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ハイバイ『再生』が再起させる、命の営み。快快のメンバーが作品と劇団の現状を語る

2023.5.30

#STAGE

まもなく全国ツアーが始まる、ハイバイの『再生』。もとは多田淳之介が2003年に発表した作品だが、同じ状況を3回繰り返すという特異な構造は、演劇人が持つ「演じること」の琴線や、ライブ性によった音楽的な共感を喚起させ、これまでさまざまなかたちで再演やリクリエーションされてきた。

今回の『再生』は、2015年にもいちど演出を手がけている岩井秀人による新たな上演で、当時コラボレーションしていた快快のメンバーからは舞台美術の佐々木文美、衣装の藤谷香子も加わっている。今回の人気作のクリエーションがどのように進んでいるのかも気になるところだが、2015年から2023年に至る8年間という時間が、たとえば「劇団」と呼ばれるような、創作のためのコレクティブにとってどのようなものとしてあるのか、影響を与えているのかも気になってくる。

音楽にせよ演劇にせよ造形美術にせよ、つくることには一定の熱量が必要だが、それを燃やし続けるには労働や暮らしのリアリティとのバランス、折り合いの付け方が問題になる。しかし、それでもつくることは続けたい……というのも人の心だ。佐々木と藤谷に『再生』と快快について語ってもらう今回の対談を通して、クリエーションと集団性、そして人生について考えてみる。

(2015年版は)「みんなで集まったっていうのを、すごく大切にしたかった」(佐々木)

ー今回の『再生』は、2015年に岩井秀人さんと快快が全面的にコラボレーションしたバージョンを引き継ぎつつ、『ワレワレのモロモロー2022』に続いて佐々木文美さんが舞台美術、藤谷香子さんが衣装を担当してもいます。お二人にはどのようなきっかけでハイバイから声がかかったのでしょう。

佐々木:覚えてない(笑)。でも2015年をベースにして進化させたい、あの時実現できなかったことを実現したいという話はあったよね。滝をつくるとか。

ー滝!

佐々木:結局、滝は今回も断念して「こうなったら次は山奥の滝壺で再演しよう〜」って話になってますけど。

舞台美術担当の佐々木文美

ーじゃあ、2015年のときのクリエーションはどんな感じだったですか?

佐々木:あのときは、ギリシャ神話や太古のすごい昔から人間がやっていた祭りの話を現場でしつつ、人間の営み、「なんかいろいろあるよね」みたいな話を直感的に交わしながら、自分の身体が納得いくところを目指していった感じですかね。それが『再生』のコンセプトとも連続するという風に思っていたし……。あとちょうど同じ時期に(クリストファー・ノーラン監督の)『インターステラー』を見たあたりで、本棚いいね、ってなったんですよ。

ー遠い宇宙に旅立った主人公のマシュー・マコノヒーが娘と交信する本棚。

佐々木:「これじゃん!」ってなりました。快快の世界観ってけっこうどれもそうだと思うんですけど、まず自分の部屋があって、その中に地球があって、地球の中にさらに宇宙があるみたいな感覚でしょう。自分の小さな部屋に、世界も地球も宇宙も歴史も何もかも入ってるっていうイメージ。

ーそれで思い出しましたが、客席も特設されていて、ものすごい急な傾斜のついたすり鉢状のつくりでしたね。三面が客席になって舞台を取り囲んでいるので、全体が小さな部屋のようにも感じられる。

2015年の客席(撮影:加藤和也 舞台美術:佐々木文美)

佐々木:観客も俳優も、動物として舞台上にある泉に水を飲みにくるというイメージもあって、そのミックス。あと、これは当時から誰にも伝わらないだろうなと思ってましたが、全体でイスラームの聖地であるカアバ神殿のイメージもあったんです。だから外側を黒い布で覆って。何だろうな……一体感、みたいな。みんなで集まったっていうのを、すごく大切にしたかったんですよね。

2015年の公演風景(撮影:加藤和也 舞台美術:佐々木文美 衣裳:藤谷香子)

藤谷:カアバ神殿の話はいまはじめて知った(笑)。「なるほどー!」ってなってるよ。たしかに快快の作品は部屋感あるよね。みんなとにかくバラバラの個人で、バラバラの集まりであるってことが衣装でも伝わるといいなと考えた記憶がある。あとはとても具体的で、動きがドラマチックになるような素材を選んでいた。動くと身体が拡張されるみたいな感覚を持てるってことを意識してました。

ー出演者が本当にみんなバラバラの格好だったじゃないですか。『北斗の拳』のケンシロウみたいな格好の人もいれば、バレリーナのようなのもあって。あれは、俳優ごとの経験とか記憶を参考にしている印象もありました。

2015年の衣装(撮影:加藤和也 舞台美術:佐々木文美 衣裳:藤谷香子)

藤谷:ほぼ、そう。快快の作り方が結構そうなんですけど、個人のトレースなんです。各人のなかでそのときタイムリーなものを集めて作品にする。個人から発したものを『再生』と私のフィルターを通すとあれになりまーす、っていう。服に関しては個人ありきなんでよ。だから今回のバージョンでも、初めましてのダンサーさんたちばかりだから、わざわざ面会の時間を取ってもらって、話を聞きました。

ー藤谷さんの衣装のつくり方はいつもそんな感じ?

藤谷:ほぼ。お稽古に参加できる時間の余裕があれば、ひたすら観察しますけど。私服チェックして、この人はこういう感じが好きで、こういう振る舞いをする人なんだとか。あとはよく「(衣装を着て)テンション上がってる?」という質問をします。

ー衣装を着ることで出演者のテンションを上げたいと思っている?

藤谷:それはもうマスト。マストミッション。自分の衣装をつくりたいという欲望はほぼなくて、舞台の空間を形成する一部としての人、その個人の気持ちの底上げ、援護射撃みたいな。下駄を履かせるじゃないけど、既製品の服だったとしてもその人のために選んでます。重要なことです。

衣装担当の藤谷香子

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