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ドラマ『エラー』が描く「取り返しのつかないこと」に悩み続ける人々

2026.5.31

#MOVIE

©ABCテレビ
©ABCテレビ

ドラマ『エラー』(ABCテレビ / テレビ朝日系列)が、あっという間に最終話を迎える。

畑芽育&志田未来がW主演。若くして芸歴20年以上の実力派コンビの共演は注目を集めたものの、作品じたいの前評判はあまり聞こえてこなかった本作だが、連続ドラマ初脚本を務めた弥重早希子によるオリジナル脚本の巧みさもあって、尻上がりにSNS上でも話題になっていった。

『すべての恋が終わるとしても』『50分間の恋人』と新鋭脚本家の抜擢が続く、通称「日10ドラマ」最新作を、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター藤原奈緒がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

畑芽育と志田未来による取り留めのない会話の面白さ

ユメ(畑芽育)と未央(志田未来)の取り留めない会話も本作の魅力の1つ©ABCテレビ
ユメ(畑芽育)と未央(志田未来)の取り留めない会話も本作の魅力の1つ©ABCテレビ

最終話を迎えるドラマ『エラー』。弥重早希子がオリジナル脚本を書き下ろした本作は、母・美郷(榊󠄀原郁恵)の突然の死とそれに派生して起きた事件を受け入れられずにいる大迫未央(志田未来)と、美郷の死に深く関わっていることを言い出せずに未央と親しくなってしまう中田ユメ(畑芽育)という、二人の女性の禁断の友情を描いたドラマだ。

母を亡くした娘と、その母を死なせてしまった女性、さらには偶然、近くを歩いていたために下敷きになり、意識不明の重体となった人物・近藤宏(原田龍二)の家族をも巻き込んで展開していく予測不能な物語は、それだけで画期的で目が離せないものがあったが、何より本作の魅力は、会話劇としての面白さだろう。第2話で未央がユメのことを「背骨抜けてまーすみたいな感じで話せる人」と言ったように、「これ以上関わってはいけない」と内心思いながらも止められない未央とユメの取り留めのない会話は、志田未来と畑芽育の好演も相まって、ずっと見続けられる心地よさがあった。

ユメの弟・太郎(坂元愛登)©ABCテレビ
ユメの弟・太郎(坂元愛登)©ABCテレビ
近藤宏の娘・さくら(北里琉)©ABCテレビ
巻き込まれた近藤宏の娘・さくら(北里琉)©ABCテレビ

また、「他人以上、友達未満」の関係から始まった未央とユメの友情の進展と同時進行で描かれた、ユメの弟・太郎(坂元愛登)と近藤宏の娘・さくら(北里琉)の関係性の変化も、演じる坂元愛登・北里琉の瑞々しさも含め、大人たちの問題に振り回される子どもたちの人生をおざなりにしない誠実さを感じた。

ドラマ『3000万』とも通じる、過ちのリアリティ

物語はユメと未央の母・美郷(榊󠄀原郁恵)との「エラー」から始まった©ABCテレビ
物語はユメと未央の母・美郷(榊󠄀原郁恵)との「エラー」から始まった©ABCテレビ

本作の脚本を手掛ける弥重早希子は、NHKで発足した脚本開発チームWDRプロジェクトから生まれた2024年の傑作ドラマ『3000万』(NHK総合)の脚本家の一人(他に名嘉友美、山口智之、松井周が担当)である。前身となる第1話のパイロット版を企画・執筆したのが弥重であり、それを元に4人の脚本家で全8話のドラマを構築していったという『3000万』は、安達祐実と青木崇高が演じる平凡な夫婦がひょんなことから3000万円を手にしてしまい、欲に目が眩んだ結果、大きく道を踏み外してしまうというクライムサスペンスだった。それまで真っ当に生きてきた夫婦が、大金を前につい魔が差してしまい、うっかり犯罪に手を染めてしまうリアリティは、現実世界ではあってはならないことなのは前提としつつも、共感せずにはいられなかった。主人公が、そうした取り返しのつかない「エラー」の連続に陥る話という点では、本作と通じ合うところがあるだろう。

