異色のお仕事ドラマが話題になっている。
はんざき朝未による人気お仕事マンガ『無能の鷹』(講談社)を、テレビ朝日ドラマ初主演となる菜々緒を主演に迎えて実写化。
スマートな身のこなしに落ち着いた声と、いかにも有能そうなのに、実は、PCの起動もできないほど衝撃的に無能な鷹野ツメ子を取り巻く「超・脱力系お仕事コメディ」は、鷹野が発するシンプルながら本質を突く「鷹野語録」も含めて、SNSを中心として人気に。
無能な鷹野と普通な同僚たちの日常を笑って見ている内に、いつの間にか会社や仕事について考えさせられるお仕事ドラマについて、ドラマ / 映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
私たちの日常に限りなく近い不思議なドラマ
『無能の鷹』(テレビ朝日系)は不思議なドラマだ。菜々緒が爽やかに演じる「見た目は有能、中身は無能」な主人公・鷹野ツメ子とITコンサル企業TALON営業部の個性的な同僚たちとの、面白くて一見あり得ないギャグのようなやりとりを笑いながら眺めていたら、最後には思わぬ感動が待ち構えていて、ついホロッとさせられる。特段、何かが大きく変わるわけでもない。鷹野のペン回しが成功したことを泣きながら喜ぶ先輩・鳩山樹(井浦新)を同僚みんなで見つめるぐらい。
でも、第4話で鶸田道人(塩野瑛久)が言うように「ささやかかもしれないけれど、会社でもドラマチックなことは起こる」のである。それは、鷹野の予想外の行動に翻弄される営業先の会社の人々が、忘れかけていた大事なことを思い出すように。普段クールな雉谷耕太(工藤阿須加)が自分の中にある同僚への愛に気づいたように。上司・朱雀又一郎(高橋克実)が「ありがとう」と「ごめんなさい」を言えたように。そして、そうしたささやかなドラマが起きる社会は、テレビを観ている私たちの日常に限りなく近いのではないか。