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Mockyに角舘健悟、出戸学らと質問してみた。AI時代に、ポップスの魔法はどこに宿る?

2025.9.12

#MUSIC

『FUJIROCK FESTIVAL’25』の2日目のヘッドライナー、Vulfpeckの楽曲プロデュースも手がけたことで知られるカナダ出身の音楽家、Mocky。

来日公演で日本のミュージシャンをバンドメンバーに迎えてきただけでなく、過去にはKID FRESINOやCampanellaの楽曲プロデュースを手がけるなど、国内の音楽家との関わりを深めていることでも知られる。さらに9月22日(月)からはじまる来日ツアーの東京公演のサポートアクトには、んoonの出演も発表されている。

そんなMockyに、んoonのメンバー、Mockyの大ファンであることを公言する角舘健悟(YOGEE NEW WAVES)、鳥居真道(トリプルファイヤー)、出戸学(OGRE YOU ASSHOLE)から質問を集めて取材を実施。

最新作『Music Will Explain (Choir Music Vol. 1)』で追求したAI時代における「人間の響き」について、そのサウンドが魔法的な魅力を持つ秘密について、探ってみた。

Mocky(モッキー) Photo by Yvonne Schmedemann
カナダ出身の音楽家。コンポーザー、アレンジャー、プロデューサー、ベースとドラムを主軸に様々な楽器を弾くマルチプレイヤー、ラッパーとさまざまな側面を持つアーティスト。6月、『Music Will Explain (Choir Music Vol. 1)』をStones Throwより発表、9月からは東京・大阪・京都をめぐる来日ツアーも開催する。
Mocky『Music Will Explain (Choir Music Vol. 1)』を聴く(各ストリーミングサービスはこちら

AIの飛躍的発展の裏で、Mockyが追求した「人間の響き」とは?

―Mockyの新作『Music Will Explain (Choir Music Vol. 1)』は、「Stones Throw Records」からリリースされました。あなたにとって、Stones Throwという場所やコミュニティーはどのようなものですか?

Mocky:Stones Throwは音楽の歴史のなかですごく大事だし、そんなレーベルから自分の作品を出せるのは光栄なことでした。クラシックもたくさんリリースしていて、J Dillaの『Donuts』やJaylibの『Champion Sound』は特に外せない作品。

J Dilla『Donuts』(2006年)収録曲
Jaylib『Champion Sound』(2003年)収録曲

Mocky:今も素晴らしいアーティストがたくさんいて、エディ・チャコン、ベニー・シングス、メイリー・トッド、Bardoは友達です。人生のなかで面白いレーベルやアーティストと関われるなんてラッキーだなって。僕の音楽を見つけ、日本に初めて呼んでくれた「Windbell Records」と主宰の富田和樹さんにも感謝してます。

―2019年、あなたはアニメ監督の渡辺信一郎さんとの対談で、AIについて語っていましたよね。最新作はまさに今飛躍的に発展するAIに対する意識が反映されているそうですが、音楽家としてそのアティチュードをどのように作品に落とし込んだのでしょうか?

Mocky:まず渡辺信一郎さんと一緒に仕事できたこと自体が光栄でした。

『カウボーイビバップ』(1998年)や『サムライ・チャンプルー』(2004年)などで知られる渡辺信一郎が総監督を務めたアニメ『キャロル&チューズデイ』(2019年)で、Mockyは劇中音楽を担当している

Mocky:AIは他のツールと同じように使えるものだけど、同時に人間らしくいられる場所を狭めたり、僕らを置き換えようとするような怖さもあるなって。それが『Music Will Explain (Choir Music Vol.1)』はスタート地点だった。AIには絶対に真似できない「人間の声のリアルな響き」を残したかったから。

だからこそ声とドラムという基本に立ち返った。古いテープマシンにボーカルを何人も集めて、全員で同じ音をユニゾンで歌って、ひとつの声に溶け合うまで繰り返して、1本のマイクで録ったという。「人間の響き」を追い求める執念の作業だったよ。

Mocky『Music Will Explain (Choir Music Vol. 1)』収録曲(各ストリーミングサービスはこちら

―「人間の響き」を具体的にどういうものとしてMockyさんが捉えているのか知りたいです。あなたがこれまでの取材で繰り返し語っていた「ミス」の重要性と、何か関係あるのではと感じています。

Mocky:人間が何かをやるとき、そこには何らかの芸術的な理由があって。自分の内面や外の世界を理解するために「どうしても表現したい」という強い欲求——僕が「A. why?」って呼ぶその感覚は、AIにはないと思う。そこに至るまでに起きる「ミス」と呼ばれるものも、僕にとっては全部「詩」なんです。その詩的な感覚が人々の闘いと美しさの物語を語るし、アートの大事な要素なんじゃないかな。

