もうすぐ夜ドラ『税金で買った本』(NHK総合)が全32話を終える。
ヤンキー高校生・石平紀一(奥平大兼)の図書館を巡る旅は、彼の幼少期からの愛読書『放浪する青』の著者「十六夜かなき」の謎を解き明かしながら、ついに探していた父との再会まで行き着いた。
石平と同級生・灰坂坑太(新原泰佑)との関係の行方も気になる本作の後半について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター、そして書店員でもある藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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主人公と共に図書館を巡る旅も終盤に

ドラマ『税金で買った本』がいよいよ最終週である。本作前半を振り返った記事でも書いた通り、これまで視聴者は、図書館でのアルバイトを始めた主人公・石平紀一(奥平大兼)と共に「図書館を巡る旅」をしてきた。第18話では地下にある書庫に足を運び、「選書会議」から「除籍」に至るまでの図書館の大切な流れや、同じ図書館職員でも、担当部署のみならず、正規職員か非正規職員かによって待遇が違うことなどを学んだ。図書館で働く人々の裏事情も知ったところで、旅もそろそろ終盤である。さらには、石平が、小説家「十六夜かなき」の本を読むことを通して歩んできた「父親探し」の旅の先には、父(平山浩行)の姿が見えてきた。
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「切り捨てる」のではなく「どう活かすか」。図書館を通して、誰も取り残さない社会を描く

本作の前半が描いたのがヤンキー高校生・石平の図書館との出会いと彼自身の成長だったなら、後半である第5週以降が描くのは、石平自身が周囲を動かしていく姿だ。また第5週は、書庫入れと除籍を担当している松浦英理(入山法子)と石平の出会いを通して、本も人も「切り捨てる」のではなく「どう活かすか」を考える週だったとも言える。
異動してきた正規職員・茉莉野美波(大友花恋)の登場によって、石平と視聴者は、早瀬丸(西野七瀬)や白井(青木マッチョ)といった職員の多くが非正規雇用であるという図書館の現実を知ることになった。そして、やる気やスキルの面で、非正規職員が劣るわけでは決してないのだということも……。

図書館の仕事の要とも言える地味な作業が苦手で、本来しなければならないことをやりたがらない正規職員・茉莉野。彼女を「困った人」と切り捨てるのではなく、「正しいことがいつも合ってるとは限らないから」と自分と周りを戒める早瀬丸と、「パッと全部捨てちゃえば動きやすくなるけどさ、1度捨てたら元に戻らないからね。本も人も」と言う松浦の言葉を、よくわからないなりに受け止めた石平は、茉莉野のやる気を引き出すために一芝居打つ。その結果、茉莉野が手掛けることになった企画「5年間1度も貸出のなかった本コーナー」そのものが、「除籍候補リスト」の本たちの救済に繋がる。また、自伝本の寄贈を断れずに困っていた資料係・今村まひろ(菊池和澄)に対する茉莉野の「そのうち誰か読むわよ」という言葉が、「(自伝本の)著者の息子が読むべき本」というその本の真の価値を今村が見出すことに繋がって、寄贈希望者の女性の本当の思いを掬い上げることになる。
第9話で早瀬丸が言った「図書館は図書を必要とするすべての方にご利用いただきたいから」という台詞そのまま、本作が描く図書館は常に、誰に対しても開かれている。そしてそれは、ドロップアウトしかけていた石平の同級生・灰坂坑太(新原泰佑)に対して、石平の担任の中島(大河内浩)を含めた多くの登場人物が手を差し伸べたのと同じように、誰も取り残さない理想の社会の在り方を示しているかのようにも思う。
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石平家と「十六夜かなき」の謎が明らかに

