あんなに大きな合唱を、日本で、ましてや日本のバンドのライブで聴く日が来るなんて思いもよらなかった。観客の誰もが声の限り同じ曲を歌うその幸せそうな光景は、YouTubeで見る海の向こう、外国のライブのもので、周囲の目を気にしがちな日本では見られないものだと思っていた。ONE OK ROCKのライブを見るまでは。
9月14日(土)と15日(日)の2日間、東京・味の素スタジアムで開催されたONE OK ROCKのライブは、世界7都市8公演を回るバンド最大規模のワールドツアー『ONE OK ROCK 2024 PREMONITION WORLD TOUR』の幕開けとなるもの。屋外の単独公演としては、2日でおよそ11万人を動員した2016年開催の『ONE OK ROCK 2016 SPECIAL LIVE IN NAGISAEN』以来、8年ぶりだという。
フロントマン・Takaが終始口にしていた「日本のバンドとして世界を制する」という言葉が印象に残った。東京公演を皮切りに台湾、ヨーロッパ、そして北米と文字通り世界を回り、さらには新しいアルバムの制作にも取り掛かっているONE OK ROCKは、間違いなくグローバルスケールの活動を展開していると言えるだろう。しかし、実績以上にスタジアムを掌握するライブパフォーマンスとそれに呼応するオーディエンスの熱量は「世界を制する」ことが夢のまた夢ではないことを証明していた。
ここでは、初日9月14日公演の模様をレポートする。
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およそ8年ぶりの野外単独ライブにしてバンド史上最大規模のワールドツアー。ファン垂涎のセットリスト
いろんな街で聞こえてくる秋祭りのお囃子と体感気温が釣り合わない9月の土曜日、およそ5万人のONE OK ROCKファンが味の素スタジアムに駆けつけた。電車の車内から今回のツアーTシャツを着た人で溢れ、駅を出るとさらに過去のツアーグッズを纏う人やPay Money To My Painといった日本のラウドロックを牽引してきたバンドのグッズを身につける人たちが最寄駅から会場までの道のりを埋め尽くし、あらゆる世代のロックファンから支持を受けていることが伝わってくる。
開演までの間、会場では2024年を象徴するアーティストのTylaやDua LipaといったアーティストからDepeche Modeまで、ジャンルや世代に縛られない楽曲が流れ、続々と入場する観客を受け入れる。その選曲は、『Eye of the Storm』(2019年)でアメリカのシーンから学んだことを詰め込んだポップアルバムに挑戦し、『Luxury Disease』(2022年)で再びロックに正面から向き合ったONE OK ROCKの姿勢とリンクするかのよう。
定刻を少しすぎた頃、客入れの音楽が止み、スクリーンにはTakaの過去の力強い発言の数々が映像として流れる。新しい時代の先駆者になる岐路に立たされていること、前時代的な既存のシステムが全く通用しない令和の時代にONE OK ROCKのやり方を突きつけていくこと。日本のバンドがいつか世界を制する可能性にONE OK ROCKが挑み続ける限り、夢や希望がない時代でも諦めずに生き抜いて欲しいというファンへのメッセージ。世界を相手に戦うバンドのフロントマンの熱量は観客に伝播し、客席から突き上げられる拳は段々と高くなっていく。
ステージ後方にTaka(Vo)を除く3人のメンバーToru(Gt)、Ryota(Ba)、Tomoya(Dr)が登場し、それぞれの楽器の音を重ねていく。そしてステージ前方、The Mad Capsule Marketsを彷彿とさせるガスマスクを着けたTakaが登場すると会場の盛り上がりは最高潮に。マスクを取り、最初に披露された楽曲は”Delusion:All”。先述のTakaの発言通り、民主主義や既存のシステムに疑問を投げかけた歌で、早くも友人同士で肩を組んでステージ上の4人に応えようとするオーディエンスがあちこちで見受けられた。
続けて披露されたのは、”欠落オートメーション”と”Re:make”。イントロが鳴るたびに1曲前よりも大きい歓声が起こる。オーディエンスの興奮は止まるところを知らず、もはや全席指定であることが不憫にすら思えるほどの盛り上がり。10年以上前にリリースされた楽曲の連続に驚いたオーディエンスからのどよめきなど、折り込み済みかのような表情を見せるTakaが「皆さんと花火大会に負けない楽しい夏の思い出を作りに来ました!」と、この日初めてのMCで観客に挨拶を告げて演奏されたのは”じぶんROCK”。これもまた10年以上前の楽曲だが、Ryotaのたった2つのスラップ音は一瞬で5万人のオーディエンスを掌握し、空には虹色の煙幕があがった。<お手手のシワとシワをあわせんの‼︎>と巻き起こった大合唱は壮観だった。
Toru、Ryota、Tomoyaも一言ずつこの日のライブへの意気込みを交えた挨拶を済ませる。4人の掛け合いからは、ライブをする国が増えても、ツアーの規模が大きくなっても変わらないものがバンドのコアにあることを感じさせ、来年20周年を迎えるバンドの確かな信頼関係が伝わってきた。