空腹の野犬をスーパーマーケットに放ったようなライブだ。東京を拠点に活動する2ピースバンド・板歯目は、自らの飢えを満面の笑みで満たすように大音量を繰り出す。
「ばんしもく」と読むこのバンド。千乂詞音(ちがしおん)と庵原大和(いおはらやまと)、現在22歳の2人は高校の軽音楽部で出会い、そのワイルドなロックサウンドを磨いてきた。
テキサス州オースティンで開催されている『SXSW』やカナダでのツアーも完遂し、ライブジャンキーなバンドの名はますます拡散されている。口ずさみやすいメロディとソリッドなアンサンブル、そして何よりその強烈なキャラクターについて、3月に開催された『exPoP!!!!! Vol.182』での衝撃を引きずりながら根掘り葉掘り訊いた。
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「ウリャー!」で通じ合う。ルーツの違う2人が共鳴する「内部爆発」
─3月に出演された『exPoP!!!!!』はいかがでしたか?
庵原:Spotify O-nestが初めてだったので面白かったですし、ผ้าอ้อม99999とか錯乱前戦とか知ってるバンドとも共演しつつ、知らないバンドとも出会えて楽しかったです。
千乂:そう、異種格闘技戦だったね(笑)。他のバンドのライブも含めて、めっちゃ最高でした。
─板歯目のライブは激しさもありつつ、MCはどこかゆるくて、初見のお客さんもグッと心を掴まれたのではないかと。
千乂:何を喋ればいいのか、自分でもよくわかんないんですよね。だから全くMCをしなかった時期もあったんですけど、それだと来てくれてる人に怖い印象を与えちゃうんじゃないかと。そのイメージを保つために喋らないのも嫌なので、最近はMCの時間を作ってます。みんなと仲良くなりたいんで……。
─イメージ戦略として怖い印象のままライブを進めるバンドもいるじゃないですか。
千乂:いますねぇ。本当に怖いバンドを小さい頃にいっぱい観てきたんですよ、なので自分のバンドでは逆にそういうことはしたくないんです。楽屋で喧嘩したり、マイクスタンドを投げてきたり、そういうのは嫌というか。極力怖くない人間だと思われたい。

東京で結成された千乂詞音(Vo. / Gt.)、庵原大和(Dr.)による2ピースロックバンド。昔の爬虫類の名前をバンド名に冠し、衝動とロマンティシズムが混ざり合った、シュールで鋭利な歌詞が特徴。『SUMMER SONIC』、『ARABAKI ROCK FEST.25』、『MONSTER baSH』、『イナズマロック フェス』、『ムロフェス』など大型フェスにも出演。2026年にはアメリカ・テキサス州オースティンで開催された『SXSW 2026』に出演し、海外でも注目を集めている
─千乂さんはどんなライブハウスに通っていたんですか?
千乂:横須賀のかぼちゃ屋とか下北沢の屋根裏、あとは新大久保のEARTHDOMですね。たまにLIQUIDROOMとかのちょっと大きいハコにも行く、みたいな。
─中高生の頃ですか?
千乂:いや、もっと小さい頃ですね。だいたい0から5歳の間で……。
─え、そんな幼少期に。
千乂:そう、親に連れられて。人生であの頃が一番ライブハウスに通ってたと思います。2歳くらいの時に音がデカすぎて泣き叫んでた記憶があるんですよ。ライブハウスにいる人の顔も怖いし、身体もタトゥーだらけだし、喧嘩して最後はマイク投げて帰るし……とにかく今ではあり得ないくらいの音量も出てて、2歳にはそれが限界だった(笑)。
─ある意味で英才教育ですよね。
千乂:確かに、家では何かしらの音楽がずっと流れていたかも。

─庵原さんは高校の軽音楽部で千乂さんと出会った時、その知識量や経験に圧倒されることはなかったんですか?
庵原:なかったですけど、代わりに「変なやついるな」とは思ってて。
─(笑)。
千乂:高校生の頃はあんまり喋ってなくて、お互いの好きなものもほぼ知らなかったんですよね。
─庵原さんは当時どんな音楽を聴いていたんですか?
庵原:星野源が好きでした。UNISON SQUARE GARDENとかネクライトーキーみたいなバンドも、軽音楽部に入る前から聴くようになっていて。
ただ、その前はバンドを全然知らなくて。そもそも、中学生の時にやりたいことがなくて、姉に合わせて吹奏楽部に入ったのがきっかけでいろいろ聴くようになったので、音楽に触れたのが千乂さんよりも最近なんですよね。

─逆に最近聴いたもので印象的だったものってあります?
庵原:DYGLがカッコよかったですね。あとドラえもんの“ハッピー☆ラッキー・バースデー!”って曲、これめっちゃ良くて。
─あ、それが今回のEP『なんてHAPPY LUCKY』っていうタイトルの元ネタ?
庵原:え、関係ないです……でも本当だ、確かにそうかも!
千乂:アハハハハッ(笑)。
─(笑)。ジャンルはバラバラですが、庵原さんの中で共通しているポイントはあるんですか?
庵原:んー、何というか……内部爆発してる音楽が好きなんです。曲調とかじゃなくて、「ウリャー!」って感じのやつ。
千乂:なんとなくわかるかも。大和ってこだわって聴いてるわけじゃないけど、そのバンドが持っている内側の力が外に溢れ出ちゃったみたいな瞬間が好きなんだなとは思う。
─その内部爆発してる感覚は共有できているんですね。
千乂:2人で話し合うことはそんなにないんですけど、一緒にいる時間は長いので、大和が何かしらのオノマトペを発した時になんとなく言いたいことはわかったりしますね。私が好きに解釈している場合も全然あると思うんですけど。

