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『フジロック』も、お風呂も。「大事」に優劣はない
―そういった想いからも「この瞬間を大事にしたい」という気持ちが強くあって、まさに瞬間を残すような音源ができている、ということなのだなと思いました。お待たせしました、岳さんはどうですか? それこそ岳さんは7つバンドをやってる中で、Hedigan’sに何を感じているのかを聞いてみたいです。
大内(Dr):Hedigan’sに限らず、特にロックをやるようなバンドは、自分の弾いた音とかライブの感覚で自分の音楽がどんなものかを知ると思うんですけど、今年『Chance』を作りながらライブをたくさんやった経験は、このバンドの解像度をものすごく上げてくれて。もちろん『2000JPY』を作ってるときから、このバンドはかなり最高な状態でやっていたと思っていたんですけど、なんて言ったらいいんだろうな……『2000JPY』は、各々のアイデアを集結させて、できあがったものは「具の入ってないスープ」みたいな。ひとつの音楽にみんなが栄養を注入して、スッとした飲み物ができてる感じ。
YONCE:素の出汁、みたいなね。
大内:そうそう。それに対して『Chance』は具入りの感じがするんですよね。「あ、もっちゃん(本村)の臓器が入ってるじゃん」「将治の腕が入ってるぞ」みたいな(笑)。人間の身体を感じる。これは、みんなでライブを乗り越えたからだと思う。自分らで考えた曲を人前で弾く経験がなかったら生まれなかったニュアンスがあるし、それはロックバンドに必要不可欠なものだと思うから、真っ先に思うことは「とにかくいっぱい演奏させてくれてありがとう」で。『Chance』ではとにかく素晴らしい曲がいっぱいできて、それこそ何を狙うでもなく「無邪気に音楽を作ったらこの曲ができたよ」みたいな10曲になっていると思います。
あと思うのは、大事なものが増えたし、それらにレベルの差がない、というか。たとえば『FUJI ROCK FESTIVAL』に立った時間は、人からしたら最大の喜びかもしれないけど、STUDIO DIGに向かってる途中のサービスエリアでちょっとしゃべったことやそのとき空気とか、苦戦したミックスが全部終わったあとにみんなでお風呂に入って死んだように眠りについた時間とか、どっちの方が重要とかもない。もっとどうでもいいような日のことも思い出すんですよ。「この日はこうだからよかった」っていうことでもなくて。それら全部が順番に組み合わさってないと、この作品はできてないなと思います。
―いい空気、いい時間、すべてを封じ込めたのがこの作品で。しかもそれを「こうだから、いい日」みたいに頭で考えてるわけではなく、ただただ心で感じたことに自分たち自身が気づけているという。
大内:このバンドをどう思っているかにもつながるんですけど、「いろんなことが大事」ってどういうことかなと思うと、「今過ごしているこの時間がすごく有意義なものである」って、自分が信じたいということだと思って。その願いをHedigan’sに込めているんじゃないかなと。どのバンドに関してもそれは一緒なんだけど、特にHedigan’sではそう。この5人で「理想的な暮らしをみんなで叶えようぜ」っていう共通認識を持っていることを再確認できたというか。
あとひとつ、大きな変化があって。ライブをやって、目の前にいる「お客さん」と呼ばれる人たちのことを「人間なんじゃないか」と思えるようになってきた。目の前に自分みたいな生き物がいてくれていて、共有できている魂がいっぱいあるという。一応僕らのキャッチコピーが「soul-friendly-music」なんですけど、聴いてくれているお客さんの魂を感じる経験が重なって、ライブに対するこだわりのレベルがまた上がりそうだなと思います。