EmeraldがゲストにYONA YONA WEEKENDERSを迎えての2マンライブ『Re:Start』を6月10日に渋谷WWWで開催する。初めての対バンですぐに意気投合したというこの2組は、どちらも「シティポップ」というジャンルにくくられることが多いが、むしろそこからはみ出す歪さこそが魅力的。その「歪さ」の背景にあるのは、パンク、メロコア、ハードコアなどで培われた精神性だ。
Emeraldはインディペンデント、YONA YONA WEEKENDERSはメジャーレーベルと、現在の立ち位置こそ異なるが、どちらのバンドもメンバーは音楽以外の仕事もし、家族を持っていて、そのバランスと日々格闘しながら活動を続けている。Emeraldの中野陽介と藤井智之、YONA YONA WEEKENDERSの磯野くんとキイチを迎え、この2組だからこそ話せるリアルで人間臭いエピソードが数多く飛び交った対談から、彼らが大切にしている価値観がきっと伝わるはずだ。
INDEX
珍しく出会ってすぐに意気投合。両者が感じたシンパシー
―2組は最初の対バンですぐに意気投合したんですよね。
藤井:最初は(中野)陽介さんが『exPoP!!!!!』で磯野くんに初めて会って自己紹介したら、「“東京”めっちゃ聴いてます」みたいなことを言ってくれたっていう話を聞いて。
中野:その後2020年3月に渋谷WALL & WALLで対バンして、意気投合したんですよね。
磯野くん:Emeraldはいい意味でどこか泥臭いというか、「ただのオシャレじゃないな」っていうのは感じていたんですけど、初めて対バンをして話をしたときに、「こういうことか」ってシンパシーを感じたんです。これまで前身バンドも含めていろんな経験をされて、泥臭い活動も経てここにたどり着いたんだなっていうのが、ステージからビンビンに伝わってきて。
中野:たしかに、いろんな経験をしてきた(笑)。YONA YONAも、都会でサバイバルしてるかっこいいバンドだなと思ってて。いい大人たちと出会って、レーベルの他のアーティストも好きなアーティストが多いし、純粋に羨ましいなと思って見てました。
藤井:僕のなかの「いい音楽」の定義として、「その音楽を聴いたときにシチュエーションが思い浮かぶ」っていうのがあって、YONA YONAはめっちゃいろんなシチュエーションに合うんですよ。夜でも昼でもいいし、海でも山でもいいし、「それって最強じゃん!」と思っていて。
磯野くん:うれしいです! 実際、「この曲はこういうシチュエーションで流れる」みたいな想像をしながら曲をつくっていて、例えば“君とdrive”は「車のCMでかかったらいいな」と思ってつくって、本当にHonda carsのCMに使っていただいたんですよね。ちゃんと自分のイメージが伝わったのはうれしかったです。
中野:作家としてめちゃめちゃ優秀ってことですよね。
磯野くん:いやいや、ありがとうございます。
キイチ:でもほんと、僕らはいろんなイベントに出ましたけど、すぐに仲良くなれたのはEmeraldくらいで。だから絶対今後も一緒にやっていきたいと思ったんですけど、その直後にコロナが始まって、一緒にできなくなっちゃって。
磯野くん:そう、それで2~3年空いちゃって。今回Emeraldのイベントに声をかけていただいて、もちろん「ぜひ!」って返事をして、そのあと2バンドで一回飲みに行ったんですよ。その日が3年ぶりくらいだったんですけど、全然ひさしぶりな感じがしなくて(笑)。
中野:すげえ寒い雪の日だったよね。
磯野くん:みんなで雪バシバシかぶりながら煙草吸って。
中野:僕ら年に一回は絶対2マンをやりたいと思ってて、その一回をめちゃくちゃ大事にしているんです。これまでbonobosを呼んだり、モノンクルを呼んだりしてきて。今回YONA YONAに声をかけたらすぐに返事をくれて、それはすごくうれしかったですね。
INDEX
音楽だけでは生活できない難しさと、続けていくために守らなければならないもの
