INDEX
自分の力を少しずつ見つけて、自分や友だちのために立ち上がれる女性を主人公にしたかった
─本作は、フィンランド出身のふたりが、旅先で働いたオーストラリアのパブでハラスメントを受けた話を記録したドキュメンタリー映画『Hotel Coolgardie(原題)』にインスパイアされたと伺いました。どのような着眼点にインスピレーションを受けたのでしょうか?
キティ:映画祭で『Hotel Coolgardie』を観たときに、ハラスメントが起きてしまう状況に対してすごく正直な見方をしている作品だと思いました。アルコールを飲みすぎてしまうと、その場の「脅威レベル」が上がりますよね。ジョークなのか危ないのか、わからなくなってしまう。その辺りの捉え方がリアルだと思いました。
─前作は最悪なシステムに巻き込まれてしまう主人公でしたが、本作では苦しい状況でも立ち向かう女性・ハンナを主人公にした理由は?
キティ:『アシスタント』の主演だった俳優のジュリア・ガーナー(Julia Garner)と再び一緒に映画を作るならば、今回は自分の力を少しずつ見つけていく女性を主人公にしたいと思いました。彼女自身に大きな変化は訪れません。ただ、次第に「No」と言えるようになったり、自分や友人のために立ち向かえるようになったり、迷いながらも自分を信じられるようになることで、立ち上がれる人になっていきます。

─私からするとハンナは最初から強く感じました。「搾取されない」という意志があり、理不尽な場面を決して許さない。ハンナが恐怖と闘ううえで大事にしていたことはなんだったのでしょうか?
キティ:おもしろい質問ですね……うまく答えられませんが、もとになった映画に登場する女の子ふたりが強い人だった、というのは大きいです。私は彼女たちが、20代ながら「No」とはっきり言える強さにすごく感心したんですね。もし、同じ状況に立たされていたら、自分の意志を伝えられるかわからない。その場のノリに流されてしまうかもしれないし、立ち上がるガッツもないのではないかと思いました。なので、ドキュメンタリーの彼女たちの力強さを本作にも入れたいと思いました。
─監督も、理不尽な場面で流されてしまうことがあるんですね。
キティ:今の私はハラスメントをしてくる人に対して「No」と言えると思いますが、映画に登場する彼女たちは20代と若いです。その年齢で、言葉はわかっても文化が違うなかで、大きなものに巻かれるのではなく自分のために立ち上がれるのは、すごいと思います。

─心苦しかったのが、ハンナが傷を負ってしまったことです。親友のリブがレイプなどに巻き込まれる可能性を考えて立ち向かい、結果身体に傷を負う。男性的な場所で女性が生き抜くためには、そこまでしなければいけないのかと考えさせられたのですが、なぜああいった描写にされたのでしょうか。
キティ:ドキュメンタリーに忠実でありたかった、というのが一番です。ただ、ドキュメンタリーは主人公が糖尿病を患っていたことからアルコール中毒で目が見えなくなってしまう、という非常に落ち込むエンディングだったので、オマージュ的にニュアンスをいれる程度で暴力的な描写は最低限にしました。
私からすれば、彼女は身体のどこも失わず大きな傷は負っていません。オーストラリアで学びを得てより強くなり、より自分のことを信じられるようになったと解釈しています。次に同じようなことが起こっても、真っ先に彼女は自分のために立ち上がれるでしょう。

─彼女は、ここで学びを得て次に進んでいったんですね。
キティ:私は、この映画をロードムービーだと思っています。若いときに人生を大きく変える旅をして、他にはない経験を重ねて大人になっていく。旅とはそういうものであり、その瞬間を捉えた映画です。