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映画『ストリート・キングダム』田口トモロヲ×峯田和伸対談「バズじゃなくてバグを」

2026.3.24

#MUSIC

硬直化したロックの価値観を根底から覆すパンク、そしてそこから派生したニューウェーブの衝撃がロンドンやニューヨークを揺るがしていた1978年。東京でも同じようにムーブメントが発生していた。

六本木にあったS-KENスタジオを根城に、LIZARD、FRICTION、S-KENといったバンドが中心となって「東京ロッカーズ」というライブイベントが開催され、同名のオムニバスアルバムも発売された。このパンクムーブメントはそれまでの芸能的な音楽業界のあり方と一線を画した、地べた=ストリートから立ち上がったものだ。今では当然となった「インディーズ」、「オールスタンディング」、「ロックフェス」などを、最初にやり始めたのも東京ロッカーズ周辺のバンドやイベントだった。

この当時の熱気をリアルに再現した映画が公開される。東京ロッカーズの渦中でカメラマンとして活躍し、レーベルも主催していた地引雄一の著作『ストリート・キングダム:東京ロッカーズと80’sインディーズ・シーン』を原作に、自らもバンド「ばちかぶり」のボーカルとして活動していた田口トモロヲが監督。脚本は宮藤官九郎、地引雄一自身をモデルにした主人公であるユーイチを演じるのは峯田和伸。田口の監督第一作である『アイデン&ティティ』(2003年)と同じ布陣が揃った。

他にもTOKAGE(LIZARD)のボーカル・モモを演じるのは若葉竜也。ロボトメイア(ZELDA)のベース・サチは吉岡里帆、ボーカル・加世子は中島セナ。軋轢(FRICTION)のDEEPは間宮祥太朗。解剖室(THE STALIN)の未知ヲに仲野太賀。ごくつぶし(じゃがたら)のヒロミは中村獅童という、そうそうたる面々が集結。ライブシーンには元になったバンドの音源がそのまま使われ、大音量で劇場に響き渡り、地引が実際に撮っていた写真の数々も随所に散りばめられている。

ただの「あの頃はよかった」というノスタルジーではない、確かにあの時の東京に存在したリアルな王国の記録。それが2026年に公開されることで、どのような意味を持つのか。田口と峯田に話してもらった。

日本史に例えると、東京ロッカーズは幕末

ー『ストリート・キングダム』を映画化しようと思った理由を教えてください。

田口:地引さんが書かれたドキュメントを読んだ時に、僕にとって本当にジャストでドストライクな話だと思ったんです。自分がバンドや表現を始めた引き金の一つになった人たちだったので。インディーズやオールスタンディングのような今の日本のロックのシステムを一番最初に作った人たちなのに、若いみなさんはご存知ない。それを知ってほしかったということです。

田口トモロヲ(たぐち ともろを)
1957年生まれ、東京都出身。俳優としては78年「発見の会」で演劇デビュー。映画『俗物図鑑』(82/ 内藤誠監督)で映画デビュー。89年『鉄男』(塚本晋也監督)で主演。以降、映画・ドラマ・舞台と幅広い作品に出演。近年の出演作に「サンクチュアリ-聖域-」(23/ Netflix)、「忍びの家 House of Ninjas」(24/ Netflix)、『嗤う蟲』(25/ 城定秀夫監督)、『片思い世界』(25/ 土井裕泰監督)等。「新プロジェクトX~挑戦者たち~」(NHK)、「洋楽主義」(WOWOW)でナレーションを担当中。ミュージシャンとしては82年「ガガーリン」を経て、84年「ばちかぶり」を主宰。監督としては『アイデン&ティティ』(03)でデビュー、『色即ぜねれいしょん』(09/ 新藤兼人賞銀賞)、『ピースオブ ケイク』(15)を手がけた。

ー重要なことが知られていないというフラストレーションから出発したんですね。

田口:ロックの常識として、普通に知られてほしいなと。

峯田:日本史に例えると、東京ロッカーズは幕末だと思うんですよね。本当に革命。日本のロックの年表には、確かにその革命があった。でも、知られていないっていう。彼らがいたから、バンドもお客さんも意識が大きく動いて、今のロックシーンになっていったんじゃないですかね。

峯田和伸(みねた かずのぶ)
1977年12月10日生まれ、山形県出身。ロックバンド「GOING STEADY」として音楽活動を開始、その後バンド「銀杏 BOYZ」を結成。田口トモロヲ監督の『アイデン&ティティ』(03年)で中島役として映画初出演にして初主演。以降『少年メリケンサック』(08年 / 宮藤官九郎監督)、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(10年 / 三浦大輔監督)、『ピース オブ ケイク』(15年 / 田口トモロヲ監督)などに出演。またドラマ「奇跡の人」(16年 / NHK)では連続ドラマ初主演を務める。近年の出演作には、「いだてん~東京オリムピック噺~」(18年 / NHK)、『越年 Lovers』(20年 / グオ・チェンディ監督)、映画『BAUS 映画から船出した映画館』(25年 / 甫木元空監督)、舞台 大パルコ人⑤オカタイロックオペラ「雨の傍聴席、女は裸足…」(25年 / 宮藤官九郎演出)に出演するなど、歌手・俳優として活躍している。

ー確かに、幕末を抜かして日本の近代史を語るのは不可能ですもんね。

峯田:それまでにあった常識やシステムをまるっきり変えてくれたというか。僕はリアルタイムではないですけど、そういう意味でミラクルなシーンだったのかなと思います。

パンクは歌う人だけが主人公ではない

ー田口さんは東京ロッカーズの面々のライブを実際にご覧になっていたんですか?

田口:東京ロッカーズというイベント自体は観ていないですけど、ムーブメントの中心にいたバンドは個々に観ていました。印象に残っているのはFRICTION、じゃがたら、THE STALINなどですね。

ーその3バンドは劇中でも特別な役割を担っています。田口さんが当時受けた衝撃が、劇中の描き方にも反映されているということでしょうか。

田口:それもあると思うんですけど、この物語を立ち上げた時にはもっと登場人物が多かったんですよ。でも、脚本を読んだ人から「キャラクターが多すぎてついてけない」というご意見をいただいてしまって、ブラッシュアップする必要が出てきて。誰をピックアップして、誰を削ぎ落とすのかというのは、もう苦渋の決断でしたね。そうやって推敲を重ねて今の形になりました。

ー削らなくてはいけないほど数々のバンドが登場する中、主人公のユーイチはミュージシャンではなくカメラマンです。

田口:地引さんの『ストリート・キングダム』というリアルな原作をもとに真実の物語を描くときに、その非常に正直でフラットな目線を活かしたかったんです。地引さん、劇中ではユーイチから見た世界を描きたかった。

ーステージに立ち続けてきた峯田さんと、記録者 / 傍観者であるユーイチはある意味真逆の存在なんじゃないかと思うんですが、演じてみていかがでしたか?

峯田:バンドマンには曲があるように、カメラマンには写真があるんですよね。写真が曲なんだな、と。写真を撮るという行為と歌うという行為は、あまり変わらないと思ったんで、違和感はなかったです。あと、パンクの世界では歌う人だけが主人公ではない。写真を撮る人もファンジンを作る人もお客さんも、みんな一人ひとりが主人公になれる。だから、カメラマンの役だけど、どっかで歌っているような、そんな感覚でしたね。

ー「その一瞬を切り取る」という点において、写真も歌も同じというか。

峯田:はい。そうだと思いますね。

ーこの「歌う人だけが主人公ではない」という思想は、この映画の非常に重要なテーマですよね。今では考えられないですが、ライブハウスもほとんどが着席で、「ステージ上で演奏するミュージシャン / 下の客席からそれを仰ぎ見る観客」という一方通行の関係性だったものが、一気に壊れるという。ユーイチがTOKAGEのライブを観に行って最初にカメラに収めるのは、バンドではなく席から立ち上がって自由に踊る観客でした。これは東京ロッカーズが成し遂げた革命の中でも、最大の成果だと思います。

田口:おっしゃる通りです。

峯田:台本を最初にもらって、序盤の数ページをめくったらそのシーンが書いてあって。「ライブハウス。みんなが座っていて、タバコを吸う者もいて、本を読んでいる者もいる。そこからやがて一人の女が立ち上がり、ゆらゆらと踊り出す」みたいに書いてあるのを読んで涙が出てきました。

田口:全員がメンバーなんですよね。みんながムーブメントに参加している。観にきている人も、写真を撮っている人も、ライブハウスのスタッフも。今のように分担されていなくて、全員に可能性がある。本当に奇跡的な瞬間だったんじゃないかと思います。

開かれたエンタメにはしたかったけど、嘘はつかない

ーライブシーンは今作の見どころの一つですが、ムーブメントが盛り上がるに従って、ライブの熱量も増えていくのが如実に伝わってきました。俳優陣はもちろん、観客側の演出にも気を配られたんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか?

田口:めちゃくちゃ大変でした。エキストラさんをライブハウスのセットにお呼びしてやっていただいたんですけど、当時のお客さんの規模感を演出部が知らないんですよ。若いので当然なんですけど。だから、お客さんが多すぎるんですよね(笑)。ムーブメントが盛り上がってくるとお客さんは増えますけど、ライブハウスがパンパンになるってことはない。「もっとお客さんを少なくしてくれ」って口酸っぱく言いました(笑)。この時代を体験した人が見た時に「嘘じゃないか」と思われないように、バンドとお客さんのグルーヴには非常に神経を使いました。

