佐賀を拠点に活動するシンガーソングライター、江頭勇哉。YouTubeチャンネル『釣りよかでしょう。』のテーマソングを手がけたことでも広く知られるようになる。近年は俳優としても活動の幅を広げ、佐賀と東京を行き来しながら、自身の表現を更新し続けている。
新曲“デタラメロディ”は、大人気YouTube番組『釣りよかでしょう。』のサブチャンネル『佐賀よかでしょう。』のテーマソングとして制作された楽曲だ。チャンネルの明るさや佐賀らしさを映しながら、そこには「今からでも好きなことをやっていいのかな」と思う大人たちへのまなざしも込められている。
江頭自身、過去に参加したオーディションで優勝した後に、思い描いた未来とのギャップに苦しみ、音楽から一度離れてYouTubeに向き合い、再び自分の歌へと戻ってきたという経験を持つ。
順風満帆に見える歩みの裏で、何度も立ち止まり、自分は誰に向けて歌うのかを問い直してきた江頭勇哉。音楽との出会い、『釣りよかでしょう。』との出会い、佐賀を拠点に活動する意味、そして「大人にもまだ将来はある」と歌う現在地について聞いた。
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オーディションで優勝、ギターが居場所だった少年期
ーまず、江頭さんが音楽に触れたきっかけを教えてください。
江頭:ギターを弾くようになったのは13歳の頃でした。友達の家に遊びに行ったらギターが置いてあって、「俺にもちょっと教えてよ」という感じで。でも、そもそものきっかけはもっと前かもしれないです。うちは両親が共働きで、おじいちゃんとおばあちゃんが世話してくれてたんですけど、おばあちゃんは民謡の先生だったんです。晩ご飯が終わるとおばあちゃんが三味線を弾きながら唄っているのが日常だったので、それに影響されてるのかなと。
ー音楽が当たり前に身の回りにあったんですね。
江頭:そうですね。当時流行ってたJ-POPも普通に聴いてましたし。ギターを始めた頃はゆずさんにハマってて、コードとメロディが書いてある分厚い歌本を見ながらひたすら弾いてました。最初はあんまり歌ってなくて、とにかくギターを弾くことが楽しかったです。今もですが、玉置浩二さんも大好きでしたね。

佐賀出身のシンガーソングライター。全身から溢れでるパワフルな歌声で、一度聴いたら口ずさんでしまうようなメロディーが魅力のアーティスト。2007年『V3新人オーディション 12th』で最年少で最優秀グランプリを獲得。2013年からソロ活動を開始、同年に福岡の音楽業界各社が合同で開催する新人アーティスト発掘プロジェクト『FUKUOKA MUSIC FACTORY 2013』にてグランプリを獲得。2014年に1st mini album『アンブレラ』を全国リリース。2025年11月23日(日)には、初の単独ライブ『イントロ』を開催。2026年7月“デタラメロディ”をリリース。9月7日(月)、8日(火)には、『LIVE TOUR 2026「イントロ」』を神奈川、大阪で開催。
ー人前で披露するようになったのはいつ頃ですか?
江頭:中学生の間は友達にちょっと聴かせるくらいだったんですけど、高校に入ったくらいの頃に、路上でやってみたくなって。当時の佐賀はシンガーソングライターが非常に多くて、アバンセ(※)というビルの前と佐賀駅の地下道に、弾き語りの先輩たちがめっちゃ並んで演奏してたんです。
※アバンセ:佐賀市天神にある佐賀県立生涯学習センターの愛称
江頭:少し弾けるようになって、「俺もいけるんじゃね?」と思って行ってみたら、とてつもなく上手い人ばかりでこれはまずいなと(笑)。また家に引きこもって練習して、高校1年生の終わりくらいから頻繁に路上でライブするようになりました。そこでいろんなミュージシャンと知り合って、アコースティックデュオ「音音」(ねおん)を結成して。デュオというよりも自分はサイドギターで、ギターアレンジを考えて支える感じでしたね。
17歳になった頃には、高校に行かなくなったんですよ。興味があるのは音楽だけだなと思って、プロのミュージシャンを目指すようになりました。

