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今泉力哉とズーカラデル対談 新作映画『冬の朝』は“友達のうた“が題材

2025.3.26

ズーカラデル“友達のうた”

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北海道出身の3ピースギターロックバンド、ズーカラデル。今年結成10周年を迎える彼らが、その当時からずっとライブで歌い続けているのが、2月19日に配信リリースされた“友達のうた”だ。

雪景色の中撮影されたMVも印象的だが、それとは別にこの曲から着想を得た短編映画『冬の朝』が制作されることになった。監督 / 脚本は、『愛がなんだ』や『街の上で』などで知られる今泉力哉。最近、漫画原作の映画やドラマが続いていた今泉にとって、『窓辺にて』以来のオリジナル脚本となる。

田辺(佐々木詩音)、美穂(内藤詩音)、坂井(内堀太郎)という男女3人の簡単には言い表せない関係性の機微が、何気ないセリフとリアルさに溢れた演技、そして笑ってしまうような、地獄のような場面設定によって描き出されている。つまり、今泉作品のエッセンスが充満している40分。“友達のうた”の歌詞をなぞるだけではこうはならないだろうという世界の広がりに眩暈を覚える。

両者が話しはじめると、それぞれの作品を通してお互いのクリエイターとしての本質が顕わになり、人間関係や、創作の奥深くに分け入っていくような対談になった。

映画『冬の朝』は今泉節が炸裂のオリジナル脚本

ーまず、今泉監督が今作を手がけることになった経緯を教えてください。

吉田(Vo / Gt):簡単に言うと、こちら側から思い切ってお話を持って行ったんです。ハードルの高さもよくわかってなかったので、馬鹿になってお願いしてみようと。

山岸(Dr):10周年だしね。

鷲見(Ba):「絶対お忙しいし無理だよ」と思いました(笑)。でも“友達のうた”は僕たちがライブハウスでずっと歌っている曲で、ステージにいる自分たちとフロアにいるお客さんが対峙しているようなイメージがこびりついていて。でも曲をリリースすると、聴ける場所はライブハウスだけじゃなくなるし、いろんな風景と繋がっていくと思うんです。だから今泉監督が“友達のうた”を作品にするとなると、どういう人間模様が描かれるのか、すごく興味が湧きました。

ズーカラデル / 左から鷲見こうた(Ba)、吉田崇展(Gt / Vo)、山岸りょう(Dr)
札幌発の3ピースロックバンド。2015年結成、2018年3月に現体制となり、2025年に結成10周年イヤーを迎える。2月19日にデジタルシングル“友達のうた”をリリース。

今泉:そういうことだったんですね。スタッフさんから連絡が来たんですけど、どういう話の流れで俺の名前が出たのか不思議でした。

―ミュージックビデオじゃなくて映画を撮ってください、というオファーだったんですか?

今泉:最初は「15分くらいのショートムービーを」ということだったんですよ。娘からズーカラデルを教えてもらって聴いてはいたけど、自分に撮れるのかちょっとわからなくて。でも曲を聴いたら、いろんなことが思い浮かんだんですよね。そこから数日であらすじが書けました。まずは辛さも含んだ空気感が思い起こされて、そこから書きはじめて。

あらすじ:彼氏がいるが他の男とも寝ているらしい美穂と、彼女がいるが美穂に好意を寄せている田辺、美穂とどこかで知り合った坂井が居酒屋で終電を逃し、3人でラブホテルに向かう。

―それでこのストーリーになるのが今泉さんという感じがしますね。

今泉:こういう答えのない状況下にいる人は、この曲に救われることもあるだろうなと思いました。<一匹と一匹>と歌詞にはあるけど、これは多分2人じゃなくて3人の方がいいなとか、そうやって考えを深めていきました。でも2回目の打ち合わせで「一応、ライブハウスでのバンドとお客さんの関係性を表す曲になっています」って言われて(笑)。本当に好き勝手に脚本を書いた後だったから、ちょっと悩んで。“友達のうた”では純度の高い関係性だったものが、『冬の朝』だと濁った関係になったように思われるかもしれないなと。

