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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

日本のチェーホフ上演におけるひとつの到達点 ケラ版『桜の園』レポート

2025.1.24

#STAGE

撮影:宮川舞子

個性豊かな登場人物と『桜の園』のあらすじ

舞台は19世紀末のロシア。物語の主軸は、ラネーフスカヤ夫人(天海祐希)が、娘のアーニャ(大原櫻子)と共にパリから5年振りに由緒ある屋敷に戻ってくることから始まる。ラネーフスカヤ夫人がパリに旅立った理由は、息子のグリーシャが川に溺れて死亡したショックから逃れるためであった。実は広大な屋敷と桜の園=さくらんぼ農地を代々受け継いできた彼女だが、多額の借金のために売却せねばならない窮地に追い込まれていた。それでいてラネーフスカヤ夫人は、パリに滞在中にも愛人と放蕩生活をし、帰郷してからも金貨を浮浪者に与えるなど浪費を続け、自身が置かれた状況を全く理解していない。隣の地主のピーシチク(藤田秀世)に借金をせがまれても、断り切れずに承諾してしまう。

ピーシチク(藤田秀世)はラネーフスカヤ夫人(天海祐希)に借金をせがむ / 左からラネーフスカヤ夫人(天海祐希)、ドゥニャーシャ(池谷のぶえ)、ヤーシャ(鈴木浩介)、ピーシチク(藤田秀世)、ワーリャ(峯村リエ) 撮影:宮川舞子

祖父の代から農奴としてラネーフスカヤ家に仕えた家の息子で、今は商人としてのし上がったロパーヒン(荒川良々)は、子供の頃に優しくしてくれたラネーフスカヤ夫人を何とか救おうと、桜の園を売って別荘地として開発し、その地代を得ることを何度も進言する。だが思い出深い桜の園を手放すことができないラネーフスカヤ夫人と兄のガーエフ(山崎一)は、一向に耳を貸さない。ガーエフは伯爵夫人の伯母に金策をしたり、約束手形で金を借りて銀行に利子を払おうとしたりと、一応は対策を試みるが失敗。彼らがのらりくらりと優柔不断な対応を続けて現実逃避をした結果、競売の当日にロパーヒンによって桜の園が買われてしまう。そして最後、失意の中で郷愁を抱えながら、ラネーフスカヤ夫人は再びパリへと旅立つ。

古い社会秩序を生きるラネーフスカヤ夫人とガーエフに、新興勢力のロパーヒンが対立する物語は、時代の変化に対応できない旧秩序の崩壊と、新時代の到来が反映されている。本作がモスクワ芸術座で初演されたのは1904年。つまりやがて訪れるロシア革命(1917年)で、社会が大きく変革する時代が先取りされている。以上の大枠の物語に、グリーシャの元家庭教師で万年大学生のトロフィーモフ(井上芳雄)とアーニャの恋愛、ラネーフスカヤ夫人の養女・ワーリャ(峯村リエ)とロパーヒンのもどかしい恋心、小間使・ドゥニャーシャ(池谷のぶえ)、執事・エピホードフ(山中崇)、ラネーフスカヤ夫人の従僕・ヤーシャ(鈴木浩介)の三角関係が絡む。物事が上手く運ばないラネーフスカヤ夫人の悲哀と彼らの恋愛関係は、パラレルに描かれる。そういう意味で、ラネーフスカヤ夫人を含む全員が同列に扱われる群像劇である。

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