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『ロイヤルホテル』監督と考えるハラスメントの実状。「No」と言えるようになるには

2024.7.26

#MOVIE

声を挙げるのは自信が必要ですし、自信をつけるのは時間がかかること

─映画を観た後に思い出したのは、日本の接客は世界一だと言われることです。過剰に丁寧で、愛想がよくて、気遣いができることが評価されてしまっている。リブのようにどんな状況も受け入れることが、日本の美徳とされています。闘うハンナと受け入れるリブ、両者を描いたことで理不尽な場面に遭遇したときの態度について、どのような考えを持ちましたか?

キティ:たしかに理不尽でしたが、私が描いたのは異なる文化の衝突です。新しい文化に出会ったとき、リアクションの仕方はハンナとリブのように2パターンあると思います。どちらが良い悪いではありませんが、リブはある意味「壊れた」男性たちを受け入れて「彼らにもいいところがあるわよ」みたいな態度をとる。一方でハンナは、ガードが固くてずっと疑っている。お酒を飲むと態度の違いがはっきりと現れますよね。

『ロイヤルホテル』場面写真

─おっしゃる通り、私もどちらの態度が正解、ということではないと感じました。

キティ:男の人たちが「サンセットを見に行こう」とふたりを誘う場面がありますが、下心のある / なしは判断が難しいところです。様々な国の人に観てもらいましたが、オーストラリアの多くの人はリブの態度を「いい」と思うわけです。その場の状況を受け入れて、楽しみますから。でも、アメリカ人からすれば「危ないのに、なんでついていくの?」と思う。文化的な違いで、態度も様々あるだろうと思います。

─リブ的な受け入れる態度が素敵な場面もありますが、映画の気付きとして、受け入れるばかりではなく自分の中で「搾取されたくないライン」を決めるべきだと考えさせられました。

キティ:私も感覚的ですが、ラインはあります。年齢とともに経験を重ねて、若い頃よりもラインがしっかりできて、自分のために立ち上がれるようになってきました。ただ、それでも、映画を作っているときでさえ「もうすこし声を挙げればよかったかな……」と思うことがあり、まだまだ学んでいる最中です。声を挙げるのは自信が必要ですし、自信をつけるのは時間がかかることですよね。

『ロイヤルホテル』メイキングカット

─この映画を通してどんなことを伝えたいですか?

キティ:直接的なメッセージを伝えるというより、私生活でよく見かける構造だけれど映画では見たことがない状況を撮ることに私は興味があります。『Hotel Coolgardie』を観たとき、自分自身がお酒の場で不快感を感じた瞬間を思い出しました。思い返せばハラスメント的な振る舞いを、ジョークとしてなんとなく笑って済ませてしまったけれど、本当は傷ついたし怖かった。そんな、些細だけれど居心地の悪い瞬間をハイライトして、一つひとつ丁寧に見せてくれたので、私もそうしたいと思いました。

この映画は、ハンナの頭の中で起こっていることが多いんです。見過ごしてしまいそうな瞬間やマイクロアグレッションとよばれる無自覚な差別にも光を当てて、心境を語ることで、女の人がこうした居心地の悪い状況をどう捉えているのか、しつこいくらい伝えたいと思いました。

─些細な光景でも、一つひとつ光をあてて心境を語ってくださっていたと感じました。

キティ:良かったです。それは、先ほど話した、クローズアップカメラがいい役割を果たしてくれました。本当は、前作は全編ワイドショットで撮ろうと思っていたんですね。それは、1970年代のシャンタル・アケルマン監督の『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』というフェミニスト映画のオマージュです。ですが、実際に撮り始めてみると、主人公が職場で経験していることや観察していることに対する感情の動きを、クローズアップで見せることが大切だと気がつきました。なので、『ロイヤルホテル』でも同じことをやりました。

『ロイヤルホテル』場面写真

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