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ドラマ『舟を編む ~私、辞書つくります~』が描く「今」の肯定と、変化する言葉と人

2025.8.19

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©NHK
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ORICON NEWSの「2025夏ドラマ-序盤-ランキング」で1位に輝くなど、ドラマ好きの中で評価が高まっているドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』(NHK総合)。

8月2日・3日にはドラマで使用した小道具なども展示された『舟を編むファンフェスティバル in 神保町』も開催され、行列ができるほどの盛況となり、その人気度の高さも伺えた。

原作小説から舞台となる時代も変え、コロナ禍もしっかりと描いた本作の第6話~第9話について、前半を振り返った記事に続き、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

「業」を持ち寄って、皆で「その先」に向かう後半戦

「会社を守る」という「業」を背負う玄武書房・新社長・五十嵐(堤真一) / ©NHK
「会社を守る」という「業」を背負う玄武書房・新社長・五十嵐(堤真一) / ©NHK

『舟を編む~私、辞書つくります~』の登場人物たちは皆、辞書作りに限らず、何か「好き」という思いを原動力に行動する。物語後半の第6話から第9話で、その「好き」はさらに極まって、「業」になる。

辞書によれば「業」とは「人が担っている運命や制約。主に悪運」を言うそうだ。辞書『大渡海』の紙での出版を廃止し、デジタルのみにするという提案をもたらした玄武書房の新社長・五十嵐(堤真一)もまた、「会社を守る」という「業」を背負うからこそ、みどり(池田エライザ)や馬締(野田洋次郎)たちとぶつかる。同じく後半に登場した、『大渡海』の装丁を担当するブックデザイナーのハルガスミツバサ(柄本時生)も、「本が大好き」だからこそ、「白紙でも売れる」と言われる自分がこの仕事を受けることが『大渡海』を貶めることにならないかと葛藤する。その姿を見たみどりは、これもまた「業」なのだと思う。

「もう辞書編集部だけの舟じゃない」という第9話の西岡(向井理)の台詞ではないが、本作後半戦は、五十嵐もハルガスミも含めた大勢の人々が、それぞれの「業」を持ち寄って『大渡海』という舟に乗り、皆で「その先」に向かう話だ。「言葉」も「人」も、誰一人取りこぼさずに前に進もうとする、三浦しをん原作×蛭田直美脚本の力に圧倒される。

「今」の肯定により、辛かった過去も受け止める

職場は変わっても、みどり(池田エライザ)を導いてくれる元上司・凛子(伊藤歩) / ©NHK
職場は変わっても、みどり(池田エライザ)を導いてくれる元上司・凛子(伊藤歩) / ©NHK

「年とるってさ、いいこといっぱいあるんだけど、そのうちの1つが、その先が見れることだと思うんだよね」

これは、第7話における、みどりの元上司・凛子(伊藤歩)の台詞だ。人間関係の変化のみならず、「挫折が本当の夢のはじまりだったり」するといった、誰かの人生が好転する様子を目の当たりにすることを「ハッピーなその先が見れるのって嬉しい」と表現する凛子。そして、そんな彼女からの言葉を受け止め、その後の第8話で父・慎吾(二階堂智)との会話に活かすみどり。本作の登場人物たちは、例え悲しい過去があったとしても、過去の「その先」であるところの「今」、ともに過ごすことのできる幸運を喜ぶがゆえに、その人にとっては辛かった過去ごと受け止める。

例えば第6話で「よかったね、その日にりょんぴーがみどりちゃんと同じ帽子をかぶって、SNSにあげてくれて」と馬締に話しかける香具矢(美村里江)の台詞。それは、みどりがかつてファッション誌の読者モデルをしていた頃、謂れのない「匂わせ疑惑」によって炎上したことが、回りまわってみどりが辞書作りに情熱を注ぎ、馬締と香具矢と暮らす幸せな今に繋がっていることを示している。

さらには同じく第6話、天童(前田旺志郎)が子どもの頃、松本(柴田恭兵)と出会っていたことをみどりに明かす場面もそうだ。みどりは「すごいね、その時、松本先生が通りかからなかったら。天童くんがその映画見て歌詞が悔しくて泣いてなかったら。その歌詞が悔しいって思える天童くんじゃなかったら、今、天童くんはここにいないんだね」と天童に言う。それは、松本と天童の運命の出会いも、天童の過去も彼自身も、そして、彼とともに辞書を作ることができている今この瞬間をも、肯定する言葉だ。

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