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(“友達のうた”は)「本当に知っている気持ちについての言葉だけが並んでいる」(今泉)
―今泉さんはそんな不安もあったということですが、ズーカラデルのみなさんは、実際に『冬の朝』を見ていかがでしたか?
吉田:自分の中に、この曲を演奏するときに明確に思い浮かべている景色があって。その場所とか時間がこの曲を形作っている要素なんですけど、そこにいる人間の気持ちみたいなものは、そういえば考えたことがなくて。自分が思い浮かべている景色によって、結果的にそこにいる人たちはこういう気持ちになっている、と思っていたんですけど、逆にこういう気持ちの人が持っている景色が<迷い疲れてようやく見つけた小屋>だったり、『冬の朝』の居酒屋やラブホテルなのかもしれない。リリースすることで曲に新しい解釈がたくさん生まれますけど、のっけから正解をもらったような気がしてうれしかったです。すいません、偉そうに。

今泉:いえいえ。ありがとうございます。
吉田:自分の作った曲が他人のウォークマンから流れたらいいな、と思ったのが曲を作りはじめたきっかけの一つだったので、その意味を改めて感じることができました。なんというか「俺の曲だけど、あんたの曲でもある」という感じなんですよね。
今泉:楽曲でも映画でも、それぞれが受け取ったときの感じ方がバラバラなのはいいことだと思ってて。自分は映画とかドラマを作る上で、共感というものを疑っているんです。みんなが同じ気持ちになるよりも、自分なりに深く解釈できるようにしたいというか。例えば映画館で、隣の人には全然わからないかもしれないけど、なんか自分にはわかる、みたいな。
―鷲見さんはいかがでしたか?
鷲見:主人公が誰かわからなくなる感じが面白かったです。誰か1人を応援するというよりも、「この人はどんな人間なんだろう、この人をどう見ればいいんだろう」と自分に問いながら見ていくというか。見進めるとそれがどんどん変わっていくんですよね。

今泉:嬉しい感想です。主人公が変わることに関しては意識的で。『冬の朝』の劇中で、2回“友達のうた”が流れます。脚本では美穂と田辺がタバコを吸うシーンだけの予定だったんですけど、現場でラストシーンをカメラマンさんの提案でワンカットで撮ることになり、「曲をかけるのはここかもしれない」と思って。編集のとき、両方に曲を流したらどちらも捨てがたかったんですよね。ラストシーンで流したら、その瞬間に主人公が変わる感じがして。それくらい、どんな状況で聴くかによって<一匹と一匹>の相手が変わると思うんです。

山岸:自分は冒頭で美穂と田辺がやり取りしていた、「言葉で気持ちを表すのは無理」というのが物語全体を通して大きなテーマだと思いました。言葉にできないわけじゃないけど、言葉にした途端に陳腐になってしまう感覚とか、そういうことを3人は感じているのかなと。音楽の感想を言葉にするときも同じなんですよね。

今泉:言葉で説明するかしないかで言うと、本当に“友達のうた”の歌詞がこの映画の感情を表現してくれてる気がして。歌詞がすごく好きなんです。自分がセリフを書くときもそうだけど、特別な言葉を使っていないけど、いろんな選択肢の中から選び取られた、この言葉でしかない言葉というか。本当に知っている気持ちについての言葉だけが並んでいるんですよね。だから、セリフがなくてタバコを吸っているだけのシーンでかけると、登場人物の心の中が歌詞として流れてくる感じがするんです。