第28話では、作家・十六夜かなきと石平家の謎がすべて明らかになった。十六夜かなきの新作『シュリンクスの笛』は、「売れない作曲家」である主人公が、「派手なアパートで暮らしている明るい女」と別れた後に「その女を想って曲を作る」小説だった。石平が母・りょうこ(矢田亜希子)に語るあらすじによってのみ視聴者が想像できるその本はまるで、りょうこへのラブレターのようだ。そう、十六夜かなきは、石平の血の繋がっていない父であり、幼い彼を図書館へと導いてくれた「あの人」だったのだ。そして、そんな十六夜かなきに憧れ、彼との思い出を強烈な原風景として胸に抱いて生きてきた石平もまた、『シュリンクスの笛』をテーマに読書感想文を書こうとしている。それはきっと、十六夜かなきに恋い焦がれるように憧れ続けた石平少年による、「父」に対する渾身のラブレターになるに違いない。
担任の中島は読書感想文の面白さについて「なんで好きなのか、どこが面白かったのか。そうやって自分が大切にしていることとしっかり向き合うことで、自分が知らなかった自分を知ることができる」と言っていた。石平は、自分にしか書けない読書感想文を書き上げることで、自分と、知らなかった家族の物語を見つめることだろう。感想文を書く素質は十分にある。なぜなら、第24話で、『放浪する青』のライトノベル版と一般書版の間に生じた変化について石平が独自の解釈を語ることが、灰坂の背中を押すという展開があったことから分かるように、彼は既に「本を深く読み、想像を膨らます」才能の片鱗を見せているのだから。
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このドラマを貫く「手放せない」という気持ち

かつてボロボロにされたライトノベル版の『放浪する青』を捨てようとした石平の母・りょうこは、「手放してさっぱりしたいんだよ」と言った。一方で、第21話の彼女は、自分の元に新しく届けられた一般書版の『放浪する青』を抱いて「まあ、あってもいいかなあって」と言っていた。思えば本作はそんな、手放せない大切なものたちで溢れていた。
例えば、それは本である。夫を亡くした妻が、夫が借りていた旅行書をどうしても手放したくなくて、一度はなくしたふりをして弁償したものの、時間が経って返却する話(第2週)。第7週で、同じようにDVDを「なくしたふりをして弁償しようとする」石平の同級生・小沢愛李(桧山ありす)にとって、この先もう手に入ることのない、不祥事を起こした「推し」が出演している作品のDVDは、どうしても手放したくないものだった。「手放せない」気持ちは、石平家の父、母、息子を繋ぐ、勝手に引き寄せられてしまうかのような互いを想う感情ともリンクするし、さらにそれは、図書館で働く人々の、人を、あるいは本を大切に思う気持ちとも繋がっている。
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石平や早瀬丸にとっての「手放しがたい光景」

第23話において、ひと際、心に残った場面がある。それは、図書館の何気ない日常だ。退勤の直前、早瀬丸が、彼女の定位置である貸出カウンターに座っている。その後、彼女が見ている光景が映される。それは、図書館で思い思いに本を読んでいる人々の姿だ。それを見て彼女は、満足そうに微笑む。第19話では、「全国的に図書館員は採用枠の多くが非正規雇用」であり、「仕事が大変な割に給料は安い」現状を、早瀬丸と白井、今村が明かした上で「それでも人が集まってくるのは、みんな図書館の仕事が好きだから」と早瀬丸が言う場面があった。その彼女が目にした景色は、早瀬丸にとっての「どうしても手放しがたい光景」だったのではないか。
あるいは、石平や彼の父にとっての、町が見渡せるお気に入りの場所も、早瀬丸にとっての図書館と同じかもしれない。彼ら彼女らが愛しているその場所は、「自由」そのものだ。そして、たとえこの先どこかに旅をしたとしても、いずれ帰ってこられる場所でもある。本と、本が好きな人を繋ぐ世界の中心。私たちの住む町にもある「図書館」というありふれた当たり前のような存在が、いかに特別な場所なのかを、本作は教えてくれるのだ。
夜ドラ『税金で買った本』

NHK総合にて毎週月曜~木曜夜10時45分から放送中
公式サイト:https://www.nhk.jp/g/ts/M6QR2KGJ11/