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切実な人間関係の辛さを、滑稽に表現
人間関係のしがらみによって各人の切実な悩みが浮かび上がるのだが、それは時に痛みを通り越した滑稽さをも生み出す。
そのことを示すのが、アスナの恋人はサカヅキであると発覚するシーンだ。親子関係を修復すべく、シバタは連日、娘を待ち伏せして接触を試みる。半ばストーカーのような行動の末に、彼はアスナとようやく話ができるまでになる。そんな折にシバタは、アスナが歳の離れた恋人と同棲を考えているが、母親から反対されていることを聞かされる。アスナのために母親を説得することを約束するシバタは、その前に彼氏に会うことを希望する。だが当日、アスナと待つファミレスにやってきたのは、会社の管理職、サカヅキであった。
サカヅキは以前、シバタにこのように話していた。今付き合っているメンヘラの彼女と別れたい。でも、盛り上がるためにシバタから教えてもらった箱根のホテルでのセックスは、超エロかったといった事を。そんな会話をしていただけに、2人の間には相当に気まずい空気が流れる。だから当然、シバタは「こいつだけはやめろ」とアスナに言い、彼女の怒りを買ってしまう。事情を知っている者と知らない者とのズレが生み出す人間関係のこじれが、シバタとサカヅキが鉢合わせた時の顔の表情や身振りによって身体で表現される。このシーンでの3人の演技に代表されるように、俳優たちは細かな演技を大事にして、人間関係で精神的に削られる人間の辛さを、可笑しみを生むまでに表現した。
