新宿歌舞伎町能舞台で開催中の、『歌川国貞・歌川国芳 ー新宿歌舞伎町春画展WA』に行ってきた。
歌舞伎町でホストクラブやBAR、美容室など20数軒の店舗を運営し、近年では「歌舞伎町から日本文化を発信する」をテーマに掲げるSmappa!Groupが主催の、春画展のシリーズ企画である。通算4回目となる本展でとりあげるのは、柳亭種彦『偐紫田舎源氏』の挿絵で江戸に「源氏絵」ブームを巻き起こした歌川国貞と、無類の猫好きで知られ奇想に溢れる作品を多く残した歌川国芳。浮世絵にうといオレでも知っているようなレジェンド中のレジェンド絵師だ。
国貞といえば役者絵、国芳といえば武者絵で知られる画人である。個性きわだつ両レジェンドが春画というフィールドで腕をふるった作品の数々が、歌舞伎町の能舞台で展示されているのだからして、この時点でおもしろくないワケがないのだが、今回オレが体験したのはそのオプショナルツアーにあたる『ホストと観る!ワイワイ春画ツアー』だ。2時間パッケージのツアーで、まず最初の1時間はSmappa!Groupに所属する現役ホストたちとともに春画を鑑賞し、後半1時間はホストクラブ体験を楽しめるというシロモノである。
まあ、こうして書くだに「そんなん絶対おもしろいに決まってんじゃん」と思うツアーであるが、いざ行ってみるとおもしろいどころではなかった。盛りとか抜きに浮世を忘れるほど楽しかった。マジでムチャクチャ元気が出た。この身も心も軽くなるような楽しさを多くの人に伝えたい一心でレポさせていただく。
※この記事には性表現、性描写が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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歌舞伎町の能舞台で見る春画。大勢で囲んで笑う、江戸の鑑賞スタイルを再現
まず最初、ホストの方々と合流するまえ、広報の方の案内でフツーに展示を鑑賞したのであるが、展示自体がたくさんのアイディアが散りばめられた画期的なものだった。まず展示会場に能舞台があるという時点でかなりビビったのだが(なんと1941年に創設されたものなのだという。歌舞伎町によもや能舞台があるとは知らなんだ)、そのレイアウトもじつに工夫がこらされている。江戸時代、春画は「笑い絵」ともよばれ、一人でコソコソ楽しむのでなく大勢でワイワイ語らいながら鑑賞するものでもあったそうなのだが、本展はそのあたりのニュアンスがしっかり踏襲されている。ガラスケースが円環的に配置され、来場客どうしが対面で向かいあい、作品のみならずお互いの表情もみえる共有性の高いレイアウトは、一般的な美術展にはないオープンな愉しさがある。

また、作品に添えられたキャプションも、美術展にありがちなおカタいアカデミックな感じではなく、カジュアルながら熱のこもったテキストで親しみやすいし、掲示されたQRコードから歌人・俵万智と俳優・千葉雄大の無料音声ガイドが聞けたりと、とにかく敷居を低く門戸は広くという趣が感じられる。かといってポップなアプローチに舵を切るばかりでなく、その実質はガチガチにガチで、専修大学名誉教授であり国際浮世絵学会常任理事である板坂則子が学術協力をつとめている。文化的な学びの場としてしっかり設計されているのだ。

歌人。早稲田大学文学部卒。1986年、作品「八月の朝」で第32回角川短歌賞受賞。1987年、第一歌集『サラダ記念日』を出版。本展では国貞「三源氏」が元にしたと思われる『源氏物語』『偐紫田舎源氏』を紐づけて、描かれた場面の説明やそこで詠まれた歌について紹介し案内する。

俳優。1989年3月9日生まれ。宮城県出身。2010年『天装戦隊ゴセイジャー』アラタ/ゴセイレッド役で俳優デビュー。本展では絵師について、作品について、春画の世界の魅力を案内する。
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浮世絵木版画の最高峰といわれる国貞「三源氏」。1mmに3本を彫り分ける職人の執念
肝心要の作品も、とても見応えがある。本展の監修者は、古美術商であり世界有数の春画コレクターである浦上満。展示されている作品の数々は、どれも滅多にお目にかかれない貴重なものばかりだそうで、重厚なオーラが漂いまくりだ。中でも歌川国貞が手がけた『艶紫娯拾余帖』『花鳥余情 吾妻源氏』『正写 相生源氏』から成る通称「三源氏」は本展のハイライトのひとつといえるだろう。



