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コムアイが語る、日本人としてブラジルで暮らすこと

2025.4.18

#MUSIC

ブラジルの北東部に位置するバイーア州の港町、サルバドール。かつてアフリカから多くの人々が奴隷として連れてこられたこの街に、現在、アーティストのコムアイは滞在している。

近年、訪れた国内外の土地土地の伝統芸能や民俗音楽と感応しながらパフォーマンスを行なってきたコムアイは、サルバドールに暮らすなかで、そこに根付く文化から多大な刺激を受けているという。

そんなコムアイは、来る4月19日(土)、『KYOTOPHONIE ボーダレスミュージックフェスティバル』に出演。ブラジルのアーティスト、フィリペ・カットとのダブル・ヘッドラインとなるステージで、アーティスト・音楽家の小林七生(FATHER)とのデュオでのライブパフォーマンスを行う。

サルバドールをはじめとした、世界各地での滞在から宿ったものは、『KYOTOPHONIE』においてどのように表現されるのか。パフォーマンスのインスピレーション源の一つである、コムアイが体験したサルバドールの文化や音楽事情についてのインタビューを、現地の熱を感じる動画や写真とともにお届けする。

サルバドールは日本で言う、奈良や京都?

─ブラジルにはいつから滞在されているんですか?

コムアイ:2024年の3月からですね。その間に、合計して7、8ヶ月ぐらいは滞在していると思います。

KOM_I(コムアイ)
声と身体を主に用いて表現活動を行うアーティスト。日本の郷土芸能や民俗学、北インドの古典音楽に影響を受けている。現在はブラジルのバイーア州に滞在し、ペルーのアマゾンでの出産体験を本にするべく執筆中。主な作品に、屋久島からインスピレーションを得てオオルタイチと制作したアルバム『YAKUSHIMA TREASURE』や、奈良県明日香村の石舞台古墳でのパフォーマンス『石室古墳に巣ごもる夢』、東京都現代美術館でのクリスチャン・マークレーのグラフィック・スコア『No!』のソロパフォーマンスなど。水にまつわる課題を学び広告するアーティビズム・コレクティブ『HYPE FREE WATER』をビジュアルアーティストの村田実莉と立ち上げる。NHK『雨の日』、Netflix『Followers』、映画『福田村事件』などに出演し、俳優としても活動。音楽ユニット・水曜日のカンパネラを2021年に脱退。現在はブラジル、バイーア州に滞在中。

─そもそもどうしてブラジルに滞在されることになったんでしょう。

コムアイ:もともと私はインドに行きたかったんです。数年間インドだけに通っていて、バンガロールの先生に歌を習ったりもしてきたので、残りの人生はインドで過ごすつもりと周りに言っていました。「嘘やん、薄っぺら!」と思われるかもしれないですけど(笑)、本当に。

─そんなことないです(笑)。

コムアイ:いまもインドへの気持ちを捨てたわけではないんですけど、パートナーも私も同じ助成金に応募していて、その行き先が私はインドで、彼がブラジルだったんです。両方受かったら両方行くつもりで。でも私は落ちまして。彼だけ受かったので、一緒にブラジルに行くことになったんです。ブラジルだとまた新しい言語をやらなきゃいけないなー(※ブラジルは公用語がポルトガル語)って、最初はそこまで乗り気じゃなかったんですけど、行ってからどんどんその魅力に飲み込まれていきましたね。

本人提供:ボンフィン教会

─どんなところに惹かれましたか?

コムアイ:私がいるのはバイーア州のサルバドールという街なんですけど、とにかく文化が面白くて、こんこんと湧き出るカルチャーの泉に触れているような感じ。サルバドールは人口の多さでいうとブラジルでは4番目の都市で、昔は首都だったのでそういう意味で奈良や京都みたいな感じかな?ブラジルは、ポルトガルの占領時代に奴隷制があって、アフリカのいろんな国のいろんな部族の人たちが着の身着のまま、船にすし詰め状態で連れてこられたんですけど、サルバドールはそういう船がたくさん着いた港のある街だったんです。だからいまでもアフリカ系の人がとっても多くて、そのことが、いま私が触れている文化のすべての根っこになっています。

本人提供:イエマンジャの日

─どんな文化に関心を寄せていますか?

