日常生活において、いきなり初対面の相手から「相談に乗ってください!」と話しかけられることは、ほぼない。ほとんど全ての場合、職場や学校、もしくはネット上などで何らかの関わりがある人とコミュニケーションをとり、だんだんと関係が深まったところで「実は相談したいことがあって……」となる。
ということは、人生相談は普段の何気ない会話からうっすらと始まっているとも言える。
「雑談の人」として著書を発表したり、ポッドキャストに出演したりしている桜林直子さんは、マンツーマン雑談サービス「サクちゃん聞いて」を主宰している。
オンラインで1回90分、月に1度のペースで5回続ける。「有料の雑談」というのも、どういったものなのか想像しづらいが、ここには人生相談未満のモヤモヤを掬い取るヒントが大いに埋まっている予感がする。
桜林さん、上手く雑談するコツって何ですか?
INDEX
人生相談だと悩み事を整理しすぎちゃう
ーなぜマンツーマン雑談サービスを始めようと思ったんですか?
桜林:このサービスは2020年の頭からやってるんですけど、その前はnoteに文章を書いてたんです。誰に頼まれたわけでもなく、頭の中の整理整頓という感じで書き散らかしてました。それを読んだ方から「自分も書いて整理してみたい」と言われるようになったんですね。「とりあえず書いてみるといいんじゃないですか」と答えていたんですけど、なかなかハードルが高くて難しいという人が多くて。だったら、しゃべってみるのがいいんじゃないかと思ったんです。
しゃべるのなら、何回同じ話をしてもいいし、途中で内容が変わってもいいし、正確な言葉遣いじゃなくてもいい。会話が止まっちゃったら、聞いてる方が手伝うこともできる。そもそも私も書くことはそんなに得意ではないですし、友達とおしゃべりしてコミュニケーションすることは異様に好きなので、これをやってみようかなと。当時はクッキー屋を経営していて収入もあったので、本当に気軽に始めたんですよね。

1978年、東京都生まれ。洋菓子業界での勤務を経て、2020年にマンツーマン雑談サービスをスタート。著書に『世界は夢組と叶え組でできている』『つまり“生きづらい”ってなんなのさ?』などがある。ジェーン・スーさんとのポッドキャスト「となりの雑談」も人気。
ー対話主体のサービスを「人生相談」や「カウンセリング」、「コーチング」という看板でやっている人は多いと思うんですが、「雑談」にしたのが肝ですよね。
桜林:人の話を聞くのは好きだけど、自分の話をするのは苦手という人はたくさんいるんですけど、、そういう人が自己開示していない感じって周りに伝わっちゃうんですよ。そうすると、ただただ自分の話がしたい人が寄ってきちゃう。「誰でもいいから話したい」という人が、鬱憤を投げ入れるゴミ箱みたいに使われるから、それは楽しくないですよね。ずっと相手の話を聞いてるだけというのも、いびつなバランスだと思うんです。
だから、自分の話をする場所を作りたかったんですよね。でも「あなたがしゃべるんですよ」と強調すると、尻込みしてこなくなっちゃうかもしれないので、双方がしゃべるニュアンスがある「雑談」という言葉でフワッとさせたかったんです。
ー「あなた1人がしゃべるんじゃないんですよ」と。
桜林:そうそう。気軽にやりましょう、という。あと、みなさん真面目なので、人生相談と銘打つとしっかりと悩み事を整えて持ってきちゃうんですよ。相手の期待に応えようとしちゃう。それ故にのびのび自分の話ができないんですよね。
ー雑誌やラジオの人生相談コーナーでは、簡潔にまとまっているお悩みが採用されやすいと思うんです。その方が答えやすいし、読者やリスナーにも伝わりやすいので。だから、相談する側も「お悩みはこうあるべき」みたいな定型を内面化しちゃっているというか。
桜林:そう、答えやすいように悩みを整理してくれちゃうんですよ。私は人生相談に答えるような仕事を全部断ってて。整理された相談に書かれていないことを想像で埋めるような作業をしたくないからなんですよね。エンタメとしては面白いんですけど。

