夜ドラ『税金で買った本』(NHK総合)が全32話の折り返しを迎えた。
ずいの原作、系山冏漫画による同名コミック(講談社)を元に、『女子的生活』(NHK総合)、映画『銀河鉄道の父』の坂口理子が脚本手掛けた本作。図書館員の経験を持つ原作者・ずいのによる、ヤンキー高校生と図書館員との交流を軸に、図書館の仕組みや運営を描いた漫画は、ドラマ化だけでなくアニメ化も決定するほどの大人気漫画であり、現在も「週刊ヤングマガジン」で連載中である。
主人公を演じるのは、映画『MOTHERマザー』で鮮烈なデビューを果たして以降、注目作の出演が続く奥平大兼。『いつか、無重力の宙で』(NHK総合)に続く夜ドラ出演であり、本作が連続ドラマ初主演作となっている。
元消防士の猫好き筋肉芸人・青木マッチョの意外なキャスティングも気になる本作について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター、そして書店員でもある藤原奈緒がレビューする。
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自由を探しに図書館へと向かう冒険の旅

「めんどくせえな」というヤンキー高校生の主人公・石平紀一(奥平大兼)の叫びからドラマ『税金で買った本』は始まった。向かってくる不良たちを瞬く間に倒した彼の次の台詞はこうだ。
「なんでだよ、なんで俺に文句つけてくるんだよ」
「なんで」「なんで」「なんで」。石平はありとあらゆることに純粋な疑問をぶつける。最初は理由が分からないから、暴力に暴力で返していた。「知りたい」という思いは、かつて父(平山浩行)の背中で感じた圧倒的な自由への憧れへと向かい、当時読んでいた小説『放浪する青』の言葉探しを経て、やがては本そのもの、図書館そのもの、そこで過ごしている人々への興味へと結びついていく。これは、自由を探しに図書館へと向かった「石平少年」による冒険の旅だ。私たち視聴者は、彼と一緒に旅をしている。
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主人公・石平とともに図書館を体験する

本作は、主人公・石平を通して図書館を体験することができるドラマでもある。まず、小学生以来、10年ぶりに図書館を訪れた高校生・石平を通して「本の借り方」を知る。利用者カードの登録から予約の方法、延滞本がどうなるのかという、久しく図書館に行っていない人にも行ってみようかなと思わせるような、利用者が知りたい情報と向き合った後、彼は『放浪する青』という1冊の本を巡って、さらなる図書館の内部に分け入っていく。
第3・4話における、利用者に破られてしまった貸出本『放浪する青』のページの切れ端が、他の本の中に入っているはずと書架の本を片っ端から探す石平を映した場面は、図書館員・早瀬丸小夜香(西野七瀬)の言う通り、「深い森の中を歩き続ける心の旅」でもあると同時に、「書架の位置を把握する」という図書館で働く側の第一歩を経験したのだと思った(図書館員は分からないが、書店員はまず棚の並びを覚えるところから業務をスタートさせる)。だから、彼はその過程で日本十進分類法による「本の住所」に興味を持つし、通りすがりの利用者に棚の場所を教えたりすることができるようになる。
第4話で正式に図書館でのアルバイトを始めることになった彼は、資料係の白井里雪(青木マッチョ)から破損本の修理方法を聞いたり、一般図書係の早瀬丸を通してレファレンス(調べもの相談)業務を知ったり、児童図書係の朝野亜沙子(磯山さやか)に頼まれて、子ども向けのイベントを手伝ったりする。視聴者にとっては、それはさながら図書館のバッグヤードツアーだ。他にも、第4週で描かれた「ぬいぐるみお泊り会」(アメリカで始まった愛用のぬいぐるみを預けて“お泊り”させるイベント。翌朝、夜の図書館を冒険したぬいぐるみたちの写真をアルバムにして渡す)といった最新の図書館イベントに驚かされたり、ドラマ終わりに時折、登場人物たちが視聴者に向けて図書館豆知識を披露する「図書館だより」が挿入されたりするのも分かりやすくて面白い。
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優れた「お仕事ドラマ」であり自分自身と出会い直す物語

つまり、本作は、図書館の仕組みや運営方法を丁寧に描き、尚且つ個性あふれる図書館で働く人々の姿を描く、優れた「お仕事ドラマ」である。だが、本作の魅力はそれだけに留まらない。高校生・石平紀一が、本と図書館を通して自分自身と出会い直す物語としても楽しめるのだ。
この物語を引っ張るもう1人の主人公と言えるのが、『ライオンの隠れ家』(TBS系)で「ライオン」こと橘愁斗役を演じた佐藤大空が好演する幼少期の石平紀一である。石平が子どもの頃に感じた「自由」を象徴する、父とバイクに乗って旅をした光景は、彼が思い出せなかった『放浪する青』の台詞と共に何度も登場する。高校生になった石平が本を読み進め、その本の結末と台詞そのものが以前読んだ時とは変わっていることに気づき、その変化を自分の中できちんと受け止められた時、その光景も更新される。「自由は、きっとこの空の先にある」から、「自由は俺の中にあるから」へ。同時にそれは、図書館の中に、ずっと求めていた「自由」を見出した彼自身の気づきにもなった。
第16話における、目の前にいるのが「6歳の自分」だと思って読み聞かせをする特訓において、幼少期の石平(あくまで彼の想像上の)と向き合った彼は、図書館と出会い直すことで、知らないことを知ることが大好きだったかつての自分と向き合っている。
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「十六夜かなき」という名前の意味

また、ある意味、本作で描かれているのは、石平の父親探しの旅でもある。元々、家の本棚にあったライトノベル版の十六夜かなき 著『放浪する青』。一般書として出版されて「書店大賞」を受賞したことをきっかけに、石平が図書館で借りてくるのと時を同じくして、母・りょうこ(矢田亜希子)の元に同じ本が届けられることから、月が好きな「十六夜かなき」が誰かは自ずと想像がつく。石平が、図書館の貸出本である『放浪する青』の破られたページの破片を見つけ出すことは、長年欠落していた父親との思い出の欠片を取り戻すことに繋がった。さらには、「十六夜」の意味を知りたいと辞書を開き「十六夜かなき」という名前の意味を知る。旧版と新装版の違いを通して、作者が結末を変えた理由に思いを馳せる。つまり、彼は無意識のうちに、本を通して今は会えない父のそばにいる。