てる存在になりたいと思ったんです。

―南極は演劇作品のクリエーションにおいても、そうした工夫を凝らしたアウトプットをされていますよね。団体のカラーや作品の魅力を劇場に来てはじめてわかるものにするのではなく、広報や宣伝、グッズやZINEの展開にも注力されていますし、他ジャンルのアーティストとの協働も印象的です。

2026年5月に再演して満員御礼で終了した『ホネホネ山の大動物』のグッズ一覧。連日会場では終演後の物販に長蛇の列ができていた。

こんにち博士:自分たちの作品を世の中に送り出す時に、情報としてどういう風に見られるのか、どんなことを仕掛けたら面白がってもらえるか。そうした作品の外側についても時間をかけて話し合っています。

例えば、開幕前に予告映像を発信したり、作品の舞台となる架空の高校のホームページや登場人物のSNSアカウントを作ったりしているのもその一環で……。大きな意味はないかもしれないし、実際に見ている人もまだまだ少ないとは思うのですが、演劇を外にひらいていきたいという一心で取り組んでいます。

というのも、どんなに面白い演劇があっても、演劇というカルチャーが持っている牌が音楽や映画や文学に比べて極めて小さいこともあり、ニュースになること自体がほとんどないんですよ。だからこそ、カウンターカルチャーとしてもっと外向きに発信したい。結成からそういう方針で活動を重ねてきましたが、会社化を経てますます生半可な気持ちではいられないと思いましたし、「自分たちはこれで食っていくんだ!」という気持ちが強くなりました。演劇を流行らせなければ、それは実現しない。だから、一蓮托生で団体としてそこに向かっていこうと思っているんです。

―ここ数年でのそうした精力的な活動は、たしかにジャンルを横断した反響を生んでいるとも感じます。2025年に上演された『wowの熱』では映像や音楽など様々なフィールドで活躍するアーティストの方からのコメントも多く寄せられていました。そうした反響についてはどのように考えておられますか?

こんにち博士:純粋にすごく嬉しいです。ミュージシャンの谷口喜多朗(Tele)さんが「そこには孤独の全てがあった」という書き出しで始まるコメントを寄せて下さったのですが、すごく心に響きました。僕らは大所帯で活動をしているし、舞台上の世界観もごちゃっとしているのですが、その奥にあるものを観ていて下さったことに励まされました。自分が脚本を書く時もそうですが、メンバーにも創作や表現の中で抱えるそれぞれの孤独があるので、その瞬間を掬い上げてもらえたことが嬉しかったんですよね。

他にもテレビ東京のプロデューサーである大森時生さんや映画監督の近藤亮太さん、ミュージシャンの浦上想起さんなどが、目の前で起きていることだけでなく、内側に流れる熱について言及して下さっていて……。表現者である方が結果や外側だけでなく、過程や内側も含めた実感を寄せて下さったこと、そういう面白がり方をして下さっていることは、僕たちがこれから活動をしていく上でも大きな支えになるし、エンジンになる言葉だと思っています。

南極のInstagramにてコメントが公開中

演劇シーンの新時代を掲げて。自分たちの世代に名前をつけたい

―時代を見抜く鋭さと、時代に逆行する泥臭さ。演劇を外へとひらきながら、時にはとことん非効率に時間と労力の要するクリエーションに全員で勤しむ南極の在り方は、まさにオルタナティブであると感じます。

こんにち博士:オルタナティブにものづくりをしている感覚はそこまで強くなかったのですが、自分たちが作っている作品が小劇場とも商業演劇ともラベリングしづらいものであるという実感はあって……。ただ、ここ数年でそういう演劇のカンパニーは増えている気もするんですよね。例えば、ザジ・ズーや劇団ヅッカといった20代のカンパニーも劇場ではないところで上演したり、既存の枠組みとらわれない演劇活動を展開していると感じますし、同世代として元気づけられます。

こんにち博士:どの団体もコロナ禍に劇団活動を始めていますが、そうした若い団体が一つのニューウェイブを築きつつあるとも感じていて、演劇シーンにおける新たな世代として何か命名したい気持ちにも駆られるんです。お笑いでいう第7世代的な……(笑)。「ポストコロナ」ではない、もっとその内部で起きていることに裏打ちされた、いい命名がないかなと考えたりしています。

―メンバーがプレイヤーとしてなくてはならない存在であると同時に、それぞれのポテンシャルを活かしたクリエイティブな役割を担っている点も南極という共同体の特長だと感じます。みなさんが活動の中で感じられている「南極らしさ」とはどんなものなのでしょうか?