恋愛文学の大クラシック『源氏物語』の舞台を室町時代に置き換えて翻案し、江戸に一大源氏ブームを巻き起こしたベストセラー『偐紫田舎源氏』(本文:柳亭種彦 / 挿絵:歌川国貞)を下敷きにして制作された3部作であるが、つまりこれは孫サンプリング、サンプリングのサンプリングだ。音楽にたとえるなら、ザ・フォーク・クルセダーズの“悲しくてやりきれない”を矢野顕子がカバーし、さらにLIBROがそれをサンプリングして“対話”を制作したのに近いだろうか。こうした連鎖的なサンプリングによる制作が、江戸時代から既に存在していたというのは大変オモシロイ。
浮世絵木版画の最高峰とも称される本作は、当時の版画職人の匠っぷりがヒシヒシとつたわる大変強烈なものだ。1mmに3本の極細線を彫り分ける「毛彫り」や、版木に絵の具をつけず紙に凹凸をつける「空摺(からずり)」、光沢を出して文様や質感を浮かび上がらせる「艶摺(つやずり)」など、アンダーグラウンドシーンで極められた木版技術の粋たるや、感嘆を遥かに通り越して気が遠くなるほどである。「この時代にもうこんな色あったんだ」と驚くようなビビッドな色彩も素晴らしいし、陰毛の先端の縮れ具合までリアルに再現しているところなどはなんかもう観ていて変な汗が出てくる。
春画というと火消しの若いイケメンと美しい花魁がまぐわうみたいなイメージがあったが、滑稽な男と美女の取り合わせがあったり、動物と人が絡んだり、『源氏物語』のパロディがあったり、マンガ的な誇張表現があったり、その切り口は実に多種多様だ。春画というのは基本的に一枚絵でなく、艶本とよばれる多色刷り木版を活用した冊子、つまり現代でいうところの週刊漫画雑誌のような感じだったらしいのだが、昔のジャンプやマガジンが希少であるように、これほど状態の良いものが一堂に会するというのはとてもめずらしいそうだ。
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元市役所勤めに元消防士。現役ホスト3人による春画ガイドが始まった
さて、ここからはいよいよ『ホストと観る!ワイワイ春画ツアー』の開始である。今回アテンドをしてくださるホストの御三方、深夜澪仁(ないと れいじ)さんと風人さんと新美拓也さんと合流し、あらためて会場をまわってゆくこととなる。



まあ、当たり前だが御三方とも大変なハンサムガイで、華があるというのか、そこにいるだけで周囲の空気が光り輝くのが解る。ホストの方々は、はたしてどのように春画を読み解きレビューしてくれるのか……オレはまず、ジャブがわりにこんな質問をぶつけてみた。
「あのー、アートとかってお好きですか?」
すると、元市役所勤めという異形の経歴を持つ風人さんは、すこし考え込んだあとこう答えた。
「アート。アートですか……なんか家に、知らない人の絵は飾ってありますけどね」
風人さんの回答に便乗するように、元消防士というこれまた異形の経歴を持つ澪仁さんが口を開いた。
「オレ、観葉植物なら飾ってますよ」
ヤバい、すでに面白すぎる。このノリなんだ。このノリでホストが春画を解説してくれるなんて、もう人生で二度とないであろう。ふたたび会場へ入ると、風人さんが手を叩き、もっともらしい口調で語り出した。
「まあ、春画っていうのは……江戸時代のエッチな絵ですよね。で、この頃にこういうプレイがあったのかとか、こんな道具使ってたんだとか、そういうのを見るとすごく面白いんですけど。まあ、もうなんでも聞いてください。全部答えるんで」
なんとも頼もしい言葉である。オレはさっそく展示されている『水滸伝』シリーズ(歌川国芳が手がけた、春画ではない作品群。すげえわかりやすくいうと元祖バトルマンガみたいな武者絵)を指差し尋ねてみた。
「えーっと、じゃあ、これはなんなんですか?」
「あ〜これですか……これは……これは、なんなんですかね?」
もうだいたい解ると思うが、一事が万事この調子だった。あけすけな性愛が超ドアップで描かれた絵を観ながら、御三方はもっともらしい口調で解説する。

「これはもうすごいですよ。レクチャー要素もあって、ためになりますよね」
「なるほどぉ。艶かしいですねぇ」
「あ、なまめかしいっていう言葉があるんですね。どういう意味なんですか?」
「うーん、エロっちい、みたいな」
「へー。なるほどぉ。初めて聞きました」
くどいようだが一事が万事この調子だ。こんなもん面白いに決まっていて、オレはゲラゲラ笑いながら会場を回遊した。爆笑の連続だった。対面で相手を楽しませる、接客業の究極ともいえるホストのプロフェッショナルぶりをとくと見せられた。ファニーで朗らかなその空気は、江戸の町人が「笑い絵」を囲んで語り合っていた当時のオープンな鑑賞文化を、現代の歌舞伎町で追体験しているようであった。

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ホストクラブで春画の展示。ガイドと共に歩く歌舞伎町も楽しい
ひととおり解説していただいたあと、われわれは第2会場へと移動した。現在休業中のホストクラブ「BOND」を大胆にリメイクした第2会場は、エロ妖怪などが登場する百鬼夜行系の作品と、物販スペースが設えられている。物販はお守りやらライターやらトレーナーやらクッションやらトレーディングカードやら高級画集やら充実しまくりのラインナップで、さながら往年のヴィレッジヴァンガードの如きである。しかもどれもしっかりとセンスがいい。アパレルとか全然オシャレだし。



エロ妖怪がひしめく作品群の前で、風人さんがふたたび手を叩き、もっともらしい口調でいった。
「いや、もうなんでも聞いてください。全部答えるんで」
「えーっと、じゃあ、この三開まら子っていうのはなんなんですか?」
「あ〜これですか……これは……これは、なんなんですかね? 作者の名前?」
くりかえすようだが一事が万事この調子だ。またしてもオレはゲラゲラ笑いながら、ホストの方々と春画を堪能した。第2会場をあとにすると、今度はギャルバー・デカメロンに行き、春画プリクラを撮影した。なんと贅沢で面白おかしいツアーだろうか。単に春画を観て楽しむというだけでない、歌舞伎町ツーリングとしての側面もある。小雨が降る日曜の夜の歌舞伎町を歩いている最中も、ホストの方々は楽しくアテンドしてくれる。
「ここ。このクラブもグループの系列店です」
「ここもそうです」
「ここは普通にうなぎが美味しいです。グループとかは全然関係ないです」