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「お金を払ってくれるお客さんに対して、自分たちのすべてをぶつけるだけ」(千乂)
─ライブで手応えが得られた瞬間ってありますか?
庵原:僕は自分とメンバーのことを第一優先として考えていて。言ってしまえば、僕らは自分たちの都合でライブをしていて、聴く側も自分たちの都合でライブに行くか行かないかとか、好き嫌いも決めているわけじゃないですか。それがたまたま共鳴した時のリアクションですよね、それが一番テンション上がるし手応えも感じられます。それと、自分たち優先でやったことを好きになってくれた人のことはすごく大事に思ってますね。
千乂:私は、最近手応えとかないですね。バンドを始めて2年目くらいまではあったんですけど、慣れちゃったのかな。「マジ今日最高だわ!!!」とかライブ終わる度に自分で言ってたし、前は(笑)。今は他のメンバーの演奏に対してグッと来ることの方が多いです。

─それって大きな悩みになりそうなポイントですよね、昔に戻れない感覚というか。
千乂:そう、それで今はいろいろ考えないようにしたんです。もちろん毎回全力ですけど、変に考えないでライブができるようになったんですよね。お金を払ってくれるお客さんがいるなら、それに対して自分たちもすべてぶつけようっていう。それだけです。
─シンプルですね。
千乂:自分がお金を払ってライブに行くのが好きだから、手抜いてそうなのとかに萎える気持ちがわかるんです。だから自分がバンドを始めてからは大好きなバンド以外のライブを観に行くことがあまり好きじゃなくなって。「うわ、今日めっちゃ疲れてんな」とか、心配が勝っちゃうというか(笑)。
─お客さんの目線があるからこそ、毎回全力でぶつかると。
千乂:そうなんです。別に「また来たい」って思ってもらわなくても全然いいんですけど、「あの日のバンドよかったなぁ」くらいの気持ちにはさせたいというか。
─カナダツアーやアメリカ・オースティンでの『SXSW』など、ここ1〜2年は海外でのライブも経験してるじゃないですか。観に来ているお客さんの日本と海外のノリの違いは実感しましたか?
千乂:海外のお客さんは特に「ライブを観に行ってる時の私だ!」って思いました(笑)。周りを見ないで勝手に踊ってる、けど反応は露骨というか。ダメだった時はダメっぽい反応してるし、いい感じになった時は「ウェーイ!」みたいな。
庵原:うん、日本と全然違う。でも、お客さんの雰囲気によって演奏が変わることはあまりないと思うんですよね。どちらかというと、初めての場所に行った時はお客さんよりも場所自体に惹かれるんですよね。一回行った場所はもう一回行きたくなるというか、アメリカでも日本でも今はとにかく回りたい場所がいろいろあって。
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尖ったイメージの裏にある、「超普通」な素顔
─庵原さん、今NikoんのTシャツを着てるじゃないですか。板歯目には近いイズムを感じます。
庵原:いや、これは好きで着てるだけなんで……。
─(笑)。
千乂:私はNikoんのオオスカ(Vo. / Gt.)さんの血が流れてるとは思います。小6の頃からずっとあの人のことが好きなので。
庵原:千乂さんはそうだね。

千乂:オオスカさんも私たちのことを気にかけてくれてるんですよね。メンバーが抜ける時も飯に連れてってくれましたし。仲良くもなければ、会ってもそんなに喋るわけじゃないんですけど、私はあの人の作ることとか始めること、例えばずっとツアーをやってたりとか、嘘をつかないとかが好きなんです。同じことを続けていて、今になってSpotify O-EASTでのワンマンが埋まってきてるのとか最高だなって。私にない精神力を持っていて、熱くて綺麗。オオスカさんの血が入っているんだとしたら、私も自分のことをカッコいいって思えるかも。
─最上級の褒め言葉ですね。
千乂:ヤバい、多分オオスカさんと会ったら「いや、似てねぇだろ」って言われる(笑)。でも、もし他の人からもそう見えていたらめちゃくちゃ嬉しいです。人と一緒であることはすごい好きなので、私。
─え、そうなんですか。
千乂:はい。お兄ちゃんと同じことしたいし、友達がやってることも一緒にやりたいし、流行っているものに追いつきたい。10代は人と異なりたい時期もあったんですけど……異なりたい中でも流行りは横目で追ってて(笑)。声が低くて、ライブをあの感じでやっているから尖った人間だと思われるんですけど、めっちゃ普通です。

─傍目から見ると意外です。
千乂:音楽を異常に愛しているわけでもないし、めちゃくちゃギターとか歌が好きなわけでもない。ただ周りがめっちゃサポートしてくれて、大和がすっごいいい曲を作ってくれるから、「え? いいんすか?」っていう気持ちでずっと歌わせてもらっているだけで、めっちゃ普通なんですよ。友達と遊ぶの大好き、家族も大好き(笑)。動物も虫も大好き、野球もサッカーも博物館も好き。
─庵原さんから見て、ステージ上の狂騒的な千乂さんと、普段の「普通」な千乂さんはどう映っているんですか?
庵原:んー、好きなことがいっぱいあっていいねっていう感じですかね。バンドとしても変なことはやってないというか、ギターとベースとドラムしか出てこないし、ずっと普通のことだけをしてると思ってます。
─千乂さんの「人と一緒であることが好き」という考えにかこつけると、音源やライブではキメをよく使いますよね。息が綺麗にピッタリというか、それが魅力の一つでもあるような気がしていて。
庵原:カッコよくて好きなんですよね、なんか。ベースとギターが同じフレーズを弾いていて、ドラムもそれに合わせて叩いてるみたいな、みんなで一緒のことをしてるのが好きなのかも。
千乂:大和には編曲のアイデアがたくさんあって、それに頼り切っている節があるので、私はあんまり考えてないかも。
