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晩活の先での様々な形の「出会い」

晩活は彼らの行動を変えていった。晩活がなかったら、耕助と葵が連れだって特売セールに行くこともなかっただろう。仕事が忙しすぎて余裕のない優太が、部屋を掃除し、風呂にゆっくり浸かりたいという願望を持つこともなかった。さらに、ハウスキーパーを依頼するという形で「誰かに頼る」勇気を持つこともなかっただろう。職場で自分を見失い、自分が「記号」でしかないように感じることすらあった彼らは、晩活によって「人間を取り戻し」、閉ざしていた心を開いていった。その先には様々な形での人との「出会い」があった。
まずは「偶然の出会い」。冒頭に言及した第6話における近所に住む亀井との出会いが当てはまる。次に「過去との出会い」。第7話において、耕助は料理人時代の同僚・池岡(伊島空)に、そして葵は元妻・京子(北村優衣)に会って話すことを通して、忘れていた「あの時の自分」と再度向き合うことができた。特に、葵と京子という元夫婦の間で生まれたすれ違いの悲劇は、夫婦になることでどうやっても生じてしまう男女間の対等でなさと、それに対してどうすることもできなかった男性の苦しさを描いていた。

もう一つの出会いは今、一緒に働いている人たちとの「出会い直し」である。優太は、共に働く同僚である上野や先輩である木山(石田卓也)をそれぞれのタイミングでご飯に誘い、対話することを通して、それぞれが抱える想いや孤独に触れ、彼らの心をも動かしていった。そして、「未来との出会い」。耕助が、偶然見かけた「後継者募集」の張り紙をきっかけに夫婦が営む商店街の食堂を引き継ぐことになり、第9話で晩活メニューである「かぼちゃとズッキーニのほくほくグラタン」が食堂のメニューに加わるかもしれないと、優太に話す。それは、まさに3人だけの世界だった晩活が、広く社会へと繋がっていく光景だった。
彼らが抱える生きづらさはそのまま、社会が抱える問題であり、彼らの新しい出会いの数々は、そのまま彼らが増やしていく社会との繋がりである。そして晩活は、食堂を通して外へ外へと開かれていく。第6話で葵が「耕助ん家にくると明日が楽しみになるな」と言っていたように、葵の「明日を楽しみにする」ご飯が、商店街の人々の「明日が楽しみになる」ご飯になっていく未来。本作が示した小さくて大きな世界観は、そのまま、テレビのこちら側にある私たち視聴者の日常にまで続いていくような気がする。