参考:普通の人々が「自己責任」で犯罪者になるドラマ『3000万』の行く末

『3000万』©NHK
『3000万』©NHK

「起きてしまったことは取り消せない」を視聴者に突きつけた1話冒頭

偶然、通りかかり、エラーに巻き込まれた近藤(原田龍二)©ABCテレビ
偶然、通りかかり、エラーに巻き込まれた近藤(原田龍二)©ABCテレビ

『エラー』第1話は、特殊清掃業者の車が止まるところから始まった。警察官の立ち合いの元、清掃業者たちが、主人公・大迫未央の母・美郷が飛び降りて亡くなった現場の清掃を開始する。カメラはそのまま、美郷が上った建物の屋上へと続く場所を映し、次のショットでは少し前の時間にさかのぼり、その場所に吸い込まれるように入っていく美郷の姿と、偶然そこを通りかかった男性・近藤宏が屋上を「見上げる」姿を映す。さらに遠くからその光景を見つめているのが、本作のもう1人の主人公・中田ユメだ。一つの空間の現在と過去、その両方を俯瞰で見つめるかのような彼女は、本来、この物語の外側にいる人物にも関わらず、その実、誰よりも深く彼女ら彼らの物語に関与してしまう。

このすこぶる秀逸なこの冒頭のシークエンスに重ねられるのは「不注意、不用意、ついうっかり。私たち人間は時に過ちを犯してしまう生き物である」「自らの過ちに気づいた時、二度と同じことを繰り返さぬよう、その行動を振り返る。なぜあんなことをしてしまったのか、後悔し、反省もする。それは重要なことではある一方で、起きてしまったことは取り消せない」「この世には取り返しのつかない過ちが存在する」というユメによるモノローグだ。この言葉は、宏を巻き込んだ美郷の死によって、これ以上ない説得力で、視聴者に突きつけられた。

それぞれの「取り返しのつかないこと」に悩み続ける人々

10年前に妻を自殺で亡くしていた刑事・遠藤(岡田義徳)©ABCテレビ
10年前に妻を自殺で亡くしていた刑事・遠藤(岡田義徳)©ABCテレビ

「取り返しのつかない過ち」を前に人は思う。「全部夢だったらよかったのに」と。それは、かつてユメの母・中田千尋(栗山千明)がユメに言った言葉でもあり、それが自分の名前の由来だと思っているユメにとってはきっと「呪い」の言葉でもあるのだろう。逆に、事故直前に妻・紗枝(菊川怜)から離婚という現実を突きつけられていた宏は、その後、意識を失っている間に見た「ママともさくらとも仲良しで、いい夫で、いい父親」だった夢が本当だったらよかったのにと思っていたりもする。

『エラー』はそんな、「取り返しのつかない過ち」によって生じた心の闇を執拗に描く。ユメは、高校卒業後に勤務したラーメン屋の「継ぎ足し58年の伝統のタレ」をうっかり捨ててしまったような、度を超えた運の悪さゆえ、多くの罪の意識を抱えることになる。美郷の自殺を止めようと話し相手になっていた彼女は、偶然飛んできたハトを避けようとした結果、うっかり美郷の背中を押して、彼女の死の直接的な原因になってしまう。ユメだけでなく、母が死のうとした原因を問い続けずにはいられない未央や、10年前に妻を自殺で亡くしている刑事の遠藤孝彦(岡田義徳)を通して、自死遺族の苦しみも映し出される。他にも、美郷の死に巻き込まれてしまった宏を巡る妻・紗枝の葛藤や、ユメとの不倫を隠すためにユメと共に一線を越えてしまう佐久間健司(藤井流星)の葛藤、さらにはユメの幼少期に起きた父の死によって、ユメの母・千尋とユメが抱え続けている罪の意識まで、さまざまな「取り返しのつかないこと」に悩み続ける人々の姿を映し出してきた。

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