今泉力哉(いまいずみ りきや)
1981年生まれ、福島県出身。映画監督。2010年に『たまの映画』で商業映画デビュー。その後も『サッドティー』(2014年)『退屈な日々にさようならを』(2017年)『愛がなんだ』(2019年)『街の上で』(2021年)『ちひろさん』(2023年)などの話題作を次々と発表。最新作『アンダーカレント』が2023年10月6日公開。

(“友達のうた”は)「本当に知っている気持ちについての言葉だけが並んでいる」(今泉)

―今泉さんはそんな不安もあったということですが、ズーカラデルのみなさんは、実際に『冬の朝』を見ていかがでしたか?

吉田:自分の中に、この曲を演奏するときに明確に思い浮かべている景色があって。その場所とか時間がこの曲を形作っている要素なんですけど、そこにいる人間の気持ちみたいなものは、そういえば考えたことがなくて。自分が思い浮かべている景色によって、結果的にそこにいる人たちはこういう気持ちになっている、と思っていたんですけど、逆にこういう気持ちの人が持っている景色が<迷い疲れてようやく見つけた小屋>だったり、『冬の朝』の居酒屋やラブホテルなのかもしれない。リリースすることで曲に新しい解釈がたくさん生まれますけど、のっけから正解をもらったような気がしてうれしかったです。すいません、偉そうに。

吉田崇展(Gt / Vo)

今泉:いえいえ。ありがとうございます。

吉田:自分の作った曲が他人のウォークマンから流れたらいいな、と思ったのが曲を作りはじめたきっかけの一つだったので、その意味を改めて感じることができました。なんというか「俺の曲だけど、あんたの曲でもある」という感じなんですよね。

今泉:楽曲でも映画でも、それぞれが受け取ったときの感じ方がバラバラなのはいいことだと思ってて。自分は映画とかドラマを作る上で、共感というものを疑っているんです。みんなが同じ気持ちになるよりも、自分なりに深く解釈できるようにしたいというか。例えば映画館で、隣の人には全然わからないかもしれないけど、なんか自分にはわかる、みたいな。

―鷲見さんはいかがでしたか?

鷲見:主人公が誰かわからなくなる感じが面白かったです。誰か1人を応援するというよりも、「この人はどんな人間なんだろう、この人をどう見ればいいんだろう」と自分に問いながら見ていくというか。見進めるとそれがどんどん変わっていくんですよね。

鷲見こうた(Ba)

今泉:嬉しい感想です。主人公が変わることに関しては意識的で。『冬の朝』の劇中で、2回“友達のうた”が流れます。脚本では美穂と田辺がタバコを吸うシーンだけの予定だったんですけど、現場でラストシーンをカメラマンさんの提案でワンカットで撮ることになり、「曲をかけるのはここかもしれない」と思って。編集のとき、両方に曲を流したらどちらも捨てがたかったんですよね。ラストシーンで流したら、その瞬間に主人公が変わる感じがして。それくらい、どんな状況で聴くかによって<一匹と一匹>の相手が変わると思うんです。

左から田辺(佐々木詩音)、美穂(内藤詩音)、酒井(内堀太郎)

山岸:自分は冒頭で美穂と田辺がやり取りしていた、「言葉で気持ちを表すのは無理」というのが物語全体を通して大きなテーマだと思いました。言葉にできないわけじゃないけど、言葉にした途端に陳腐になってしまう感覚とか、そういうことを3人は感じているのかなと。音楽の感想を言葉にするときも同じなんですよね。

山岸りょう(Dr)

今泉:言葉で説明するかしないかで言うと、本当に“友達のうた”の歌詞がこの映画の感情を表現してくれてる気がして。歌詞がすごく好きなんです。自分がセリフを書くときもそうだけど、特別な言葉を使っていないけど、いろんな選択肢の中から選び取られた、この言葉でしかない言葉というか。本当に知っている気持ちについての言葉だけが並んでいるんですよね。だから、セリフがなくてタバコを吸っているだけのシーンでかけると、登場人物の心の中が歌詞として流れてくる感じがするんです。

