う潮の舞台『すいかの種の黒黒』が2月27日(木)から3月2日(日)まで、東京・阿佐ヶ谷アルシェで上演される。
2023年に、ながおあいりによる演劇ユニットとして活動を始めたう潮。同作は、ながおが大学2年生で初めて書いた長編戯曲となっており、2年半前に初演された。歳の離れた兄弟と共に都営住宅に住む夏と、裕福で文化的な家庭に生まれ育った燈の関係を軸に、交わらなかったはずの2人の人生が交わり、激しくぶつかり合った先にある、人間賛歌の物語となっている。
脚本 / 演出を務めるのはながお。出演者には、結木千尋、下村りさ子、牧凌平、村田正純、濱野ゆき子、小林史明、金田佳那が名を連ねている。また3月1日(土)13時の回は、終演後にハイバイの岩井秀人を迎えたアフタートークが開催される。

う潮、3度目の公演になります。
『すいかの種の黒黒』は3年前に私が初めて書いた長編戯曲で、初めて上演した作品の再演です。
初演時には、たくさんの嬉しい感想をいただきました。自分が演劇をやる意味はここにあるんだ!って思いました。
でもそれと同時に、この作品の持つテーマや込めた想いをどこか届けきることができなかったなぁと、ずっと心の片隅で引っ掛かっていました。それで、今回再演する運びとなりました
でも、それだけじゃない気もする。例えば、3年前と今で変わったことはなんだろう。
演劇の知識と経験は多少増えて、いろんな悲しいニュースを目にして、将来のことを嫌になるほど考えて、新たに出会う仲間と疎遠になってゆく仲間がいて…・・・・・
前回の公演が終わってからつい最近まで、私は深くて濃い霧の中にいるようでした。
『疾走』では、目の前の人に対する、この世界に対する無力感に打ちひしがれそうになりながらも走り出してみる物語を描いた。誰かの心には深く届いた気がするけど、どうだろう。分からない。この作品を上演したら、私の心にじとっとこびりついている無力感や虚無感、諦観が薄れることを期待した。変わらなかった。
私は今だってどうしようもなく周りの目に対して臆病で、キョロキョロと周りを見渡す滑稽な自分の姿につくづく嫌になる。
人の悪意が、冷笑が、怖い。wwwがくっつくメッセージは小学校の時から苦手だ。
それなのにそんな私こそが自然と身に着けて内面化してしまった冷笑的な視線は、この世界に埋もれないように、傷つかないように、しぶとく生き延びるための術だったんだろうか。
昨年10月に、タイに旅行に行った。鉄道で片道4時間かけて、第二次世界大戦中に日本軍が主導して作った線路と鉄橋を見に行った。
窓が開け放たれた電車の中から、都会から郊外までの変わりゆく景色をぼうっと眺めながら、その地に住む人たちのことを想った。
ここに住む人たちに私の作る演劇は届くだろうか、と考えた。届かないだろう、と思った。
愛してやまないandymoriの曲を聞き続けた。この人たちの音楽は届くだろう、と思った。
生い茂る草の中に佇んでいる三角帽子のおじいちゃんを見て、ふと思った。
東京という大都市に住んでいて、私が絶対的な存在だと信じて疑わないものたち、システムやルールや文化や慣習は、本当に信じ続けていられるんだろうか。
そんなものたちはいつ崩れるかなんて分からないし、ハリボテにすぎないんじゃないか。
じゃあその中で最終的に信じられるものって何だろう。
最後に残るのは、人と人との営みであり、人が人を想う気持ちであり、つまり愛なんだって、柄にもなく、でも東京にいたら嚙み砕けないような気恥ずかしい言葉が、すとんと腑に落ちた。家族や友人や恋人のことを恋しく思った。
14年前のandymoriインタビューを読んでいたら、こんなことを言っていた。
「理性っていうものが、時に人を傷つけることもあるってことをみんながわかる必要がある」
ドキッとした。
私は長らく、それも幼い頃から、意識的に理性的であるように努めてきた。きっとそれが一番物事を上手く運ぶ方法だって気付いたから、ぐんぐんと理性を育んできた自覚がある。すると感情を抑制する癖が抜けなくなってしまって、今でも定期的に溢れだす。
理性的であろうとするのは、まだ未熟だった私が身に着けたこの社会を生きる術だった。実際に、そうすることで色んな物事が上手く進んできた気がする。
