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『マーティ・シュプリーム』評 シャラメが体現する、デタラメなアメリカンドリーム

2026.3.17

#MOVIE

現代ハリウッドを代表する俳優となったティモシー・シャラメと、鬼才ジョシュ・サフディが手を組んだ最新作『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、1950年代に実在した卓球選手の人生をデタラメに、そして鮮烈にアレンジして描き出した。

不遜で自己中心的な主人公マーティがニューヨークを疾走しながら、周囲の人々を自分の欲望の渦へと引きずり込んでいく。その剥き出しのエネルギーは、何を表しているのか? ライター・木津毅が、癖のある配役や音楽などにも着目しながら掘り下げる。

※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

ポップカルチャーが向き合い続けた「アメリカンドリーム」

アメリカの夢とは何なのか。幾多のアメリカ映画が……いや、アメリカ文化が繰り返し投げかけてきた問いだ。ときとして人間を飲みこみ破滅に追いこんでしまうほど巨大な「夢」は禍々しいものとしても捉えられてきたし、それが引き寄せる膨大な欲望が世界中に害悪をまき散らしてきたことも、さまざまな分野で何度となく指摘されてきた。ではここで、本作の主人公マーティ・マウザーの言い分を聞いてみよう。

「俺も人に助けは求めずすべて自力でやる。頼りは自分の才能だけ。そうでないと――成功は無意味だ。俺の場合はね」

そして端的に「夢が実現できなければ?」と問われれば、こう答えるのだ――「そんなこと考えもしない」。

マーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)

つまり『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(以下、『マーティ・シュプリーム』)は、1950年代を舞台にしてアメリカンドリームが叶うものだと信じて疑わない男を描くことで、ある時代のムードを捉えた作品だと言えるだろう。そこで冒頭の問いに戻ることになる。だとすると、その「夢」とはいったい何なのか。

マーティが象徴する、自己中心的なアメリカンドリーム

これまでおもにジョシュ&ベニーの二人で作品を発表してきたサフディ兄弟だが、コンビを解消し、兄ジョシュが本作を、弟ベニーが『スマッシング・マシーン』(2025年)を監督。奇しくも両作とも実在したスポーツ選手をモデルにしたものだが、その作風はずいぶん異なっている。後者については、格闘家マーク・ケアーが内に抱えていた苦悩にフォーカスを当てた内省的な一本である。

一方の『マーティ・シュプリーム』は、1950年代に実際に活躍した卓球選手であるマーティ・リーズマンの人生やパーソナリティーに着想を得ながらも、きわめて自由な翻案としてぶっちぎる荒唐無稽な快作だ。1952年のニューヨークを舞台に、得意の卓球で世界チャンピオンになって名声を得ることを目指すマーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)が、その傍若無人な振る舞いで数々のトラブルを引き寄せながら、卓球の世界選手権に出るため金策に奔走する姿が怒涛のスピード感で映しだされる。

あまりに無責任で自己中心的な主人公が金を得るためにニューヨークの街を移動し続ける映画という点ではサフディ兄弟の前作『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)とほぼ同じ内容と言えるが、時代設定と主人公の年代の違いはシンプルながら重要なポイントになっている。前作の舞台は2012年、アダム・サンドラー演じる宝石商はギャンブルに狂った中年男だったのに対し、今回は第二次世界大戦後間もない頃合いであり、マーティは世界を目指す若者だ。パックス・アメリカーナ――アメリカが経済的にも文化的にも世界の覇権を握ろうとするなか、よくも悪くもさらなる高みを目指していた時代。マーティの若さは、それだけで未来に対する無鉄砲な野心を体現する。

だがマーティはどこまでも不遜な人物で、彼自身はアメリカの威信を背負う気などさらさらない。国の期待を引き受けている人物として登場するのはむしろ、マーティの一番のライバルである日本人選手エンドウだ。演じるのはデフリンピックのメダリストの川口功人。彼の活躍を報じる偽の日本のニュース映像がなかなかよくできていて、そこでエンドウは「謙虚な一職人」として讃えられる。そして彼は、国民の期待を一身に背負って日本で開催される世界大会に出場することになる……一丸となって戦後の復興を目指すことが当時の日本の「夢」であったという描かれ方で、これはかなり的を射た解釈だろう。

対するマーティは個人主義的であり……というか、とにかくムチャクチャである。映画の冒頭から平気で嘘をつく人物であることがあっさりと示されるが、その後もつねに場当たり的な行動を続け、あらゆる人を利用することで自らの野心を叶えようとする。だから、本作はアメリカンドリームと言われるものがそもそも、デタラメなのだと言ってのけるようなのだ。

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