偶然居合わせた一匹と一匹>の関係の本質

今泉:ところで、この曲は本当に最初からバンドとお客さんの関係を描いたものだったんですか? 俺はガチガチの恋愛の歌だと思ったので。なんなら、吉田さんの恋愛の実体験が歌詞になってると思ったぐらいで。そう聴いてるファンもいると信じたい(笑)。

吉田:この曲を書いたのはまだバンドを組む前、1人で弾き語りをやっていた時期で。その時点では、ライブハウスでの関係性とかは反映されていなくて、ただ空間にポツンと歌っている俺が1人でいて、たまに誰かが通りかかるような感覚というか。

今泉:なるほど! すごく個人的な曲に聴こえました。みんなを鼓舞する応援歌ではないというか。『ちひろさん』という映画もまさにそういうところを気にして作ったんです。ちひろさんが積極的に誰かを助けに行くというよりは、会話したり、触れたりしてたら勝手に向こうが楽になっていくような。同じように、心地よい温度で人を助ける曲だなと思っていました。

『冬の朝』も、人と人との距離感に集約されますよね。「人間関係は親密であればあるほどいい」というような規範がある一方で、親密さを求めるがゆえにあんな煩悶も生まれるんだと思うんです。田辺、美穂、坂井がそれぞれお互いに求める関係性の深さも違って、そこに折り合いがついていないというか。

今泉:そうそう、セリフでも美穂は田辺を「友達」と言ってますからね。

鷲見:釘を刺してますよね(笑)。

ーそういった親密さを求めない、歌詞にある偶然居合わせた一匹と一匹くらいの距離感だから成立する互助的な関係もあるんじゃないか、ということなんだなと。

今泉:「親密さに気をつけましょう」っていう啓蒙ビデオになってるかもしれない(笑)。友達ってどういう関係を指すのか難しいですよね。恋人なら「付き合ってください」という言葉ではじまったりするけど、「友達になってください」は言ったことがないし。俺は友達がいないことがコンプレックスで。1人でもいいから親友みたいな相手がほしいと子どもの頃から思ってるんですけど。この曲の「友達」がバンドのお客さんのことを意味しているなら、すごく幅の広い言葉だなと。

ー“友達のうた”で描かれている関係性は、世間一般の「友達」のイメージよりもドライですよね。

吉田:タイトルをつけたのは最後でした。鼻歌で作りはじめて、<朝が来たら私たち>という歌詞を思いついて、そのまま冒頭から歌詞を繋げて作ったんですよね。で、完成してタイトルを考えるときに、「友達」だなと思って。クラスで席が隣で友達になったみたいなのとは違うけど、「じゃあこの関係をなんて言うの?」となったら友達でしかないかもしれない。「友達ということにします」という宣言というか。

ーバンドメンバーというのも、一言では形容しがたい関係性じゃないですか?

今泉:確かに。バンドメンバーってどんな感じなんだろう。

吉田:難しいですね。特にこのバンドは友達だった時期がないんですよ。同級生とかじゃないし、はじめて会ったときからずっとバンドメンバー。

鷲見:年齢も違うし、ルーツも、やってきたことも全然違うし。どういう人間かはメンバーになってから知った感じです。

吉田:山岸とは別のバンドをやっていたので、ある程度関係性はできてたんですけど、鷲見は面白いベースを弾くなと思って声をかけたのが最初だったので、人間性が合わなかったら即終わりでした。

今泉:3人で頻繁に飲んだりはするんですか?

吉田:ないですね。

鷲見:でも、一緒にいる時間はとてつもなく長いので。だいたい毎日スタジオにこもって、暇さえあれば曲作りをしたいんです。よく、こういうのを「家族みたいな関係」みたいに表現するじゃないですか。でも、家族では全くないんですよね。

今泉:そんな温度ではなさそうですよね。ベタベタしてないし。家族という言葉もいいものとして使う人が多いけど、それも怪しいですよ。

鷲見:そういう意味でも、家族でも友達でもないし、同僚もまた違う。バンドメンバーが一番しっくりきます。

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