黒沢清の監督 / 脚本作『Chime』の記者発表および国内初上映が、4月9日(火)に東京・墨田区の映画館ストレンジャーで行われた。
4月12日(金)にDVT(Digital Video Trading)プラットフォーム「Roadstead」で世界同時販売される同作。上映後には、黒沢、「Roadstead」を提供する株式会社ねこじゃらしの川村岬、プロデューサーの岡本英之によるトークセッションと質疑応答が行われた。
黒沢監督は今回の『Chime』について「45分という、通常、僕がやっている映画とは違う長さの作品ですが、川村プロデューサー、岡本プロデューサーから『一度、こういう作品をやってみないか?』とお声がけいただきました。やったことがないので、自分に何ができるのか試してみたいというシンプルな欲望から出発しました」と出発点について明かした。また、コンテンツを所有して第三者に転売やレンタルが可能な「Roadstead」という新たなプラットフォームでの映画製作に関しても「通常とはまた違う、新しい形態でみなさまのもとに届けられる、新しい何かに参加できることを光栄に感じまして、やろうと思いました」と語る。
川村は、プラットフォームの第1弾作品の監督として黒沢を指名した経緯について、「黒沢監督とは私たちが映画製作に関わった第1作である『スパイの妻』でご一緒させていただきましたが、今回Roadsteadという新たなサービスを始めるにあたり、どういう作品をどういった方にオファーするかを、『スパイの妻』のプロデューサーを務めた岡本さんに相談する中で、推薦していただきました。最初に聞いた時は、まだできてもいないプラットフォームに協力していただけるのだろうか? という不安もありましたが、引き受けてくださるということで非常に喜んだのを覚えています」と振り返った。岡本は「今回のお話が立ち上がってきた時、メールでおそるおそるご連絡したところ、まさか引き受けてくださるということで企画がスタートしました。制作プロダクションのC&Iエンタテインメントの田中美幸プロデューサーにもご相談し、動き始めました」と、プロジェクトの背景を解説。
黒沢は「内容について『何をやればいいんでしょう?』と聞いたら『お好きにやってください』と言っていただけて、『本当に僕でいいんですか? 濱口(竜介)でなくていいんですか?』と聞いたら、『いいんです。ぜひ黒沢さんに』と言っていただけました(笑)。45分くらいで通常と違う形式の映画で『なんなんだ、これは……』という不思議な作品をつくってみたいと思っていたので、ちょうど良いと思いました」と述懐。
また、作品が料理教室を舞台とし、主人公がその先生であるという設定について、黒沢は「わりと思い付きでたいしたきっかけはないですが……」と話すも、料理教室に通う男性が主人公のクリント・イーストウッド監督の映画『ヒア アフター』の「料理教室のステンレスが不気味だった」と作品の感想を語る。その上で、「ステンレスの包丁などが並んでいる場所は、撮りようによっては怖いかなと思いました。実際の料理教室に見学に行くと、不穏なことは全くないんですけど、先生が言った通りに全然やらない生徒など、面白いものが見えてきて『これはいいかも』と思いました」と、自身の作品に着想を得たことを明かした。
「Roadstead」という新たなプラットフォームで映画を撮ることの魅力について、黒沢は「長さが自由であることは魅力ですし、作品を作品として世の中に出していただける、たかが45分の作品であっても世の中に提供していただけるというのは最大の魅力だと思います」と作り手側から感じるメリットについて言及。さらに「僕は映画の信奉者であり、古い人間なので『映画が一番』だと考えています」と断りつつも、「こういう新しい試み、(従来の映画とは違う)作り方、見せ方みたいなものは、絶対に、回り回って映画にとってプラスになると思っています。よく『こういうものが出てくると映画はどうなっちゃうんでしょう』と不安がる人がいますが、その程度で映画はめげません! むしろ、そういうものを取り込んで、映画はより豊かになると信じています。通常の映画というものと少し違う形で映画を豊かにできるチャンスがあるなら、大いにやりたいという思いが強かったです」と、サービスが本格的に開始される「Roadstead」に対して力強い声援を送った。
川村は黒沢の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべ、「本当に良い作品を作っていただいて感動しておりますし、第一弾でこの作品が販売されることを嬉しいことだなと思っております」と発言に応えた。また、改めて「Roadstead」と映画館の関係性についても「今日、この映画館でこの発表会をやったことがひとつの象徴ですが、我々は映画文化というものをテクノロジーで破壊して、全部配信にしようというのではなく、逆に映画文化を支えてきたミニシアターとうまく共存できると思っています。例えば45分という尺ですが、普通の90分や120分の長さが、作品にとって必ずしも良いとは限らないですし、新しいプラットフォームだからこそ、こういうことにも挑戦できます。見事にそれを形にしていただいた監督に感謝申し上げたいです」と語った。
『Chime』は「Roadstead」で日本時間の4月12日(金)19時に99USドルで販売。購入特典として金允洙が監督を務めたメイキングドキュメンタリー『料理人たち』と作品のデジタルポスターが付属し、全世界販売総数が999本に達した時点で販売終了となる。
また、5月13日(月)からはリセール / レンタル / スタニングの利用が開始。リセールはライツホルダー(一時出品者)に永続的な収益と、リセラーにパーセンテージに応じた収益分配とサービス利用手数料20%が引かれた残額がアカウントに配分される再販売形式となっている。レンタルはオーナーが所有するコンテンツを有償で貸し出せる機能で、スタニングはオーナーが所有するコンテンツを「Roadstead」上で再生し、第三者に無償で鑑賞させる機能となっている。
さらに、今夏には映画館ストレンジャーで『Chime』の期間限定先行上映を予定。劇場公開の上映権販売も予定されており、詳細は追ってアナウンスされる。
黒沢が「ホラーでもサスペンスでもない、全く新しいジャンルの映画」と語る同作。料理教室の講師として働いている主人公・松岡が、レッスン中に生徒の1人・田代一郎に「チャイムのような音で、誰かがメッセージを送ってきている」「僕の脳の半分は入れ替えられて、機械なんです」と不審な発言をされてから、日常に異様な恐怖がうごめき始める内容となっている。吉岡睦雄が主演を務め、小日向星一、天野はな、安井順平、関幸治、ぎぃ子、川添野愛、石毛宏樹、田畑智子、渡辺いっけいらが出演する。
『Chime』
監督・脚本:黒沢清
主演:吉岡睦雄
出演:小日向星一、天野はな、安井順平、関幸治、ぎぃ子、川添野愛、石毛宏樹、田畑智子、渡辺いっけい
プロデューサー:川村岬、岡本英之、田中美幸
共同プロデューサー:村山えりか
製作:ねこじゃらし
企画:Sunborn
制作:C&Iエンタテインメント