甫木元空と菊池剛からなるバンドBialystocks(ビアリストックス)の3rdアルバム『Songs for the Cryptids』のリリースに際した短期連載。Bialystocksの音楽に心を盗まれた人達に、本人に向けたお手紙を綴ってもらった。
3人目は、映画監督の山中瑶子。山中監督の映画『ナミビアの砂漠』で撮影を担当したカメラマンの米倉伸は映画『はだかのゆめ』や甫木元空が監督したあいみょん“ざらめ”のMVでも撮影を担当するなど、作品を通じてお互いを意識する仲。山中がBialystocksのファンになった理由と、甫木元のお茶目な一面をこっそりと。
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柔軟剤の広告から、焚き火にも似合うアルバム
こんにちは。この手紙を書いている12月初週某日、空がパッカーンとした雲ひとつない晴天です。お正月みたいです。お正月って毎年天気が良いのはなんで?
『Songs for the Cryptids』がリリースされた10月2日、もうすっかり忘れてしまいましたが東京は30度を超えていたようです。あのおかしな暑い時期よりも、今の方が秋っぽい感じがして(ついさっきはお正月みたいだと言ったのに)このアルバムがよりよく合います。
ここしばらく朝夕と聴いていますが、いやBialystocksすごいな、かっこいいなと日々思うわけです。無理やり身体を起こした朝に聴けば、いつからか気分が良くなってきてもう何でも大丈夫だ! と思えるし、夜遅くに帰宅して、朝と変わらず散らかったままの部屋に対してなんの感情も湧かないむなしさにもよく似合いました。それはつまり、柔軟剤の広告ソングにも適している一方で、山奥でパチパチ鳴る焚き火を囲うときにも合う音楽ということで(?)、これは本当にすごいアルバムですよ。
わたしは“聞かせて”が特に好きなんですが、歌詞を見てみるとその理由が何となくわかります。
<意味など無いけど忘れる日々を ohh 響かせ>
<大事な事ばかり続く 大した日々ではない>
突き放したと思ったら引き寄せ、引き寄せたと思ったら突き放す感じもたまらないです。べつに現状の自分や生活を肯定されて背中を押してもらえるなんていうことを言うつもりはなくて、むしろ、日々起こる一つひとつにいちいち意味とかないし、忘れていくけど、でもそれの何が悪いんだっけ? そんなもんではないか。生と死は反対のもではなくて地続きのものであり、過ぎ去ったものともたらされるもの、ぜんぶに区別がなく、動き続けているあわいにあるものなんだと、そんなことを感じるのです!
そもそもBialystocksの良さは、とっても軽やかであるところだと思います。それは音源もMVもライブもそうで、深層を感じさせながらものびのびとした軽さ、風通しの良さがあって、そこにはちゃんと言葉と音との戯れがあるのです。
わたしは「仲間」とか「みんなで一丸となってものを作る」とかいうのがきらいなんですが、お2人は普段はそれぞれ独立して違うところを見据えていながらも、でもやるときはやるという感じがとっても素敵だと思います。音楽家の小田朋美さんがとある別のライブでの演奏について、「お互いに目は合わなくても頭のてっぺんから生えた透明の糸で繋がっている感覚」と言っていて、それを聞いたわたしは、自分の映画の現場もそうありたいなと思ったのですが、それはわたしがBialystocksの活動にずっと感じていたことでもあったのでした。
とか、こんなに偉そうに語ったけれど、お互いの映画の共通のカメラマンである米倉さんを通してはじめて甫木元さんと会ったとき、「映画監督でバンドもやっている」と紹介されて、へえ。ふうん。と思っていました。
そんな人がいるんだ、なんだか器用そうで、信用できないなと思って、しばらく聴いてすらいなかったんですよ! ものすごい偏見でびっくりですね。半年後くらいにやっとファーストアルバム『ビアリストックス』を聴いたら、良すぎて笑ってしまいました。
その偏見はわりとすぐに解消され、甫木元さんの音楽と映画づくりに対し粛々と、淡々と向かう姿勢を、今ではめっちゃ尊敬しています!