みらんと小原晩の交換日記『窓辺に頬杖つきながら』 Vol.08
INDEX
from 小原晩 #12 ― 10月29日(日)
昨晩は三軒茶屋のtwililightにて、みらんちゃんと寺田燿児さんを招いて『これが生活なのかしらん』の朗読会を開催しました。みらんちゃん、あらためてありがとう。朗読というのは、ただ声にだして読むということではないのだね。じぶんの奥のほうにあるふわふわとしていたりごつごつとしていたり切り刻まれていたり(それは人によってちがうだろうけど)するものを、ほかの人間に見せてあげるということのような感じ。それってほんとうにすごく大変なことだし、恐ろしいことだし、勇気と鍛錬が必要だと思いました。
みらんちゃんの声は安定して、つとめて明るく、ふくよかで、撫でられるような感じで、ずっと聞いていたいような感じだった。寺田さんの声は内向的で、おちゃらけていて、さみしがりな感じ。
人には人のコンプレックスや傷、ままならないことがあるけれど、そんなことはまるで気にならない瞬間が、内側からちいさく爆発するみたいにときどき生まれて、そのまぶしさのことを忘れずにいたい。二人の声を聞いて、そういうことを思っていました。なんでこんなことを思ったのか自分でもわからないのだけれど。
ほんとうにありがとうね。
from みらん #13 ― 11月2日(木)
晩ちゃん、先日は朗読会、お疲れ様でございました。
朗読をしてみて、そうねえ、思い出すと今でも耳が赤くなるような、なんかけっこう、恥ずかしかったかもしれない。
晩ちゃんの魂はたくましくて、暗がりで、それを私の明るくて、不器用だけど高くありたいポテンシャルがどこまで絡み、どこまでが晩ちゃんでどこからが私なのか。そういう、ひとつにならない色々がずっとありながら読んでました。
戦ってるわけじゃないんだけど、負けそう! 負けそう! みたいな気持ちに何度もなった。そのたび、声のトーンが落ちていったような気がするし、晩ちゃんの言葉たち、おそろし。パワーがあった。全部、ああもう、声に現れるんだなあ、と歌を歌ってるときよりも聴かれているかんじで、恥ずかしかったです。
でも終わってからみんな、褒めてくれて、ほっこり。朗読、またやりたいな。
早々に片付けをして、晩ちゃんと燿児さんと私の3人で打ち上げに行き、私は今日のことを、みんなよくやった、きっと来てくれた人も良い日だったと満ちて眠るだろう、と、それこそつとめて明るくいたわけだけど、その明るさに、晩ちゃんはいつも通りやられていたね。みらんちゃんは明るいなあと何回か言われる。晩ちゃんに言われるそれは嫌な気がしない。なんなら最近ハマってきた。私が明るくふる舞う分、やられる晩ちゃんは晩ちゃんでまた、魂燃やしていくさまが感じられるから。居酒屋で、暑くて白Tの晩ちゃん、かっこよかった! 誘ってくれて、ありがとうね。
さて気がつくと11月になったわけだけども、え、11月? なんでこんなにあったかいわけ? と毎日思っている。お気に入りの赤いセーターがなかなか着れない。汗をかきながら寝ている。それでも近づくクリスマス、今年はどう過ごそうか、考えれば考えるほど着たくなる赤いセーター。悶々としています。
晩ちゃんは寒くなったら楽しみなこと、ありますか。
from 小原晩 #13 ― 11月14日(火)
11月も半ばになり、おとといくらいから急に真冬はやってきて、きっとみらんちゃんはお気に入りの赤いセーターを着ているんじゃないかと存じます。
さむいとあったかいものがうれしくなるでしょう。あれがいいんですよね。暑いのは苦手だけど、あったかいのはだいすき。でもあったかいのをたのしむためには、街中が寒くないといけませんから、そういう意味でやっぱり冬はすきです。あったかいの生まれる季節。冬よありがとう。
風がつめたくなってくるといつもやることがあります。
朝起きたら、まずは窓を開けて、布団にもぐりなおして、顔だけを出す。すると、すっぴんの顔に冬の風がすわあすわあと吹いてくる。首から下はぬくぬくとあたたかい。とてもきもちがいい。私はこれを露天布団と呼んでいます(言わずもがなですが、露天風呂のお布団バージョンです)。みらんちゃんもぜひ、露天布団やってみてね。
最近はいろいろがひと段落してきて、つぎへ向けて休んだり調整したりしています。そのなかでも特に力を入れているのは自分の内なるモチーフについて考えてみること。急なんだけど、私はなにに興味があるのかをあたらめて知りたくなって、大きな本屋さんや図書館に行ってすべての棚をじっくりみたり、映画館に行ったり、知らない街を歩いてみたりしています。
内なるモチーフ。それは書いているうちに浮かび上がることも多いと思うのだけど、この前まで、すりガラスを一枚隔てているみたいによく見えなくなくなっていたから。しかし、行動さえすればいとも簡単に、私のモチーフとはこれとこれとこれだ! となるわけもなく、やっぱり書く中で、時間をかけて、自分も、自分の創作物のことを知っていくのだろうと思います。これからも書くことがたのしみです。
みらん
1999年生まれのシンガーソングライター。
包容力のある歌声と可憐さと鋭さが共存したソングライティングが魅力。2020年に宅録で制作した1stアルバム『帆風』のリリース、その後多数作品をリリースする中、2022年に、曽我部恵一プロデュースのもと 監督:城定秀夫×脚本:今泉力哉、映画『愛なのに』の主題歌を制作し、2ndアルバム『Ducky』をリリース。その後、久米雄介(Special Favorite Music)をプロデューサーに迎え入れ「夏の僕にも」「レモンの木」「好きなように」を配信リリース、フジテレビ「Love music」でも取り上げられ、カルチャーメディアNiEWにて作家・小原晩と交換日記「窓辺に頬杖つきながら」を連載するなど更なる注目を集める中、新曲「天使のキス」を配信/7inchにてリリースした。2023年12月13日には新作アルバム『WATASHIBOSHI』をリリースする。
小原晩(おばらばん)
作家。2022年初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を自費出版。2023年「小説すばる」に読切小説「発光しましょう」を発表し、話題になる。 9月に初の商業出版作品として『これが生活なのかしらん』を大和書房から刊行。