ーライブを見つめるユーイチの「すごいものを見ている!」という表情も、とても重要な役割を果たしていますよね。

峯田:若葉くんにしろ、吉岡さんにしろ、太賀くんにしろ、間宮くんにしろ、目の前で演奏してたみんながめちゃくちゃよかったんですよ。それにすごい助けられました。みんなが「めちゃくちゃかっこいい」と思っている顔にしてくれたんだと思います。あと、監督がエキストラの皆さんの動き一つひとつに「当時はこうじゃなかった」と細かい演出をつけていて、当時のライブハウスが目の前にあるみたいで感動しました。ライブ盤を聴いたり本を読んだりして想像していたライブハウスを、映画のセットで追体験させてもらったというか。本当にこれくらい照明が薄暗かったんだろうな、みたいな。いい経験でした。

田口:当時は照明も少なかったんですよ。だから、照明も間引きました。フィクションとして守る部分はあるけれども、これ以上やったら嘘になるという、非常に微妙なラインがあるので、気を使いました。

ー「このムーブメントがライブハウスシーンの礎を築いたんだ」ということを伝えたいんだけども、「豪華なステージでたくさん人を集めたからすごい」というふうに伝わってしまったら意味合いが違いますもんね。

田口:そうなんです。開かれたエンタメにはしたかったけど、嘘はつかないという方向で、成立させたかった。

一人ひとりが自分自身になれる

ーバンドを描くようなフィクションでは、女性をグルーピーのように扱うものも少なくありません。田口さんが監督し、峯田さんが主人公のバンドマン中島を演じた2003年の『アイデン&ティティ』では、麻生久美子さん演じる主人公の恋人は「中島の彼女」という役名で、なんでも許してくれる女神、もしくは母親のような役割でした。一方で、本作はサチや加世子はもちろん、屋根裏で踊り出す女性のようなワンシーンしか出てこない女性たちも、自らパンクに関わっていくことで変わっていく主体として描かれています。

田口:全員が参加者ということが大事なので。性別や職業関係なく、このムーブメントに共感して、自分の引き金を引く。誰も脇役じゃなくて、一人ひとりが自分自身になれる。それがパンク / ニューウェーブのムーブメントだと思うので、そこをきっちり拾い上げることは意識しました。実際に、舞踏やダンスをやってる人がバンドを組んだりとか、地引さんみたいに自分でレーベルを立ち上げたりするシーンだったので、そこを丸ごと描きたかったんです。

ー登場するバンドは、みんな「海外からの借り物ではない、東京のパンクをいかにしてやるか」という共通の問題意識を持っています。

田口:洋楽パンクにもまだ慣れ親しんでいないような時代だったので、それをどう自分たちのものにしていくかという葛藤が生んだ美しさですよね。海外から来た音が自分の耳にはこう聞こえた、という。

「売れる音楽がいい音楽なのか?」戸惑いと葛藤のなかで、モモ(若葉竜也)は自分の音を模索する……。

ー峯田さんにも、そういった意識はありますか?

峯田:ずっと考えてはいるんですけど、ちゃんと答えを提示できているかはわからないです。例えばSNSとかがあって、便利になっている分、それに乗っかっていいのか。もし彼らが今の時代にいたら、どんな方法で表現するんだろうなとか、ずっと考えてます。バズった方がいいみたいなことになってるじゃないですか。みんなバズらせようとしますけど、僕はバグった方がいいと思います。いかにバグれるか。どんどんシステム化されていく中で、はみ出るものが面白い。じゃあバグをどうやって起こせるか、そのためにどういう自分じゃないといけないのかを考えてます。

ーバズとバグの対比という意味では、作中でTikTokerと三軒茶屋にあるレコードショップ「FUJIYAMA」が並んでいるシーンが象徴的です。FUJIYAMAは日本でも随一のバグっている場所ですよね。

田口:一つの対比ではありますよね。こういった現代にもFUJIYAMAはある、という(笑)。あのシーンはドキュメントというか。じゃがたらのボーカル・江戸アケミさんの言葉「やっぱ自分の踊りを踊ればいいんだよ」が書かれているFUJIYAMAの看板を、映画の中で残しておきたかったというのもありました。

ーじゃがたらの“もうがまんできない”を登場人物がリレーで歌っていくシーンも印象的です。FUJIYAMAのシーンと、このシーンが一番ファンタジックというか、フィクション性が高いと思いました。

田口:映画的な展開がもう一つほしいと思っていて、大袈裟にいうとミュージカルにしようと。この曲はサビで「心のもちようさ」と歌って社会や世間とのコミットを勧めながら、タイトルは“もうがまんできない”という。このアンビバレントな曲は全然古びていないので、今こそ伝わるんじゃないかと思いました。

峯田:「がまんできる」っていう歌詞ですもんね。で、タイトルだけ“もうがまんできない”。めちゃくちゃかっこいい。まさか自分が大人になって、映画の中であの曲を歌えると思ってなかったんで、高校生の自分に教えてあげたいです(笑)。「お前は間違ってねえんだぞ」って。

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