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椎名林檎が自作曲を封印した理由。新作アルバム『禁じ手』レビュー

2026.3.25

#PR #MUSIC

2026年3月11日(水)にリリースされた、椎名林檎の新作アルバム『禁じ手』。

同郷で古くから親交のある向井秀徳や、三宅純のような大御所から、millennium paradeなどの椎名より下の世代の才能までが集結した本作。なぜ、日本を代表する作曲家 / 演出家である彼女は、あえて「他者の才能」を求めたのだろうか?

音楽ライター・兵庫慎司が、椎名林檎の根底にある「人の才能に魅了される能力」をキーワードに、かつてなく新鮮でアバンギャルド、それでいて極めてポップな本作の魅力と、そのクリエイティビティの深層を紐解く。

椎名林檎が繰り出す『禁じ手』。自作曲を封印した新作アルバム

2026年3月11日(水)にリリースとなった、椎名林檎の新作アルバム『禁じ手』。タイトルは、自分で作曲することを封印し、他のアーティストの作品に客演した曲と、他のプロデューサーとの共作楽曲のみを収録する、という本作のコンセプトを表している。

2013年にリリースされたコラボレーションベストアルバム『浮き名』の系譜を継ぐ位置付けの作品で、アルバムタイトルの付け方もその流れであり、ジャケットが宇野亜喜良による描き下ろしである点も『浮き名』を踏襲している。しかし『浮き名』はデビューからの15年の間に男性アーティストとコラボした曲を集めたアルバムであるのに対し、本作はニューアルバムという立ち位置なのが異なる点である。

先行リリースされてから『禁じ手』に収録されたのは、伊澤一葉参加の“芒に月”、“松に鶴”の2曲、millennium parade参加の“W●RK”、“2○45”の2曲、そして、加藤ミリヤ参加の“愛楽”の計5曲である。

そして、新たに追加収録されたのが、以下の6曲。

2016年のリオ五輪のフラッグハンドオーバーセレモニー(次の五輪開催地へ五輪旗の授受を行うセレモニー)の音楽監督を椎名林檎が務めた時に、編曲や作編曲を依頼した音楽家、三宅純が作編曲を手掛けた、“至宝”と“憂世”。

1990年代中盤から2000年代前半にかけて、「日本でもっともCDが売れた時代」を作った重要なひとりである伊秩弘将の楽曲を、椎名林檎が大胆に編曲した“苦渋”。さらに、メロディの展開も、それに対する椎名林檎の日本語の載せ方も、自在極まりないサウンドメイクも新鮮な、BIGYUKI作編曲の“覚め醒め”と“秘め初め”。

また、作詞曲が向井秀徳で、編曲が椎名林檎という、これまでも何度も組んできた2人が歌う……というか、椎名林檎は歌い、向井秀徳は曲に声を入れる“SI・GE・KI”も収録されている。この曲はZAZEN BOYSのファースト・アルバム収録曲のカバーである。

このように、本作で初めて発表された新曲も、先行リリースされていた既発曲も、これまでの椎名林檎の作品にはなかった新鮮さと驚きに満ちている。

向井秀徳がNUMBER GIRLの頃から使い続けているフレーズ<くりかえされる諸行無常 よみがえる性的衝動>も、本作ではまったく違った響きを持っている。それは決して、「椎名林檎の声でも再現されているから」という理由だけではない。

なぜ彼女は誰かと組みたがるのか? 異常に高い「才能に魅了される能力」

「自作曲封印という“禁じ手”を繰り出し、タイトルに掲げた」作品である、という事実は、ご存知のように、椎名林檎にとってめずらしいことではない。

そもそも、椎名林檎はひとりですべてを作って完結させるよりも、誰かに曲を作ってもらったり、誰かにアレンジを託したり、誰かと共同でプロデュースをしたり、誰かと一緒に歌ったり、というふうに他者とコラボレーションしていくことの方に、重きを置いているクリエイターである。

ライブのステージ演出や、MVやVJなどの映像関係や、前述のリオ五輪の終幕セレモニーのような規模の大きな仕事の時は、人の手を借りなければいかんともしがたいだろうが、それだけではない。

作詞、作曲、アレンジ、プロデュースという、椎名林檎ならひとりで完結できる音楽の創作作業においても、そうしない。誰かと何かをやりたがる。なぜそうするのか。

その人の才能が魅力的だから、自分の音楽に取り入れたい。あるいは、それが「自分の音楽」にならなくてもいいから、一緒に何かを作りたい。才能ある誰かと何かをやることで、自分ひとりでは想像も及ばないような、新しいものが生まれるかもしれないので、その可能性にトライしたい。そのことが、これまでの自分を変えてくれるかもしれない。そもそも、誰かに出会いたい。誰かとなんかやりたい。ひとりで作っていると飽きる。……などなど、理由はいろいろ考えられるし、どれも間違いではないという気もするが、それらの大前提として、「人の才能に魅了される能力が異常に高い」ということが、とても大きいのではないか。考えたら、そもそも、そういう人なのではないか。ということに、本作をくり返し聴いていて、思い当たった。

人の才能に魅了される能力が異常に高いから、それを見つけるのが早いし、その人の才能の核の部分を把握できる。自分がどう組めば(もしくは組まなくても)、どうやればその人の才能を活かすことができるのかがわかる、という能力は、椎名林檎の数ある武器の中のひとつであり、彼女のどの作品にもその要素は入っている。

前作『放生会』も13曲中の7曲でゲストの参加があったが、今作のように「作曲しません」というコンセプトを決めて、その部分を前面に押し出して作ると、こんなに新鮮で刺激的でポップな作品になる(そう、もっとアバンギャルドになっても不思議はないのにポップなのだ)。それが、本作『禁じ手』の面白さなのではないか、と思う。

それから、もうひとつ。ラストの曲である“憂世”には、“antiwar”というサブタイトルが付いている。1曲目の“至宝”の歌詞がフランス語で歌われているのに対して“憂世”の歌詞が英語なのは、椎名林檎と初めて仕事をした頃の三宅純はパリ在住だったが、2024年〜現在はニューヨーク在住になっているという事実に添った、と捉えることも可能だ。

が、この曲が届く人・届く範囲を、少しでも多く・広くしたくて、フランス語ではなく英語を選択したのではないか、と推測することもできる。

『禁じ手』

2026 年 3 月 11 日(水)発売
【初回限定盤】 【通常盤】
【初回限定盤】 UPCH-29502 ¥3,960 (税込)
・ケース付きハードカバー・ブック仕様
【通常盤】 UPCH-20716 ¥3,300 (税込)

<収録曲>
01 至宝 三宅純と椎名林檎
02 苦渋 伊秩弘将と椎名林檎
03 芒に月 伊澤一葉と椎名林檎
04 覚め醒め BIGYUKI と椎名林檎
05 W●RK ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄと椎名林檎
06 SI・GE・KI 向井秀徳と椎名林檎
07 2○45 ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄと椎名林檎
08 秘め初め BIGYUKI と椎名林檎
09 松に鶴 伊澤一葉と椎名林檎
10 愛楽 加藤ミリヤと椎名林檎
11 憂世 三宅純と椎名林檎
※注:ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ(millennium parade)

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