INDEX
「まとまっててたまるかよ」
ー「何を相談したいのか」がまとまっているならもうほとんど答えは出ているというか、それに至るまでのモヤモヤが重要な気もします。
桜林:いわゆる普通の人生相談は、Q&AのQの部分が短くて、Aの方が長いですよね。私が雑談の場でやっているのは、Q&Q&Q&Q&Q&Q……みたいな感じなんですよ。ずっと質問をして、どんどん広げていって、わからなくなっちゃうところまで行く。それが楽しいので、すぐに答えを出しちゃうのはもったいないと思うんですよ。
ー『あなたはなぜ雑談が苦手なのか』にも「あれこれ話した後で『まとまってなくてすみません』と言われると、いいんだよ、むしろまとまっててたまるかよと思う」と書かれてます。
桜林:「全然まとまってなくていいからね」と言いながら、本人も何を話してるのかわからなくなるくらいバーッと吐き出してもらって、程よいところでちょっと分解するというか。「この話とこの話は、全然違うけどこういうところが同じだね」みたいに分類していくと、傾向が見つかったり。そこまでいくには、とにかく本人にめちゃくちゃ話してもらわないといけないんですよね。なので、雑談中は相手が8割話して、私がしゃべるのは2割くらいのバランスです。
ー1回90分という時間設定も絶妙ですよね。
桜林:最初はアイドリングも必要なので、60分だと会話が乗ってきた頃に終わっちゃうんです。カウンセラーさんにお話を聞いたら、カウンセリングはだいたい40分、長くても60分でバシッと終わらせるそうなんです。もっと話したいと思うくらいが次に繋がるということみたいで。でも、私は話し切ってほしいので90分にしてます。今のところ、途中で話したいことがなくなった人はいないので、ちょうどいいですね。

ーそれを月に1回、5回でワンセットになっています。
桜林:月に一度整体に行ってメンテナンスする感じと似てるかもしれないです。宿題を出したりしないので、次の雑談までに話したいことをメモする人もいるし、当日話しながら思い出す人もいます。
ー回を重ねるごとにしゃべり方は変わっていきますか?
桜林:初回は緊張してますし、ざっくり自己紹介や現状の説明をして終わっちゃう感じなんですよね。2回目以降は話したいテーマを持ってきてそれを深掘りすることもあるし、フワッとしてる人もいます。過去の話をする人もいれば、今の自分の気持ちを掘っていく人もいて、人によって違うんですけど、やっぱりどんどん話しやすくなっていきますね。私にも慣れてきて、話すことを怖がらなくなっていくというか。
INDEX
そもそも話は面白くなくていい
ー私はしゃべるのが好きな方なので、それが苦手な人がそんなにいるということ自体がちょっと驚きでした。
桜林:特に男性は「仕事のこと以外、何を話したらいいかわからない」という人が多いですよね。学生の頃から「自分語りは寒い」みたいな価値観があるみたいで、遠慮しちゃうんですよ。
ー自分語りこそ聞きたいのに。
桜林:そう。サービスとしてお金を払ったから、やっと思いっきりしゃべれるという人はけっこういます。それでも「自分ばっかり話してすいません」って申し訳なさそうにしてるから、癖になっちゃってるんでしょうね。
ー例えば親や友達から「誰がお前の話に興味あるんだ」と言われて育ったら、なかなか自己開示できないでしょうし。
桜林:また否定されるかもと思うと、怖いですもんね。自分の話だけじゃなくて、自分自身に価値がないと思ってしまう。そもそも、エピソードトークじゃないんだから、オチはいらないし、面白くなくていいんですよ。「話すなら面白くないといけない」みたいなハードルがあるけど、何をもって面白いとしてるのかもわからないですし。

ーある意味、バラエティ番組の弊害というか。
桜林:芸人さんの上手なおしゃべりに引っ張られてるのかもしれないですね。あと、男性は暗い話を嫌がる人がけっこういて。そこまで深刻な内容じゃなくても、ちょっとでもネガティブな要素があったらNG。そういう人って、自分のしんどい話もしないでしょうし。
ー『あなたはなぜ雑談が苦手なのか』でも、男性は飲みには行くけどお茶はしないという話が書かれています。「酒が不味くなる」という表現があって、飲み会の場を湿っぽい話で盛り下げてはいけないという価値観がある。一方で、「お茶が不味くなる」とは言わないわけで、この違いは大きいですよね。
桜林:女性同士でお茶してると、愚痴ほど盛り上がるみたいなところがありますから(笑)。嫌な上司の話でも、一緒に怒ったりできる。男性同士だと「それなら転職した方がいい」という感じでアドバイスされちゃうことも多いみたいで、文化が違うとは思います。
