アメリカ・ユタ州のパークシティにて1978年から開催されてきた『サンダンス映画祭』。42回目となる今年は1月22日(木)から2月1日(日)まで開催され、多くの観客で賑わった。長久允監督によるオリジナル映画『炎上』は同映画祭のNEXT部門へ正式出品され、現地時間1月25日(月)にはワールドプレミア上映を果たした。
同作の主人公は、両親に厳しく育てられ、自身の感情を表現することが苦手な樹里恵(通称・じゅじゅ)。家族との関係に耐えきれなくなった彼女が、家を飛び出し辿り着いた先は新宿・歌舞伎町。初めて知る世界や仲間と出会い、そこは唯一安心できる居場所となったはずだったが……それぞれの生きづらさと傷を抱えた者が集う歌舞伎町で、彼女が経験した時間を辿る物語が刻まれている。
主人公・じゅじゅ役を務めるのは、映画『国宝』、ドラマ『ひらやすみ」などの助演で2025年の映像界にあらたな刺激をもたらした、森七菜。同映画祭の常連ともいえる長久とともに、世界で初めての上映となるワールドプレミアから一夜明け、映画祭の熱気の合間を縫って、言葉を選びながら心境を語ってくれた。
写真は、写真家の石田真澄がサンダンスの地で撮り下ろしたもの。インタビューとあわせてお楽しみいただきたい。
INDEX
「海外で初めて観た日本の作品が自分の作品だっていうのは、『人生』だなと」(森)
ー昨日のプレミア上映はいかがでしたか?
森:すごく楽しかったです。作品を観るのは2回目でしたが、実は自分の出演している作品を2回観ることもなかなかなくて。それに、海外で日本の映画を観るのも初めてで。私にとって海外で初めて観た日本の作品が自分のものだっていうのは、すごい記念だな、なんだか人生っぽいなと思っています。
海外の皆さんは、想像していなかったポイントや、「じゅじゅ」として嬉しいポイントでたくさん笑ってくれていて、上映の場に居られてよかったです。あとは、監督に対する観客のみなさんの熱量が半端なくて。なんだか、よりリスペクトしました。

2001年8月31日生まれ、大分県出身(大阪府生まれ)。2019年7月に公開された映画『天気の子』のヒロイン・天野陽菜役に抜擢され注目を浴びる。2020年1月公開の岩井俊二監督作品映画『ラストレター』に岸辺野颯香/遠野裕里(高校時代)役にて出演。以降も着実にキャリアを重ね、Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」で主演を務め国内外で高い評価を獲得。2025年には、『国宝』、『秒速5センチメートル』、「ひらやすみ」(NHKドラマ)など話題作への出演が続いている。
長久:この映画はすごくシリアスな題材を扱っていたり、複雑な物語かつ表現方法も決してストレートではなかったりして、お客さんたちはどう受け取るだろうと上映前は不安に思っていました。だけど、細かい感情や抽象的な表現まで受け止めてくれているのを、上映中のお客さんのリアクションや上映後のQ&A、その時舞台上からみた皆さんの表情で感じられたので、本当に嬉しかったです。最後エンドロールで拍手がバーって起きた時に、こっそり泣いてしまいました。Q&A終わりでも泣いちゃったし。本当にこの映画を作ってよかったなって、ワールドプレミアの終わりに思いました。

1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店でCMプランナーとして働く傍ら、映画やMVなどで監督を務める。2017年、短編『そうして私たちはプールに金魚を、』が第33回サンダンス映画祭短編部門にて日本人史上初めてグランプリに輝く。19年、長編初監督作『WE ARE LITTLE ZOMBIES』公開。
ー映画祭の雰囲気はどんな感じですか、盛り上がっていますか。
森:わいわいって感じですよね。
長久:わいわいですね(笑)。『サンダンス映画祭』自体、ずっと行われてきたパークシティで開催される最後の年で、来年から違う場所で開催されるというメモリアルなタイミングで。そういうこともあって、お客さん自体が今年は特に多くて。そのなかで『炎上』のプレミアを期待して来てくれる人の熱量もすごい高くて、終わった後にみなさんが熱い感想をくれました。本当にわいわいです。



ー森さんは劇場映画の単独主演でいうと、意外にもこの作品が初めてですよね。主演を務めた作品が海外の映画祭に出品されることが決まって、どう思いましたか。
森:おこがましい気持ちではなく、そんなに驚きませんでした。長久さんの世界観が世界にとっても日本にとってもすごく面白いというのがわかるから、びっくりしなくて。自分がその一部になれたっていうのはすごく幸せなことだし、初めて主演する映画がこんなに素晴らしい作品だということに、本当に感謝しかないです。
ー『炎上』を観るのは2回目ということでしたが、1回目の試写からは時間が経っての鑑賞ですよね。今回また改めてご覧になっての、率直な作品の感想を伺いたいです。
森:イメージが変わりました。1回目はどうしても自分の反省点に重きを置きがちで。2回目も反省は正直あるんですけど、でも今回はストーリーや、たくさん出てくる登場人物たちの思いに引き寄せられた部分が大きくて。なんか……泣いちゃった(笑)。泣いちゃって恥ずかしくて。自分の出てる作品で、ましてや自分が出てるシーンで涙が出てると、すごい恥ずかしいんですけど。でも、泣いちゃったなっていうのが素直な感想ですね、2回目は。
ーどのシーンかお聞きしてもいいですか。
森:恥ずかしいので、秘密でお願いします(笑)。
INDEX
「おこがましいけれども、彼女彼らになって作っていくっていう意識は自然にしてたな」(長久)

ー『炎上』は比較的ハードな物語だと思いますが、撮影は3週間強で敢行され、スケジュール的にもかなりハードでしたよね。撮影期間の中で印象に残っていることはありますか?
森:いや、なんかあんまりハードだったって印象がなくて。
ーそうでしたか。
森:はい。ただ……なんていうか、ただただ1日中、じゅじゅだったなっていうイメージで。そこにあんまり、ハードとかなかったかなって。その時住んでた場所も現場から近かったですし、夜中にラーメン食べて寝て、みたいな時間も含めて楽しかったですね。
長久:それって、撮影現場のシュート以外でも1日中じゅじゅだったっていうこと?
森:そうですそうです。
長久:じゃあ、じゅじゅと同化して撮影期間を生きていたってこと?
森:うーん。でも、自分が普段はあんまり選ばない道とかご飯とか、選びがちだったかもしれないです。服とかも。
ー現場でもカップ焼きそばの大盛りを食べていらっしゃった姿が印象に残っていて。
森:なぜか『炎上』の撮影期間はそういうのが好きだったんですよ(笑)。役に対するイメージとかそんなんじゃなくて、その役を演じている中でのブームがあるんですよね。でもそれがその時の自分を作っていたと思います。
長久:いま話を聞いていて、撮影クルーにも「同化していく」のに近い感覚があったかもなと思ってて。街や環境に敬意を払いつつ歌舞伎町にお邪魔させてもらって、そこであの物語を撮っていくなかで、全体のシュートの開始から仕上げまで、もちろん自分は当事者ではないけど、そのものになっていくというか。おこがましいけれども、彼女彼らになって作っていくっていう意識は自然にしてたなと。いま、実は森さんと同じ気持ちだったのかもなと思いました。実際のトー横広場での撮影は、すんなりとシュートできる環境ではなかったから大変なことはあったけど、それはみんなで力を合わせてやってきた、という感じでしたね。