―それぞれから「泥臭い」「サバイバル」という言葉が出たように、メンタリティの部分で共感し合えている部分も多そうですよね。Emeraldはインディペンデント、YONA YONAはメジャーレーベルという違いはありますが、YONA YONAはもともとパンク~メロコアシーン出身のメンバーで構成されているので、DIY精神は強いと思うし。それと、音楽以外の仕事や家族も大切にしながら活動しているというのも共通点ですよね。
中野:僕らはホントにライブを一生懸命やって、稼いだお金をバンド費用としてプールして、それを使って音源をつくって、それを売って次の活動資金をつくって、っていうのをずっと回してる感じです。そこに大人が入ってブーストするっていう機会を一度も得ないまま……別に大人が嫌いとかそういうわけではないんですけど。
藤井:いい出会いがありそうだったけど、なくなっちゃったりね。
中野:ちょうどコロナの前に話が来てたんですよ。インディペンデントのくせに結構フェスにも出てて、「調子いいな」と思ってたらコロナが来ちゃって……そう言ってる間に、「DIYバンド」という名前を欲しいがままにしました(笑)。
磯野くん:たしかに僕らは、たまたまいまの事務所に声をかけていただいて、軌道に乗らせてもらったのは大きかったですね。もともとYONA YONAは、僕以外はみんなそれぞれ別のバンドもやってたし、そこまで力を入れるつもりじゃなかったんです。僕は営業の仕事をやってて、正直あんまり時間がなかったというのもあって。でも、「こういうやり方があるよ」「こういうライブに出たらいいよ」っていろいろ教えてもらって、事務所が支えてくれたのはすごく助かりました。
ただパンク出身っていうのもあって、「メジャーってなんか嫌だな」っていうか、「こういう曲を書け」「こういう服を着ろ」みたいなことを言われたら嫌だなと思ってたんです。でも結果的に人に恵まれたというか、言いなりになるんじゃなくて、ちゃんと対等に話せるチームと巡り合えて、運がよかったなと思います。
―磯野くんは去年一度転職をされているそうですが、それはよりバンドに力を入れるため?
磯野くん:そうですね。キイチはもっと動けるように、正社員からアルバイトに戻る選択をしたり。
キイチ:妻の地元が大阪なので、大阪にまとめて帰るときに有給を使っていたんですけど、バンドが軌道にのって平日稼働が多くなったから、社員なのに平日の仕事を休むことも増えてしまって。そんなこともあって社内でいびられちゃって、「それならもうバイトに戻しちゃってください」って、自分から言いました。メジャーデビューしたばかりの頃だったんですけど。
中野:メジャーに行って、環境が大きく変わったのも大きかったの?
キイチ:ですね。計画的に「いつまでに何曲つくる」って決まっていって、でも、そういうことをやったこともなかったから、「いつまでにレコーディング、いつまでに配信、その前にMV撮影」って感じで走り続けているうちに、気づいたら2年経ってたって感じなんです。
だから、周りから見てる印象と、僕らが実際に感じてることって、結構差があるんだろうなって。友人のバンドマンから「メジャーデビューおめでとう」「リキッドルーム、ソールドアウトやばいね」「仕事もうやめた?」とか言われるんですけど、まだゴリゴリバイトしてて。なので、「もうちょっと力を入れてほしいです」みたいなことを、レーベル側に直に言ったりもして。
中野:ちゃんと話をしたんですね。
キイチ:そうですね、マネージャー呼んで飲んだりもして。チームなので、やりたいことが違ったり、向いてる方向が違ったら、「違うんじゃないですか?」って言う必要があるなと思っていて。それで結果的に、一人マネージャーが辞めたんです。
中野:YONA YONAのチーム感みたいなのはずっと感じてます。
キイチ:いまはホントにすごく一体感があって、チームが支えてくれてるなってめちゃめちゃ感じてます。
磯野くん:家族がいたり仕事があったり、年齢的にも環境的にも音楽に全振りすることはどうしてもできないので、そこのバランスはずっと「どうなんだろう?」って探りながらで。だからいまも安泰とは全然思ってなくて、まだまだですね。