でも、そうか。理性は時に人を傷つけるのか。
言われてみればそうだなぁって思い当たる節がたくさんあるけど、今になってそんなことに気付いた自分に二重にショックを受けた。
この前見た演劇に出て来た人間たちは、みな一様に、どうしようもなくダメダメで危うくてままならなかった。
でも、そんなダメさが可笑しくて愛おしくて、ちょっとでも頑張ってみた瞬間や誰かのことを本気で想ってみた瞬間が美しく輝いていて、涙が出た。ずるいって、羨ましいって思った。社会に狂わされる人々が絶えない現代で、それでも必死に生きている人間たちを愛おしく思えて、そう思えた自分に安心した。
世界に対する無力感はそのままに、それでも人間の営みを祝福するような、人間賛歌だった。それが今の私には必要だった。・・・・・・
さて、ここ最近やっと深い霧を抜け出せたような気がします。
う潮主宰 ながおあいり
3年前と一番変わったのは、分断が進む世の中に対する絶望が深まったからこそ、『すいかの種の黒黒』という物語の持つ光がより輝いて見えるようになったことかもしれない。
信じられるものがあやふやな今だけど、確かに美しく輝いていた瞬間は思い出の中にたくさんある。その大きさや形に差こそあれ、みんなだってそうだと思う。
去の美しかった時間に身を浸して生きていたわけじゃないけど、信じられるものを見失いそうになった時には、躊躇わずにその光を振り返ろうと思った。その光を今という時間に、私たちの行く末に、遠い未来に、見出すことが出来るまでは、そのくらいはいいんじゃないかなって、そう思ってます。
今回はここに、再演する意義を置いてみようと思っています。
この作品の持つ温かさ、チクっと心が痛くなるようなトゲトゲしさ、誰しも身に覚えのあるようなやりきれなさ、そういった普遍的であり個人的な要素を今一度、みなさんの心に届けられたらなぁと思っています。
う潮『すいかの種の黒黒』

脚本・演出 ながおあいり
東京。小学二年生の夏と燈は、児童館で出会った。運命的に仲良くなった。
歳の離れた兄弟と共に都営住宅に住む夏と、裕福で文化的な家庭に生まれ育った燈。
二人の間の些細な違いは、思春期に差し掛かるにつれてぶくぶくと膨れ上がり、
いつしか二人はすれ違い始める。
大学生になった夏と燈は、ある日偶然、再会する。
充実した大学生活を送る燈と、自分の人生に投げやりな夏。
燈はなんとか歩み寄ろうとするも、夏は拒絶してしまう。
そうして二人の関係性は、断絶を迎えたはずだった。
27歳になる年、燈と夏は互いの人生の下り坂で、再び出会い直す。
交わらなかったはずの二人の人生が奇妙に交わり、激しくぶつかり合った先に歌い出す、人間賛歌の物語。
【出演】
結木千尋
下村りさ子
牧凌平
村田正純
濱野ゆき子
小林史明
金田佳那
【日程】
2/27(木) 19:00
2/28(金) 19:00
3/1(土) 13:00/18:00
3/2(日) 12:00/17:00
※受付開始・開場はともに開演の30分前を予定しております。
※開演時間を過ぎてからのご入場はお断りさせていただく場合がございます。お早めにご来場ください。
【会場】
阿佐ヶ谷アルシェ
〒166-0004
東京都杉並区阿佐谷南1丁目36-15 レオビルB1F
JR総武・中央線 阿佐ヶ谷駅より徒歩3分
東京メトロ丸の内線 南阿佐ヶ谷駅より徒歩7分
【料金】
一般:3200円
U-22:2500円
応援チケット(特典付き):6000円
※全席自由席となります。
【ご予約】
下記のURLよりお買い求めください。
事前決済と当日精算の2種類をご用意しております。
https://ushio-ticket.square.site
ご予約は各公演日の前日24時まで受け付けております。
当日券情報については各SNSにてお知らせいたします。
【お問い合わせ】
メール: ushio.stage@gmail.com
【SNS・Web】
X:@ushio_stage
Instagram:@ushio_stage
Web:https://www.ushio-stage.com/
【スタッフ】
舞台監督・舞台美術:蓮見勇太
音響:山中太郎
照明:鈴木俊輔
制作:関美穂
宣伝美術:黄木日菜子