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美術館の床に自由に絵を描ける

会場に入ると、なんと床一面に落書きが! 最初の展示室は荒川ナッシュ医の作品『メガどうぞご自由にお描きください』の舞台となっており、毎週日曜のパフォーマンス日には備え付けのクレヨンで誰もが自由に絵を描くことができる。美術館の床に、直に、である。絵を描けるとは聞いていたけれど、てっきり画用紙か何かを敷き詰めているのかと思ったら……思いっきり、床である。なお本作は2021年にイギリスのテート・モダンで発表されて好評を博したもので、この後2025年にはドイツのミュンヘンへ巡回予定とのこと。

取材時には近隣の小学生たち100名ほどによってペイントがされた状態だった。会期終了時にはさらなる落書きで床が埋め尽くされるのだろう。面白いことに、「どうぞご自由に」と言われて人が描くのは、おおむね「好きなモノ」か「怒りの感情」のようだ。ちょっと、表現欲求の根元にあるものを突きつけられたようでハッとする。
美しい絵を掲げる美術館の床に、自分の手で美しくもない絵を描く行為は、その2つの違い、美しさや価値の基準ってなんだろう? と考え直すきっかけになる。例えばここにピカソが来てサラサラっと鳩なんかを落書きしたら、それは保護されるんだろうか……そんなことを考えながら、足元の絵を踏みつけて次の展示室へ進むのだった。