コンピューター的な「完璧さ」は、僕には冷たく感じられるし、疑念のようなものが投げかけられるような気がする。解決策よりも、問題が出てくるほうが多いように僕には感じられるというか。

Photo by Yvonne Schmedemann

―すごく興味深いです。Mockyさんは活動の初期、シンプルな機材しか所持していなかったからこその「物理的な制限」をクリエイティビティーに転換していましたね。プロンプトをAIに入力すれば音楽を生成することも可能になった時代において、音楽の創造性はどこに宿ると思いますか?

Mocky:「音楽」をどう定義するか次第だけど、僕にとって音楽は生きているもので。録音前から「曲が生きている」ことすらあると思う。つまり音楽は常にあって、ただ耳を澄ませればいい、という。

僕の音楽は自分の頭のなかとか、ミュージシャン仲間や友達と過ごす時間のなかでよく生まれるんです。その時間は、物語としてあとから伝わってくることもある。近くに機材が少ないほうが曲作りはだいたい上手くいくし、むしろ機材がないときに最高のアイデアが浮かぶことが多いかな。AIを使っても僕にはアイデアが出てこないし、AIは僕から楽しみを奪ってしまう感じすらあるよ。

Mocky『Music Will Explain (Choir Music Vol. 1)』収録曲(各ストリーミングサービスはこちら

んoonからの質問。演奏者、プロデューサーとして大切にしていること

んoon
2014年にハープ、キーボード、ベースのインストゥルメンタル編成でスタートした んoonは2016年ボーカリストJCの加入を境に、ノイズ、フリージャズ、ヒップホップ、ソウル、パンク、クアイヤー、エレクトロなど、あらゆる音楽のエッセンスを不気味に散りばめた音を演奏するバンドとなる。2025年9月、Mockyの東京公演にサポートアクトとして出演する。

んoon『Jargon』(2021年)収録曲

んoon:Mockyさんにとってコンポーザー(作曲能力)と、楽器プレイヤー(演奏能力)であることのバランスについて教えてください。

Mocky:僕にとっては演奏も作曲の一部って感覚なんです。人や楽器をイメージして曲を書くのが一番いい。僕は自分の作品でほとんどの楽器を演奏するけど、役者になりきるみたいな感覚があるかな。

例えばドラムを叩くときは「自転車でスタジオに来て疲れてるドラマー」を想像したり、ピアノを弾くときは「失恋したばかりのピアニスト」を思い浮かべて弾いたり。映画のキャラクターにちょっとした背景を与えるような感覚というか。楽曲が一番大事だけど、瞬間に合わせて変幻自在であることも大切にしているよ。

Mockyのライブ映像

んoon:バンドセットで自分の楽曲を演奏するとき、自分以外の演奏者へ期待することや指示することは何ですか?

Mocky:基本的には「自分らしくいてほしい」ってお願いするだけかな。ちゃんとアレンジされていれば、それで十分と思ってて。僕が一番大事にしているのは、「信頼」と「音楽がどんな方向に行っても支える姿勢」、そして「楽しさ」。純粋に「音を出す喜び」とも言えるかな。一緒に演奏するミュージシャンにはそういうことを求めてるよ。

んoon:我々のライブPAであるカツラはMockyさんの大ファンで2016年、2019年の来日公演を観に行ってあなたとの2ショット写真を撮っています。彼のことを覚えていますか? 彼も我々んoonも東京公演で再び会えることをものすごく楽しみにしています!

Mocky:光栄だよ! 今度の東京公演で、答えを言うね(笑)。あのときも本当にたくさんの人と写真を撮って、感謝の気持ちでいっぱいだった。

Mocky 『How To Hit What And How Hard (The Moxtape Vol.4)』(2018年)収録曲

―今回の来日ツアーでも、日本のミュージシャンを招いたバンドセットで演奏を予定していますね。Mockyさんから見て、日本のミュージシャンの演奏、リズムやグルーヴにはどんな特徴があると思いますか?

Mocky:音楽は言葉と同じようにひとつの「言語」なんだと思ってて。だから違う国のミュージシャン同士が一緒に演奏するってことは、コミュニケーションの方法を探るような感じでワクワクする。

これまで一緒に演奏した日本のミュージシャンは、スピリットも音楽に対する感覚も素晴らしいし、演奏レベルもめちゃくちゃ高い。だからいつも本当に楽しいよ。

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