メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES
グッド・ミュージックに出会う場所

ありそうでない、ちょうどよさ。下北沢「tonlist」で、ホットドッグとジャズを

2023.10.2

#MUSIC

2022年11月、下北沢「鈴なり横丁」の一角にオープンした「tonlist」。こじんまりとしたカフェの佇まいでありながら、その音響と選曲は本格的と評判だ。

音楽評論家・柳樂光隆が、その魅力を紐解く。連載「グッド・ミュージックに出会う場所」、第4回。

薄暗い小劇場の横丁に輝く、ホットドッグのネオン

この店もSNSにたまたま流れてきて見つけた記憶がある。店内の雰囲気が素敵だったのと、なにより選んでいるレコードが良かったのでグーグルマップに保存しておいた。ホットドッグが売りだというのも目を引いた理由だったかもしれない。

初めて店に伺ってすぐに気に入ってからはもう何度も足を運んでいる。今では下北沢に行くと、とりあえず寄る場所になっているし、海外から来たミュージシャンの友達を連れて行ったこともある。ディスクユニオンに寄った後だったり、たいてい中途半端な時間に行くので、コーヒーとホットドッグの手軽さもちょうどいいのだ。

「tonlist」は、演劇の街・下北沢で最も長い歴史を持つ小劇場「ザ・スズナリ」に併設された「鈴なり横丁」の中にある。

tonlistは、ディスクユニオンの入り口からも見える鈴なり横丁を入ってすぐのところにある。鈴なり横丁はアンダーグラウンド / サブカルチャー感も漂う激渋いスペースだが、その入り口脇に唐突に現れるこじんまりとしたカフェは違和感があるくらいに明るくてさわやかだ。

店主の宇野雄哉さん曰く、ここはもともと劇場の事務所だった空間で、事務所が移転してからは倉庫として使われていたそう。カフェをオープンするための物件を探していた時に、たまたま知り合いだったザ・スズナリの関係者からこのスペースの存在を聞き、借りることにしたのだとか。「もともと飲食店だった場所ではないので、ゼロどころかマイナスの状態から工事をして、今の状態にしたんです」と聞いて、その特別な立地や内装にも納得がいった。

構造部分以外の改装は、ほぼ全て宇野さんがDIYで行ったという。 

「DJっぽさ」と「ジャズファンっぽさ」の両面を併せ持つ選曲

それはそうと、僕がこの店を気に入った理由は、その選曲と音の良さだった。tonlistで流れているのはほぼすべてジャズのレコード。新しいものから古いものまで幅広くかかっているのだが、幅は広くてもなんだか必然性を感じさせるまとまりが感じられる。店主の好みが滲み出ていて、スタイルや時代はバラバラでもしっかりこの店の枠に収めてあるのがとてもいいのだ。

僕がこの5年くらいの間に見つけて気に入っている場所にはいくつかの共通点がある。ひとつは「ヒップホップやDJのカルチャーを通過していること」。1950年代のモダンジャズをかけるにしても、それらを通過していることで生まれる感性が感じられる選曲に出会うと僕はグっときてしまう。宇野さんは昔、DJをやっていたことがあって、デヴィッド・マンキューソやDJハーヴィーが好きだったとのこと。どうりで選曲の流れが自然だし、音量などへの細やかな配慮が感じられて居心地がいいわけだ。それと同時にマンキューソやハーヴィーが好きそうなサイケデリックなフックがあるレコードも時々かかる。絶妙な塩梅には理由があるのだ。

近年、僕が気に入っている店のもう一つの共通点に「1980〜2000年代のジャズもかけていること」がある。この辺のレコードを選ぶ店は多くはないし、DJからも敬遠されがち。人気がないのでレコードは安いのだが、内容がいいものが少なくない。ブルーノートと契約する前のカサンドラ・ウィルソンのレコードのすばらしさを僕に再確認させてくれたり、ウィントン・マルサリスが参加しているレコードにハッとさせられたりしたのはtonlistだった。こういう出会いを作ってくれた店にはおのずと何度も足が向く。

宇野さんは「僕は詳しくないですよ」と謙遜するけど、ある面ではDJ的でありながら、ある面ではDJ的ではない文脈も持っている。いろんな引き出しがあることは、選曲から自ずとわかってしまうものだ。

店主の宇野雄哉さん。

記事一覧へ戻る

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS