ブラックミュージックのグルーヴとロックの躍動感を併せ持つ、新世代アーティスト、Baby Canta(ベイビー カンタ)。星野源の“SUN”のカバー動画が一晩で20万再生を記録して以来、その独創的な音楽世界で注目を集めている。
彼の音楽の根底にあるのは、「ピースでいたい」という一貫した思い。家族との合唱文化の中で育ち、誰1人仲間はずれにしたくないという温かい感性は、そのまま楽曲作りの姿勢に反映されている。
ロックに救われた経験から生まれたパッション、そして大切な人へのメッセージを込める彼の楽曲は、聴く人の感情に寄り添い、前に進むモチベーションを与えてくれる。彼の飾らないルーツと未来に迫る。
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東京生まれの22歳。小学生からギターを弾き、高校卒業後にDTMと作詞作曲を開始。SNSに投稿した星野源の“SUN”のカバー動画が一晩で20万再生を記録し注目を集める。1stシングル“ビビってバビってブー”はJ-WAVE「SONAR TRAX」選出、各チャートで上位入り。2025年EP表題曲“SHYBOY”は全国53局パワープレイに決定。11月には新曲“I LOVE YOU BABY”を配信リリースした。ブラックミュージックのグルーヴとロックの躍動感を併せ持つ、新世代アーティスト。
「誰1人欠けてほしくない」という気持ちが生まれた家族との思い出
━まず、音楽を始めたきっかけについて聞かせてください。
Baby Canta:お父さんがギターを持っていて、それを小学校5年生の時に弾いたのが始まりでした。お父さんは車の中でもずっと音楽を流していましたし、ギターを弾きながらウルフルズとかをよく歌ってました。その影響で僕も弟と“ガッツだぜ!!”を歌ったり……小さい頃だから覚えてなくて、何年かあとにビデオを見せてもらって「こんなことあったんだ!」と驚いたんですけど(笑)。

Baby Canta:みんなで合唱することが多い家でしたね。おばあちゃんの誕生日に関西の親戚も巻き込んで“オー・シャンゼリゼ”を歌ったこともありました。しかも奇妙礼太郎バージョンというこだわりがあって(笑)。
━いいですね。みんなで歌う文化がある家。
Baby Canta:「自分で音楽を作り始めよう」と思ったのは中学生の時で、星野源さんの“SUN”に衝撃を受けたのがきっかけでした。理屈じゃなくてパッションで楽しめるような楽曲だなと感じて。別にバラードじゃないのに、よすぎて涙が出てきちゃったんです。僕にとって初めての体験だったし、その瞬間「ああ、俺って音楽が好きなんだな」と思いました。
━学生時代はどんな子どもでしたか?
Baby Canta:学校って「明るい子たちのグループ」と「大人しい子たちのグループ」で分かれがちじゃないですか。周りの人からはよく「Cantaはどっちでもないよね」と言われてましたね。どっちとも仲よくなれるタイプだったし、満遍なくみんなと話してました。
━意識的にそうしていたんですか?
Baby Canta:意識はしてました。僕はこういう性格なのもあって……えーっと、どういう性格なのかというと(笑)。「誰1人として欠けてほしくない」みたいな気持ちがあって。教室の中ってグループになって楽しそうにしている人たちもいれば、輪に入れずに1人ぼっちになっている人もいるじゃないですか。そういう人を見かけたら「仲間に入れてあげたいな」と思っちゃうんですよ。なので、できるだけみんなと話すようにしてました。

━なるほど。どうして意識的にそうしようと思ったんですか?
Baby Canta:僕自身、元々そんなに周りと馴染めるタイプではなかったから、そういう人を増やしたくないという気持ちが出たのかなと思います。
━Baby Cantaさんは周りに気を遣う性格なんですね。
Baby Canta:確かにめっちゃ気は遣ってました(笑)。でも根本的にあるのは「みんなと喋るのが楽しい」「いろいろな人の考えを聞くのが好き」という気持ちだったので、苦ではなかったですね。1人でいると、「苦しい」とか「悲しい」と思っても自分の中にため込んでしまいがちじゃないですか。ため込むのはつらいことだし、僕自身も信頼している人に悩みを打ち明けて、気持ちが楽になるようなこともあります。
基本的に「ピースでいたい」という性格だし、そもそも「嫌なことがあったらどんどん言っていく」「都度共有していく」という家庭で育ったので、そういう空気を教室の中にも作りたかったのかもしれないですね。

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「弟に“大丈夫なんだ”と心から思ってもらえるような、そんな曲を作りたかったんです」
━2025年6月にリリースした“696936”では、音楽に救われた瞬間を歌っていますよね。Baby Cantaさんにとって、音楽はどのような存在なんでしょうか?
Baby Canta:僕は勉強が嫌いだったので、授業を受けながら「これ、やる意味あるのかな?」とずっと疑問を抱いていて。だけど音楽はそういう葛藤を打ち破ってくれる。「ああ、今日も頑張ろう」という前向きな気持ちにさせてくれる。
Baby Canta:“696936”は、1950年代のロカビリーのノリを取り入れた曲で。昔のロックって、政治や社会問題に対するメッセージを歌っていたり、欲望や感情をぶちまけていたり、もうパッションの塊でしかない(笑)。音もギャーンと歪んでいて、音楽の中で一番ハジけていると思うんですよね。

Baby Canta:僕はそういうロックを聴いてモチベーションを上げることが多かったので、その感覚を“696936”という曲にしました。ロックを聴いて「今日も頑張ろう」と思ったり、オシャレな曲を聴きながら街中を歩いて「俺、今日この街で一番オシャレなんじゃない?」と思ったり、そういう感覚をみなさんにも体感してもらいたいから、音楽を作っているところもありますね。
━つまり音楽は、自分の感情に寄り添ってくれたり、相談相手になってくれる存在であると。
Baby Canta:そうですね。例えば、“Brother”は弟に向けて書いた曲なんですよ。弟は大変な目に遭っちゃったんですけど、そういう時に彼は強がるんです。「全然大丈夫だよ」というふうに。僕はそこに対して、本当は「強がらなくてもいいんだよ」って言ってあげたいけど、面と向かっては言えないから全部歌詞に込めて。弟に「大丈夫なんだ」と心から思ってもらえるような、そんな曲を作りたかったんです。