瀬安:僕は毎公演、こんにち博士から自分の配役やその人物造形を聞くのをすごく楽しみにしているんです。僕たちは一緒に過ごしている時間がすごく長いので、そうしたコミュニケーションの重なりの中で見出された個性や関係が役にも反映されているんですよね。「当て書きの精度が高い」と言ってしまうのが正しいのかはわからないのですが、自分がその時に考えていることが演じる役に抽出されていたり、それぞれが今をどう生きているかをまとった作品に仕上がっているように感じて……。個人史が劇団史にタイムリーに重なっていく。そんな面白みを感じています。

瀬安勇志(せやす ゆうし)
南極の俳優。中学高校と香川県の田舎で過ごす。中学時代はテニス部、高校時代は弓道部に所属。関西大学に入学し、演劇を始める。大学卒業と同時に上京。上京後は南極を中心に活動しつつ、他劇団やCMへの出演など多方面で意欲的に活動中。南極では他に、公演の配信映像”ビデオ版”のディレクションや、稽古場管理を担当。

揺楽:私は俳優以外に音楽も担当しているのですが、「南極の音楽だからこんな風にしよう」というよりは、自分が作る音楽が自ずと南極の音色になっていくことを感じながら作曲や演奏をしています。個人としてのクリエーションや表現者としてのルーツが、作品を通じて全体に還元できること。それは個々を尊重する南極というコミュニティらしさであり、強みであるとも感じています。

揺楽瑠香(ゆら るか)
南極の俳優/音楽担当。幼少期にピアノ教室へ通うも、楽譜が読めないまま辞める。その後は独学でピアノを続ける。2020年、こんにち博士に作曲家としてのポテンシャルを見出され、劇団立ち上げとともに音楽クリエイターとしての活動を開始。現在はソロでのライブ活動に加え、テレビCMをはじめとする広告音楽の作曲や、時に声優としても幅広く活躍している。

井上:10人の個性の集積こそが「南極らしさ」なのかもしれません。僕は9人の個性や強みによって、自分自身が日々変化していく面白みを感じているんですよね。昔の僕は単独行動が好きな人間だったのですが、みんなと多くの時間を共有することを経て、他者から影響を受けることの豊かさを知りました。それは俳優としても言えることで、みんなの演技から多くの気づきや新たな可能性をもらっているんですよね。この数年で僕はとても明るい人間になったと思いますし、南極との出会いは人生のターニングポイントでもあったと感じています。

井上耕輔(いのうえ こうすけ)
南極の俳優 / トラック運搬担当。大阪生まれ大阪育ち。中学野球部、高校水泳部、大学進学前に藤原竜也さん主演舞台「ムサシ」を観劇し感銘を受け関西大学で演劇部に入部。演劇に魅了され大学を中退、俳優を志し上京。現在は趣味のキックボクシング(アマチュア戦績1戦1勝)で身体を動かし、南極を中心に舞台や映像等活動の幅を広げている。

こんにち博士:お客さんとのコミュニケーションにおいても、僕らが劇団らしければらしいほど、面白がってもらえている感覚があります。だからメンバーの普段の様子や、その人が果たしてくれている役割を極力作品にも反映させているんです。

でも、それ以上に大事にしているのは、「劇団らしくあること」そのものがブランドになるようなコミュニティづくりなのかもしれません。僕たちが演劇をつくるときの指針として「マジカル」であるかどうか、をすごく重要視しているのですが、それは作品だけでなく、団体の在り方そのものに通底したテーマなんですよね。演劇をやるために劇団を作ったのではなく、劇団であることに意味を感じて演劇を始めた。僕たちは、「南極らしさ」を全面に出すことに演劇的マジカルを見出しているのだと思います。

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