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時代が変わっても人間は運命に踊らされるしかない
法則的に機械仕掛けで動く登場人物を見ていると、人間はどこまで主体的に自らの生を選択しているのかが疑問になる。その時々の状況に応じて、踊っている中から任意に人が選ばれ、受け身的に対応しているだけなのではないか。つまりどの時代に生きようと、人間は運命に踊らされるしかないということを、上記の演出から痛感させられる。それによって、感情移入が可能な人物たちが織り成す人間模様を、観客は距離をもって眺めることになる。たとえ資産家であっても没落することはあるし、成功者であってもかつての恩人を非情に裏切ることもある。あと少しの勇気が出ないばかりで、恋愛関係が進展しないことなどざらだ。現代に苦しみを抱いて生きている人は多いだろうが、大昔の人も同じように苦しんできたのである。そんな人間の性を舞台上に丸ごと提示することで、いつの時代も人はそのようにして生きて死んできたという、普遍的な人間の有り様を感じさせられる。
チェーホフの作品には、そのような人間のいじらしい姿が丸ごと提示されている。だからこそチェーホフの作品を観ることで、いつの時代も人間は同じような悩みや苦しみを抱えながら生きて死んできたのだなと、少し楽になることができる。
苦しみや悲しみを特定の個人の主観的な悲劇ではなく、ある種、誰もが運命として負う仕方がないものとして相対化して捉えるということ。脈々と紡がれてきたこのような人間の在り様は、現在を貫いてさらに100年後の人々にもきっと当てはまることだろう。そう考えれば、この人間の普遍的な宿命は、人類にとっての喜劇とは言えまいか。「悲劇の裏にある喜劇」というチェーホフ作品の神髄を、ケラは物語をそのまま上演し、大時代的とも思えるほど手の込んだ舞台美術や衣装を取り入れて創り上げた。チェーホフの4大作品を上演する「KERA meets CHEKHOV」は、この姿勢を貫くプロジェクトだったことが改めて了解された。『桜の園』の日本初演は、1915年の帝国劇場だった。日本の近代演劇は、西洋で上演されている演劇を日本に移入することに苦労した歴史であり、チェーホフの作品はその代表であった。それから100年以上の時を経て、チェーホフの需要はここまで成熟したのである。

シス・カンパニー公演 KERA meets CHEKHOV Vol.4/4『桜の園』

作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
キャスト
天海祐希 / 井上芳雄 / 大原櫻子 / 荒川良々 / 池谷のぶえ / 峯村リエ / 藤田秀世 / 山中崇 / 鈴木浩介 / 緒川たまき / 山崎一 / 浅野和之
公演スケジュール
2024年12月8日(日)〜27日(金)
東京都 世田谷パブリックシアター
2025年1月6日(月)〜2025年1月13日(月・祝)
大阪府 SkyシアターMBS
2025年1月18日(土)〜26日(日)
福岡県 キャナルシティ劇場
公式サイト:
https://www.siscompany.com/produce/lineup/sissakura2024/