コムアイ:いま習っているカポエイラのルーツも黒人奴隷にあるんです。奴隷として働かされた人たちが、踊りのふりをしながら究めていた格闘技といわれていて、歴史の中で美しいものをつくりながら支配者階級に抵抗してきた、その身体性をなぞることに興味を感じています。あとは、ブラジルに連れてこられたアフリカの人たちによって発展した、アフロブラジリアン宗教と呼ばれるもののに、カンドンブレという多神教の宗教があるんですけど、その儀礼が言葉では言い表せないような強烈で美しいものなんです。行く前に知って見てみたいと思っていたので、カンドンブレがなかったら、ブラジルに行くことに納得していなかったかもしれないです(笑)。

コムニダージでのカポエイラ。向こうの闇は海。イエマンジャの日特別の機会で、毎週やるホダよりも一段と多幸感が溢れ、神聖さと喜びが溢れていました。こういう時はみんな白を着ます。(本人コメント)

─ブラジルはコーヒー農園で働いていた方など、歴史的に日系の方も多いですよね。

コムアイ:そうなんです。日本からブラジルに行くと、やっぱり日系の移民の人たちに思いを重ねてしまうところがあります。歴史を紐解くと、ブラジルは奴隷制が終わったあと、コーヒー農園などの不足した労働力として、日本やほかの国からの移民を受け入れた経緯があるので、アフリカの人たちが奴隷としてブラジルに連れてこられたこととの延長に、日系の移民の人たちが強いられた過酷な労働があります。すごく繋がっているんですよね。だから、アフロブラジリアンの歴史に敬意を払うことは、日本人としてブラジルにいるうえで、とても重要なことだと思っています。そういう理由もあって、さっき話していたような文化に興味があるんです。

ビーチ文化は平等。裕福かどうかは関係ない

─昨今日本では、日本で暮らす海外ルーツの方に対して排外主義的な考え方を見聞きすることがあります。コムアイさんはいま日本から来た人としてブラジルに滞在していて、どのような実感がありますか?

コムアイ:個人の実感としては、街を歩いているだけでみんな話しかけてくれるし、「外国人なのにいてごめんなさい」みたいな気持ちになったことは一度もないです。日本に来た人たちがそういう体験をさせてもらえているかはわからないので、そこは日本人としては申し訳ない気持ちになりますね。サルバドールにはほとんどアジア人がいないから珍しがられます。なにしろ地球の反対側どうしなので「ドラマがすごく好きなんだよね」と目を輝かせて言われて、「それ多分韓国かな〜」みたいなことはよくありますけど(笑)。もちろんブラジルも問題を抱えていて、例えば前回の選挙では本当に僅差でいまの政権になっているので、また今度、排外的だったり、LGBTQIA+の人の権利がないがしろにされるような政権になる可能性もある、紙一重の状況ではあります。(※)

※ブラジルではLGBTQIA+への排外的な事件が社会問題にもなっているが、LGBTQIA+の権利を守ることに積極的な態度を示すルラ現大統領は、次点のボルソナロと僅差で当選している。

いま人生で初めて海沿いに住んでいて気づいたのは、ビーチの文化ってすごく平等だなということです。海に行くと、いろんな人と出逢えます。海って水着は着ているけど、ほとんど裸みたいなもので、裕福な人もそうでない人も同じように泳いだり寝転んだり。 

本人提供:サルバドールの海岸

─地域によってはジェントリフィケーションが進んで富裕層向けに隔離されたビーチがあったりもしますが、本来開かれた場所ですよね。

コムアイ:サルバドールもホテルや高層マンションの建つ場所は、そういうものがあるかもしれないですけど、公共のビーチがほとんどです。住んでいるところのそばには、ポルトガル語で「コミュニティ」を意味する「コムニダージ」と呼ばれるスラム街があって。近所からいろんな所得の人たちが水着のまま歩いて来ていて、もちろんビーチは     無料だし、裕福かどうかは関係なく、みんなここでは平等に堂々と楽しめる、自由な空気があります。日本では禁止されていると聞いたけど、ブラジルだとビール片手に泳いでる人もいますね。感動したのは、大晦日の年越しのとき、みんな白い服を着て海に行くんですよ。居酒屋とかバーとかレストランに入らずに、道端やビーチに家から机やらご飯を持ってきてパーティ会場にしてしまう。で食べたり飲んだりして、カウントダウンが終わって年が明けたら、遠くの方で花火が上がっているのをみんなで見て、「わあ」とか言ってハグし合ってました。本当にお祝い上手です。

バイーアの年越し

─そういうとき、どんな音楽が聴こえてくるんですか?

コムアイ:みんながスピーカーを持ってきて、それぞれ勝手に好きな音楽をかけています。歩くと立体的にいろんな音楽が混ざってきて、音楽の洪水みたいな感じです。サンバが多くて、あとはアシェ(※)というジャンルが人気ですね。

※ブラジル発祥の音楽ジャンル。

─それらが四方八方から(笑)。

コムアイ:みんな本当によく歌うし踊るんです。壁のないカラオケボックスみたいな?でも疲れる人たちじゃなくて、一緒に気分を持ち上げてくれる感じがするので、ブラジルにいる時は、自分の性格の中の陽気な部分がどんどん引き出される感じがします。

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