ーご家族は応援してくれました?
江頭:「馬鹿じゃないの?」って言われました(笑)。目に見える結果があれば納得してくれるんじゃないかと思って、オーディションをたくさん受けたんです。そしたら運が良くて、どれも優勝できたんです。そしたら親も「うちの子、もしかしたら才能があるかもしれない」みたいになってきて、応援してくれるようになりました(笑)。
でも、SONY主催の『V3新人オーディション12th』で優勝したタイミングでそれぞれの力を試したくなって、メジャーデビューの話をお断りして、音音は解散することになりました。その後23歳の時に、1人になって最初に受けたオーディションが、福岡のキャナルシティ博多(※)を舞台にして1年間かけて行われる大規模なものだったんです。
※キャナルシティ博多:福岡・博多にある大型複合エンターテイメント施設
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オーディション優勝の光と闇。理想と現実のギャップ
ーお話を聞いていると、すごく順調な滑り出しですよね。
江頭:この優勝が、ある意味で人生のターニングポイントになりました。優勝したら、すぐにキラキラとした世界に行けると思ってたんですけど、そうはならなくて。実際には、オーディション関係者の方が企画したアイドルグループのイベントに一緒に出演して、前座で歌う日々がずっと続いたんですね。客席の前の方はアイドルのお客さんがタオルとかを置いて占領しちゃって、僕を目当てに来てくれているお客さんはちゃんと観れないような状況だったんですよ。
僕の音楽仲間も最初は「あいつすぐに売れるんじゃないか」みたいな期待を寄せてくれてたんですけど、全然そうならなくて。優勝したのにこういう状態だったら、次に何を目指せばいいかわからなくなってしまったんです。もう不眠症になってしまって。病んでたんでしょうね。

ー理想と現実のギャップが埋められなかったというか。
江頭:そうですね。不眠症になってしまって。眠れない日々の中、なんとか寝落ちするためにYouTubeで見てたのが、『釣りよかでしょう。』(※)のチャンネルだったんです。
※釣りよかでしょう。:釣りの動画を中心に動画を配信している、佐賀県を拠点に活動するYouTuberグループ。現在の登録者数は約175万人
江頭:釣りは元々おじいちゃんが好きで、僕もその影響でやるようになったんですけど、音楽に集中するために道具を一式売ってしまっていて。ただ、その頃、おじいちゃんが亡くなったこともあって、久々に釣りでもしようかと思い立って。そうなったときに、僕の中で「音楽、釣り、YouTube」がピタッとハマったんですよね。

江頭:それで、今後も音楽を続けるために、1年間音楽をやめようと決めて。一度音楽から離れて違うことをやらないといけないと思ったんです。母親とか周りの人からは「せっかく優勝したんだし、やったほうがいい」と言われましたけど、自分にとっては、「一度離れる」ということが必要だったんですよね。
ーこのままだと音楽ができなくなってしまうという危機感があったんですね。
江頭:そうですね。結局、これまでは「オーディションに受かるために音楽をやっていた」ところがあったので、「なんで自分は歌っているのか」「誰に聴かせたいのか」がわかっていなかったんですよ。ただただ楽しくて始めたはずなのに、そうじゃなくなっていた。精神的には、どん底に落ちたんですけど、それに気づけたのは意味があったと思います。

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音楽業界ではなく「趣味の釣り」が繋いだ奇跡的な縁
江頭:そこから釣りのYouTubeチャンネルを始めたんです。どうせ眠れないから、バイトが終わったらカメラと釣り竿を持って撮影に行って、帰ってきたら編集して1時間寝てまたバイトに行くような生活を1年半やりました。
ー信じられないぐらいハードですね。心が折れそうになりませんでしたか?
江頭:撮影も編集も大変だったんですけど、その頃はまだ釣りのYouTubeチャンネルも少なかったし、再生数とかチャンネル登録者数とか目標が明確にあったのでがんばりやすかったんですよ。そうやって続けていくと、冷静なもう1人の自分がいる感覚になっていって。音楽をやっていた時はごちゃごちゃしていたものが、切り分けて考えられるようになったというか。音楽をやるにしても、いいメロディーを書いて歌う自分と、それを届けるために戦略を練る自分の両方が必要だよなと。すごく頭がスッキリしたんです。

ー自分自身を俯瞰できるようになったと。
江頭:その時期に、改めて音楽のビジネス的な側面のことも勉強するようになったんです。そうすることで、ブレイクできなかったのは自分にも責任があったことがわかってきて。上手けりゃ売れるというわけでもないし、自分の中にこれからどうなっていきたいかというロードマップもなかったから、そんなミュージシャンに時間もお金もかけられないよなってようやく気づけたんです。
ー『釣りよかでしょう。』の方々とはどうやって知り合ったんですか?
江頭:自分のチャンネルの撮影をするために釣りをしてたら、たまたま同じ場所で『釣りよかでしょう。』も撮影されてたんですよね。「うわ! 本物だ!」と思ってたら、向こうから「佐賀でYouTuber初めて見た」と声をかけてもらったんです。そこから4、5時間お話しをして、ミュージシャンをやってることを話したら、「テーマソングが欲しいんだよね」という話になって。テンション上がっちゃって、帰り道の10分でテーマソングができて。
そこで作ったテーマソングもYouTubeで使ってもらって、『釣りよかでしょう。』のチャンネルにも出させてもらえるようになって、すごく広がっていきました。昔出したCDも急に売れ始めたみたいで、レーベルの方から「何があったの?」と連絡が来るくらいで(笑)。
ー釣りと音楽が回り回って繋がったという。
江頭:振り返ったら、おじいちゃんが好きだった釣りとおばあちゃんが好きだった音楽をやってるんで、不思議な気持ちになります。
