ただ、晩ご飯を一緒に食べるだけの「晩餐活動=晩活」が心を癒やす、深夜の“晩活”グルメドラマ『晩餐ブルース』(テレ東ほか)が最終回を迎える。
高校時代の旧友だったドラマディレクター・田窪優太(井之脇海)と元料理人・佐藤耕助(金子大地)の2人が始めた「晩活」は、同じく旧友の蒔田葵(草川拓弥)も巻き込んで、優太の同僚・上野ゆい(穂志もえか)や木山高志(石田卓也)だけでなく、身の回りの社会にまで広がっていく。
彼ら彼女らが食べるご飯も美味しそうな本作について、第5話までを振り返った記事に続いて、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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優太、耕助、葵の3人が「帰る場所」を見つけた先で出会ったもの

ただ、晩御飯を一緒に食べるだけの「晩餐活動=晩活」によって、優太、耕助、葵の3人はそれぞれの「心が自由になれる時間=帰る場所」を見つけた。「帰る場所」を見つけた彼らの目は次第に外に向いていく。その先で出会ったもの。例えば、商店街で夫婦(今井吉清、藤夏子)が営む食堂に貼られた「後継者募集」の紙。特売セールで出会った高齢の男性・亀井(渡辺哲)の金言。「10年住んでるのに知らない景色ばっか」な近所の光景。外の世界は、大きな鏡となって、彼ら自身を映した。「最近、こうやって自分の手と手を合わせたり、組んでみたりよくやるんだよ。なんとなく自分のかたちが分かるような気がしてね」という亀井の言葉のように「自分のかたち」を確認しようとする彼らは、一度、心が立ち止まってしまった場所に立ち返る。そして、深呼吸をしてゆっくり前を向いた先にはきっと、新しい明日が待っているはずだ。
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『晩餐ブルース』が伝える「敢えて留まること」の重要性

『晩餐ブルース』が最終話を迎える。時代が急速に動き、前へ前へと進むことしか許されないようなムードが漂う中で、立ち止まることの重要性を説く作品が目立ったのが2025年冬期ドラマの傾向だった。お菓子教室という「サードプレイス」が舞台の『バニラな毎日』(NHK総合)は、主人公・白井(蓮佛美沙子)が、立ち止まってもいいし、どうにもならなくなったら人に頼っていいのだと思えるようになるまでを描いていた。3月16日に放送された特集ドラマ『どうせ死ぬなら、パリで死のう』(NHK総合)も、「悲観主義者(ペシミスト)」エミール・シオランの言葉に惹かれる昼間(岡山天音)と甥・幸太(森優理斗)を通して、前へ前へと歩を進める生き方ではなく、敢えて留まり、後ろ向きに生きることを肯定しているように感じた。
そして、仕事や人間関係に行き詰った男性3人が「晩餐活動」を拠り所としていく本作でもまた、春の到来を喜ぶ最終話直前の第9話、主人公の1人・優太が「休職」の2文字に辿りつく。それはきっと、前に進むために、敢えて留まることの重要性を伝えたいのだろう。こうした傾向は、自分の身体の悲鳴に気づけないままこのシビアな現代社会を突き進むしかない人々が、真に求めているものを告げているような気がする。