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『晩餐ブルース』が伝える「敢えて留まること」の重要性

『晩餐ブルース』が最終話を迎える。時代が急速に動き、前へ前へと進むことしか許されないようなムードが漂う中で、立ち止まることの重要性を説く作品が目立ったのが2025年冬期ドラマの傾向だった。お菓子教室という「サードプレイス」が舞台の『バニラな毎日』(NHK総合)は、主人公・白井(蓮佛美沙子)が、立ち止まってもいいし、どうにもならなくなったら人に頼っていいのだと思えるようになるまでを描いていた。3月16日に放送された特集ドラマ『どうせ死ぬなら、パリで死のう』(NHK総合)も、「悲観主義者(ペシミスト)」エミール・シオランの言葉に惹かれる昼間(岡山天音)と甥・幸太(森優理斗)を通して、前へ前へと歩を進める生き方ではなく、敢えて留まり、後ろ向きに生きることを肯定しているように感じた。
そして、仕事や人間関係に行き詰った男性3人が「晩餐活動」を拠り所としていく本作でもまた、春の到来を喜ぶ最終話直前の第9話、主人公の1人・優太が「休職」の2文字に辿りつく。それはきっと、前に進むために、敢えて留まることの重要性を伝えたいのだろう。こうした傾向は、自分の身体の悲鳴に気づけないままこのシビアな現代社会を突き進むしかない人々が、真に求めているものを告げているような気がする。