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2020年代はテクスチャの時代? 短歌から音楽まで、瀬口真司×つやちゃんが談論

2026.3.12

#BOOK

ボンボンドロップシール、ASMR動画、あるいは写真の加工 / 補正……昨今のトレンドを見渡してみると、「テクスチャ」がキーワードとして浮かび上がってくる。

そう、いまはどうやら「テクスチャの時代」であるらしい。そこでは、場合によってはテクスチャが「意味(内容)」よりも優先される。この潮流は、音楽や短歌の世界でも見られるのではないか——歌人・瀬口真司と、文筆家・つやちゃんは、このような認識を共有しているようだ。

「テクスチャ派歌人」を自認する瀬口と、テクスチャそのものなペンネームを名乗るつやちゃん。二人に、短歌や音楽におけるテクスチャについて、そして「テクスチャの時代」はどこへ向かうのか、語ってもらった。

まず、テクスチャとはなにか(ネットリ)

イメージが大切だからイメージのグレープフルーツは濡れている

テクスチャーよりなお意味が痙攣を ひととおり見てくる春の磯

内容よりもエフェクトだって、青春は クリアパーツの夕立が来る

(瀬口真司 歌集『BEAM』より)

—はじめに、お二人がいまを「テクスチャの時代」と呼ばれているのは、どういうことを指しているのか、少し伺えたらと思います。

つやちゃん:たとえばASMRの流行は、テクスチャそのものですよね。自分の記憶だと、ビリー・アイリッシュが出てきた時期、2016年ぐらいかな? あの頃からASMRという言葉が出始めた記憶があります。ビリー・アイリッシュのああいう、イヤホンで聴いてすごいゾクッとくるような感じは、まさに音のテクスチャだったと思うんです。あのあたりから、音楽でもテクスチャみたいなものがすごく重視された印象がありますね。

瀬口:音楽だと、僕はOneohtrix Point Neverがけっこう好きなんですけど、OPNの音楽は身体に触知するような感覚がありますよね。来日公演に行ったときに、信じられないくらい音がデカくて。イヤホンで聴いてもすごいテクスチャだと思うのに、さらに「圧」もあって、すごかったですね。

つやちゃん:OPNもテクスチャの音楽ですよね。圧が掛け合わさると、本当に身体、肌に振動がくるので、そこでまたテクスチャを感じるんですよね。

—つやちゃんさんは先日NiEWの座談会の中で、「バレエコア」とか「コケットコア」といった、文脈や背景を必要としない、ムードや雰囲気が重視されるファッションの流行を指摘されていましたね(該当記事)。こうした「ムード重視」と「テクスチャの重視」は、また別のものなのでしょうか?

つやちゃん:近いですけどレイヤーが少し違っていて、テクスチャは物質的・感覚的な触知の話で、それらが集積し総体的な空気感として認識されるものがムード、と考えています。テクスチャやムードを重視したコミュニケーションが増えてきているのは確かで、それによって意味や物語をすっ飛ばして「感じる」ことができる。同じ被写体、同じスタイリングを撮ったファッション写真でも、どうテクスチャを調整するかでSNSでのバズり方がぜんぜん違ったりとか、そういうことが往々にしてありますよね。

言葉に空間系のエフェクトをかけるような短歌

—なるほど。では、「意味ではなくテクスチャが重視されたテキスト」というのは、たとえばどういうもののことなんでしょうか?

つやちゃん:瀬口さんがよく例として挙げられている、青松輝さんの短歌がわかりやすいなと思います。

シャンプー 僕は自殺をしてきみが2周目を生きるのはどうだろう

(青松輝 歌集『4』より)

瀬口:はい。ベタに読むと「シャンプーをしているときにこういうことを思った」というように取られると思うんですが、このシャンプーという言葉と1字空けは、「シャンプーをしているときに」という説明ではなくて、歌自体の質感をコーティングするための置き字みたいなものだと思うんです。

シャンプーという言葉が一番最初にあることで、その香りがしてくるというか、香りの操作によって、その後のフレーズのフレーバーを決定的に決めてしまう。意味はないんですよね。それは、シャンプーという行為自体にも意味がない、ということと響き合うと思うんです。シャンプーには、機能や効果や価値だけがあって、「意味」がある行為ではないので。

—なるほど。

瀬口:この初句1字空けという方法について、一部では「フィールド魔法(※)みたいだ」と言っていたりもします。前提になっているのは、短歌の前半と後半、上の句と下の句で全然違うことを言う技法で——「つぶやき+実景」「実景+つぶやき」と言ったりするんですけど——写実的なシーンの記述と思いの記述が、お互いの隠喩になって効果が増していく。それを先鋭化させたのがこれで、相互のフレーズに関係はあるんですけど、その関係は「説明」ではなくて「エフェクター」なんです。空間系のエフェクトをかけたり、エコーがかかっているように聴こえさせるようなことを、単語の持っている雰囲気 / イメージによって操作するんですね。

※フィールド魔法:カードゲームに登場する、場全体に対して影響を及ぼす魔法

つやちゃん:しかも、これがやばいのは、シャンプーの後に自殺という過剰に意味の重い言葉が配置されている。この対比によってよけい言葉の意味が爆発するという構造もすごいなと思いますね。

瀬口:あえて遠いものを選ぶ、俳句の「二物衝撃」(※)みたいな理路がここにはあるんですけど、たとえば食べ物でも、全く別のこの香りとこの香りが組み合わさるとおいしい、みたいなことがありますよね。スパイスカレーとか、パフェのような。短歌を作ること自体がそうだと思うんですよね。言葉と言葉の、それぞれが持っている香りを調合していい感じにする、っていう。

※二物衝撃:異なる2つのものを組み合わせて、そのぶつかり合いを楽しむ方法論。『勝訴ストリップ』(椎名林檎のアルバム名)や「霜降り明星」(お笑い芸人のコンビ名)も二物衝撃の例だと言える。

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